26話 俺が女でお前が男の娘
「乳デカお嬢様だ! 孤児院に来るって言って来ないから、気にしてたんだぜ!」
「お、お!」
リュカとカナリヤは驚きながらミラへ駆け寄った。
サラサラとした金髪、端麗な容姿、ラピスラズリの瞳。加えて無礼な物言い。それらを総合して、ミラは何故か、リュカの姿が夫カリムに重なってムカつく。
「乳デカ言うなし!」
ビシッ!
「アウチッ!」
「うっ〜!」
デコピン攻撃、リュカの頭が仰け反った。カナリヤは見ただけで痛いのが分かり、自分のおでこを両手でガード。
「さて、お二人さん」
ミラは腕を組んで2人を睨む。巨乳がムニュと強調される。ブラジャーに擬態したスライムキングもプルンと揺れる。
「な、なんだよ? 自慢かよ」
「う〜」
「身体強化魔法も使えないヨワミソが、アホみたいな装備で中級ダンジョンへ潜るなんて死にたいのかしら?」
物事には段階がある。まともな冒険者になりたいなら、まずは誰かに教えを受けて、基本となる身体強化魔法を習得。それから低級ダンジョンで魔物との戦いを馴らして行く。それが常道。
「だ、だってさ、お嬢様に渡す報酬を稼がないといけないからさ。それに、王都には低級ダンジョンがないんだよ」
リュカは血の滲むおでこを気にしながら恐る恐る言い訳をした。
曰く、蒸気機関の普及で魔石の需要は爆上がりしている。見習いとして働く日当よりも、魔石数個の方が高い値になる事もある。中級ダンジョンでも、一階層の魔物ならイケると思った。デミゴブリンなんて立って歩く猿だし、木刀で殴ればイケる気がした。今は反省している。
「愚か者。ですわ。あなたが死ぬのは自由だけれど、お友達を巻き込むのは駄目。それに私への支払いを済ませてから死になさい」
ミラの言い分は至極真っ当であった。けれどリュカは「ムッ」と顔を歪めた。
「お嬢様に報酬を支払う為に頑張ってる。確かに少し無謀だったかもだけど、俺達孤児には手っ取り早く金を作る方法なんて、コレ意外は体を売るしかないよ。お金持ちのお嬢様には分かんねぇだろうけど」
孤児として育った卑屈な思考と、自分とは真逆に恵まれているお嬢様に対する反感が溢れ出す。
ひがみ、ねたみ、八つ当たり。分かっていても、強いお供を連れてブイブイ言わせる巨乳のミラが気に入らない。
「分かりませんわね。私、両親からもきょうだいからも愛されて育ちましたから品が良いのです。貧しさに負けて卑屈になる、お馬鹿な子供の気持ちは理解不能ですわ」
「なんだと!」
リュカは激怒する。ヌッコは周囲を警戒しつつ、2人のやり取りを聞きながら、酷い言い方だと思った。これではまるで悪役令嬢だと。
「ちくしょうー!」
リュカは感情に任せて飛び掛かる。
「お馬鹿」
ミラは蝶の様に舞い、素早くリュカの背後をとると、脇腹に手を回してコチョコチョの刑に処す。
コチョコチョコチョコチョコチョコチョ。
「わははは! や、やめろ! やめて! ごめんなさい! 許して下さい〜!」
沸点が低くく、謝罪も早いリュカである。
「ガリガリでプニプニした軟弱な体で私に勝てるとでも?」
尚も続くコチョコチョ。
「あん! だめ、やめ、て。あっ、うぅん〜♡」
ミラのハンドテクに身悶えるリュカである。
「おぉん? 男の子にしては妙に柔らかい体ね。それに声も艶っぽい?」
不自然極まりないリュカの反応。ミラは全ての謎を解くために、禁断の聖地おっぱいへと手を伸ばしたのである。
「わ〜! だめ! だめ! 本当に、だめ〜!」
リュカは体をよじって逃げようとした。脚は内股となり、腰が引けている。本来は神々が人の試練に創りし戦いの場、ダンジョンである。なのに今は、美少女の甘い声が響いているのだ。
「うっ〜! だっ! うっ〜! リュ、カ!」
盛り上がるミラとリュカ。それを危険と感じ取ったカナリヤが、決死の覚悟で止めに入った。
「や、め! や、め! リュ、カ! にげ、て!」
ミラの腰に抱き着いて、リュカを守ろうと必死になるカナリヤ。身体能力が50倍中のミラはビクともしないが、我に帰るには十分な刺激であった。
「おっと、やり過ぎましたわ。ごめんあそばせ。ほほほ」
「はぁ〜、はぁ〜、はぁ〜、はぁ〜、はぁ〜〜〜」
「リュ、カ。だじょび?」
床にへたり込こみ、両腕で胸を守るリュカ。そっと寄り添って肩を抱くカナリヤ。絵面的には尊い。
