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田舎っぺ聖女様の花嫁奮闘記 〜 形だけの結婚と言ったのに、いつの間にか溺愛して来るクズな公爵様を躾けます 〜  作者: 鳥庭右京


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4話 魔法と料理は得意な方です



 ミラとカリムを乗せた蒸気機関車は王都に向けて走り出した。

 

 この世界には人間を積極的に襲う獣、“魔物”が存在する。徒歩や馬車で移動すれば魔物に襲われること必至だが、鉄道のレールと列車は魔物除けを施した特別な鉄を使用しているので安全である。


 また人間の盗賊も多数活動しているが、蒸気機関車の高速と、独自の武装に対応出来る者はほぼおらず、リスクを冒して襲撃する馬鹿はまずいない。従って列車の移動は極めて安全であり、途中停車駅も数カ所のみで1000キロ近い距離を走破。朝には王都に到着する快適な旅である。そのはずである。




「旦那様、お食事はどうされるのですかですわ」


 ミラはソファーの隣に絶妙な距離感で座るカリムに問う。2人は逃げるように公爵邸を出たので朝食を食べていない。全ての食事に毒味が必要なら、旅先ではどうしているのかと聞いているのだ。カリムは広げた仕事の書類から目を離すことなく返答する。


「外では極力食べない様にしている。一食分なら家から持参する事もある。今日は夕食だけ取るつもりだが、その時は秘書のマルコムが毒味をする」


 ミラはなるほどと頷いた。秘書マルコムは30後半でインテリタイプのおっさん。仕事が早そうだ。容姿は中の上だが、年齢的にカリムの愛人ではないだろうと女の感が告げている。


 カリムが男色家という話は悪意のあるデマ。実際は女性への興味が溢れている。けれど真実を知らない現段階では、ミラの中でカリムは男色家である。


 問題は受けか攻めか。はたまたリバなのか。年頃女子の多分に漏れず、ミラもBLはイケるくちだ。


 それはさておき。(閑話休題)


「今はお腹は空いていませんか? しっかり食べないとお体に悪いのでは、では?」


 ミラは自分が空腹だった。そしてちょっとだけカリムの栄養状態が心配だった。


「私は慣れている。食べたいなら君は好きにすると良い。毒味が必要なら護衛にやらせろ」


 返事は素っ気ない。新妻に対する気遣いがここまでないと、イケメンでも許される範疇を越えている。けれどミラは気にしない。否、ミラにとっては怒る価値もない程度であった。


「よろしけば私が毒味をするっぺます。一緒に遅い朝食を取りませんことかしら?」


「……君が?」


 カリムはミラの申し出に、ようやく視線をミラへと向けた。そして好意とは違う、疑わしい表情でミラの瞳を覗く。


 カリムは24時間365日命を狙われているわけでは無い。今一食分、走る列車の中で予定外に注文しても、毒を盛られる確率は限りなくゼロだろう。それでも身に付いた習慣、暗殺への恐怖は深く染み付いて離れない。出会ったばかり、夫婦になったばかりで信頼関係の構築されていない相手の毒味は信用出来ない。それが本音として顔に表れていた。


「私、毒検知魔法を使えますわ」


 ミラはなんでもない事の様に答え、余裕の笑顔でドヤァと返した。


「馬鹿な、毒検知魔法は高度な魔法だぞ。それに、熟練度によって検知可能な毒の範囲が変わる。君がどの程度使えると言うのだ」


 毒には有機系と無機系があり、種類も無数にある。一般的に薬となる物も大量なら毒となり、ただ魔法を使えるだけでは不十分であり、毒に対する深い知識が必要となる。カリムは目の前の愛らしいロリ巨乳に高度な毒検知魔法が使えるとは思えなかった。


「うふふ。ペーターランドでは毒検知魔法はその辺の牧童でも使えますわ。山には牧草も毒草も毒鉱石も豊富にありますもの。毒の判別も出来ない愚か者に畜産家は務まりません」


 ミラは自信に満ちていた。ペーターランド舐めんなよと、ちょっと強気に言ってみた。


「ふっ。それが本当ならペーターランドは魔法大国だな」


 カリムは冗談だと受け取ったらしい。鼻で笑う仕草がムカつく。


「他人が信用出来ないなら、私がお食事を作ります」


「はぁ?」


 小とは言え、伯爵令嬢が自分で食事を作る。荒唐無稽なミラの申し出に、カリムは会話を続けるのが馬鹿らしくなった。


「好きにしたまえ。本当に作れるなら食べよう」


「かしこまっぺ」


 ミラは軽く頭を下げると部屋を出て、外に待機していた秘書マルコムと巨メイドヌッコに事情を説明した。


「と言う訳で、車長の許可を取って下さいなだっぺ」


 マルコムは意味が分からないとヌッコを見る。ヌッコもまた、理解不能であるとマルコムを見る。想像の埒外であるミラの行動に、年齢差を越えて意気投合するのだ。


「んもぅ! 旦那様がお腹を空かして餓死寸前ですよ。いいから付いて来なさいっぺ!」


 本当は、餓死寸前はミラの方だ。神の奇跡を顕現した見事な巨乳を維持する為に、必要なカロリーは膨大なのである。


 ミラは先頭に立って歩き出した。ヌッコとマルコムは後を追うしかない。途中で乗務員を捕まえ、公爵家権限で厨房と食材を使わせろと交渉(強制)する。


 許可が降りると腕を捲くって狭い厨房に入り、列車の料理長を押し退けて調理器具と食材を確認。手早く作れる軽食を思い浮かべた。


(サンドイッチだべな。ハムとチーズと葉野菜と、それと簡単に根菜のスープだべ)