「あなた、女の子ですの?」
ミラはズバリ聞く。聞くまでもないけど。
「そうだよ! 悪いかよ! 俺の体をもて遊びやがって!」
「うっ! うっー!」
リュカは涙目で抗議した。
カナリヤも睨んでいる。
ミラは少しだけ、萌えた。
「男装の美少女もアリですわね。紫縦ロール様とクラーラ様が喜ぶかも?」
ミラは顎に手を当てて異次元に思考を飛ばした。頭の中は今、薔薇と百合が勢力争いをしている。
「奥さ、いえ、ミラお嬢様? この子達はどう致しますか?」
しかし現実は、ミラの優雅な思考遊戯を許してはくれない。ヌッコの声に呼び戻されて、ミラは目的を思い出した。
「そうですわですわ。夕方までに冒険者ギルドに戻らないと怪しまれますですわ」
ミラとヌッコの冒険は公爵家にはナイショである。帰りが遅くなると、御者頭のトムと護衛達に秘密がバレて、カリムに怒られてしまう。
「お嬢様、乗りかかった船と申しますし、このまま女の子2人を置いて去るのは如何なものかと」
せっかく助けたのにここで別れたら、また魔物に襲われて2人は死ぬとヌッコは言っている。
リュカは生意気だから、見捨てても罪悪感は70パーセントだと言う。
カナリヤは母性をくすぐるので絶対に見捨てられないと言う。
ここは一旦引き返して、ダンジョン攻略は後日改めてと言う。
ミラは悩んだ末に、決断を下した。
「仕方ありませんね。報酬も貰っていませんし、アホバカの女の子を2人も見捨てたら、流れ任侠サムウェイの矜持に反します。だから……」
ミラは言葉を続けようとしていた。
そこへリュカが割って入る。
人の話を遮るのはマナー違反である。
ヌッコは注意しようと目を細めたが。
「あの、俺は女だけど、カナリヤは男の子だぜ?」
「はい?」
「なんて?」
衝撃的な言葉に耳を疑う。
南国の海の様に青い髪。クリクリお目々にぷくぷくホッペ。高く通った鼻。小さなお口と細い顎。庇護欲をそそる小さな体。その全てを統合すると、女の子という結果になる。普通ならばだ。
「だから、カナリヤは男の子。髪を伸ばしてるから間違われる事が多いけど、これは母親と再会する為の願掛けなんだ。心はちゃんと男の子だぜ?」
「うっ!」
カナリヤは「そうだ!」と言わんばかりに拳を握った。それは、とても萌える仕草であった。これは、捨て置けない。
「うおおぉぉー! だっぺ! リアル男の娘来たー!」
「男の子! これで男の子! めちゃくちゃ可愛い〜!」
ダンジョンに腐敗した悲鳴が響く。ここは、神々の創りし試練の場云々……。
「お嬢様、これ、これ、これですよ!」
ヌッコはカナリヤを抱きしめて撫で回す。
「うっ! あ! うぅー!」
「間違いないべ! これ、紫縦ロール様とクラーラ様に会わせたら間違いないヤツだべさ!」
ミラは腐女子的な戦果にワクワクが止まらない。
「カナリヤにベタベタすんなよ! 精通したらどうするんだよ!」
リュカはカナリヤを助け出そうと全力を込めて頑張った。デカ美女VS男装美少女が、美少年の腕を引いてグイグイギュウギュウと。
「あっ〜! うっ〜! めっ〜!」
カナリヤが痛がって鳴き声を出す。2人は同時に手を離す。こういったケースでは、先に手を離した方がより愛情が深いとされているが、今回は引き分け。
「大丈夫か、カナリヤ!」
「はわわ〜、ごめんなさいカナリヤちゃん!」
「う〜、う〜、う〜」
反省したヌッコは、今度は優しくカナリヤを撫でる。カナリヤの頭を胸に抱いて「よしよし」
「う」
カナリヤは顔を赤くして、大人のお姉さんに身を委ねた。
「さてと、話が中断しましたが、よろしいかしら」
ミラは話を先に進めようと提案。
ヌッコは我を忘れた自分を恥じながらも、カナリヤを離さず可愛がる。リュカは成果も無しにダンジョンを出る事に焦りを感じて不満顔。
「私達は夕方までにダンジョンを攻略しなくてはなりません。ハッキリ言って貴女方は邪魔なので、このまま連れて行きます」
ミラは決定事項を伝えた。この場では公爵夫人たるミラの言葉が最上にして絶対である。
「お嬢様、足手まといなのに連れて行くんです?」
「夕方までにダンジョン攻略? 何言ってんの?」
「あ〜ん?」
「問題ありません。その方が結果的に早いので。私、たまにしか失敗しないので」
常識では測れない聖女の思考である。
戸惑う3人。事態は容赦なく進んで行く。