「おいおいおい。公爵夫人だか何だか知らないが、ここは俺の城で戦場だ。おままごとならさっさと終えてどいてくれよ」


 ハゲ頭の強面料理長は身分差もわきまえず、腕を組んで不遜な態度。ミラのする事なす事を、一挙手一投足監視しようと巨乳をガン見する。それはマルコムとヌッコも同じ、厨房の隅でミラを見守っている。


「お邪魔してごめんだっぺ。すぐに終わるだで、待っとってちょ〜よ」


 ミラは料理長の威圧など気にも止めず、冷蔵庫から必要な食材を取り出して並べ、毒検知魔法を発動した。


「毒検知発動。……あらら?」


 すると思いかけず毒物を検知してしまう。それは用意した食材ではなく、冷蔵庫に仕舞われたニ等客室用の弁当からである。


「料理長さん、ちょっと」


「あっ! なんだ!」


 手招きしてハゲ頭を呼ぶ。


「冷蔵庫のお弁当はなんだべですわ?」


「おめぇ〜、アレはニ等客室用の弁当だ。一等客室の食事は厨房で俺様が最高の料理を作る。ニ等客室の食事は予め他所で作っておいた高級仕出し弁当を出す。一般客は勝手に用意する。知らんのか」


 知らんのかと言われても知らんわ。ミラは生まれて初めて列車に乗ったのだから。それはさておき、ミラは弁当に混入した毒物を料理長に伝えた。


「お弁当にヌチョヌチョ茸が入ってるっペ。秋のこの時期は、高級茸のヌメヌメ茸とよく似たヌチョヌチョ茸を間違える食中毒がよくあるで、気をつけないとイケませんですわ」


「なんだとっ!」


 料理長は憤怒の表情を浮かべて弁当の一つを開けた。


 通常、毒検知魔法は目の前の品しか調べられない。言い方を変えれば、目の前の品にだけ集中しないと正しい結果を出せない。しかしミラは離れた場所の、しかも冷蔵庫に入った弁当にヌチョヌチョ茸が混入していると言う。


「嘘だったらオメェ! その巨乳を揉ませて貰うからな!」


 ハゲ頭料理長はプロだ。毒茸なら見た目、匂い、味で判断出来る。弁当の中にある茸料理を見て嗅いで、ほんの僅かに口に含んで調べ倒す。ミラの言葉が嘘なら若い巨乳を揉み放題である。


「そ、そんな馬鹿な……」


 結果、料理に使われていたのはヌメヌメ茸ではなく、毒茸のヌチョヌチョ茸であった。


「お客様に出す前で良かったべ、ですわ。では、厨房を使わせて頂きますね」


 ヌチョヌチョ茸の毒は死ぬ程ではないが、嘔吐と下痢を引き起こす。逃げ場のない列車内で集団食中毒が起きれば大惨事となっていただろう。それから乗務員と料理人達は大騒ぎとなった。


 騒ぎをよそに、ミラは慣れた手つきで素早くサンドイッチと根菜のスープを作り上げた。伯爵令嬢とは思えない手際。それに味見(毒味)したマルコムとヌッコを唸らせるほどの美味。


「ペーターランドの女なら当然です」


 得意気に揺れる巨乳が憎らしい。ミラは料理をワゴンに乗せて、クズ外道なカリムの下へ急いだ。空腹が限界に近かったからだ。


「お待たせですわ、旦那様」


「……本当に君が作ったのか」


 脇に控えるマルコムとヌッコに視線で問うカリム。2人は無言で首を縦に振って肯定する。


「毒味は済んでおります。お口に合えば良いのですが」


 ミラがサンドイッチと根菜のスープを取り分けて渡すと、食欲を誘う芳醇な香りが鼻をくすぐる。カリムは恥じらいを忘れて喉を鳴らし、スープを一口。


「美味しいっ!」


 カリムは美味なる食事に抗える精神力を持ち合わせていない。一度口にすれば完食するまで止まらない。


「お気に召して何よりずら。夕食もオラ、いえ、私がお作りしましょうかっぺ?」


「モグモグッ! 可能なら是非頼む! ゴクン!」


 ミラは嬉しかった。カリムは女性を蔑ろにする自分勝手なクズである。けれど美味しい物を素直に美味しいと言える純粋さはある。クズとの結婚生活も、相手の良い所を見つけ出せれば何とかなるだろうと、希望を持てた。



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