21話 デートから始める新婚生活 ①
秋の収穫を終えて冬になる。すると貴族達は社交に精を出す。これは古くからの伝統である。
今でこそ家の暖炉には常に火が灯り、雪が降っても鉄道が走って各地を繋げているが、昔は雪と氷に閉ざされる冬はする事がなかった。
戦争はお休み。農業もお休み。冬の狩りは寒さと雪が洒落にならないので貴族はやらない(平民の専業猟師に任せる)
外に出れない、ずっと家の中にいる。そうなると暇だ。とても暇。暇な時間をどう過ごすか。有効な使い道はないか。考えた末に誰かが閃いた。
そうだ! 宴会をやろう!
冬に客を集めて宴会をする。それは秋の内に大量の食料を貯めた証。つまり財力を示す事になる。人を集めて饗す。力の差を見せ付け、恩を売り、自分の派閥に組み込む。そうして雪解けと共に始まる戦争に備える。
貴族よる冬の社交界はこうして始まった。
(あくまで異世界のお話です)
◇◇◇◇◇
「夜会の招待状が多数届いております。どれに出席なさるかお選び下さい」
ミラ専用の執務室。執事マッシュは冬の社交界の始まりを告げる夜会の招待状を束で持って来た。
「えっと、旦那様のご意向は?」
招待状の束に戸惑うミラ。全ての招待を受けていては身が持ちそうにない。かと言って、重要な関係の貴族がどれか、まだ把握しきれていない。間違って友好的な貴族の誘いを断り、敵対関係の貴族の夜会に参加しては目も当てられない。従ってミラ一人では選べないのだ。
「去年まではカヌレ大奥様が対応なされておりました。今年からはミラ奥様が対応する様にと仰せつかっております。公爵様は基本、上司である大蔵大臣のステッセル侯爵様のお誘いと、年の最後に開催される王家の大舞踏会しか参加されません」
「では、それ以外は私1人で参加しろと?」
ミラは嫌な予感に眉間にシワが寄る。
「そうとは限りません。ご夫婦ですので、ミラ奥様が公爵様の手綱を握って頂ければと存じます」
マッシュは深く頭を下げ「お前が何とかしろよ」とプレッシャーをかける。結婚したんだから、去年までと同じじゃ困るんだよ、と。
「ご安心下さい。不肖マッシュ、ミラ奥様の補佐を全力で務めさせて頂きます。手始めに、公爵様のご親友コーラル様のご実家の男爵家の夜会は如何でしょう?」
例の、ミラが好みでどストライクと叫んだ巨乳ロリ好きの変態だ。間違いなく味方であり、男爵家で規模も小さいので気楽だろうという配慮。
「分かりました。旦那様に相談して説得してみます。駄々を捏ねる様なら、泊まり仕事の時のお弁当を白米と梅干しだけにすると脅します」
「お願い致します。それと、今年は公爵様のお誕生日に当家でも夜会を開催する様にと、カヌレ大奥様から指示されております。ミラ奥様にはそちらの準備と招待客の選定もお願い致したく」
「ふぉあっ! 旦那様のお誕生日? 聞いてないんですけど!」
結婚してから初めて知る重大な事実にミラは猛抗議する。そういうの、ちゃんと教えてくれる?と。
「申し訳ございません。今、お伝え致しました」
「おいっ! お前もか!」
どうやらカリムの性格は執事のマッシュの影響を受けているっぽい。
「おほん。それで旦那様のお誕生日は何時ですか?」
「はい。11月20日でございます」
これでカリムは23歳になる。ちなみにミラの誕生日は1月10日だ。
「残り一ヶ月もないではありませんか」
「先代公爵様がお亡くなりになってから初めての試みですので、ごく親しいご友人のみをご招待した小さな夜会でよろしいかと。それならミラ奥様の練習にも丁度良いかと」
マッシュは無理をしなくて大丈夫だと言う。ミラには王都に友達がいないだろうから、招待客は数える程度になるだろうと言う。ミラはマッシュにボッチと言われ、少し頭に来た。
「旦那様のお誕生日。何かプレゼントをしたいです」
結婚して初めての誕生日。思い出になる何かをしてあげたいと考えるのは、可憐な乙女心である。
「侯爵様も喜ばれるかと存じます。ミュレリ商会に相談してみましょう」
お金で解決するなら話は早い。しかしペーターランド育ちのミラは、もっと想いの籠もった贈り物をしたいと思った。
◇◇◇◇◇
次の日の朝食。今日、カリムは休日だ。久しぶりに仕事から離れ、のんびり出来る週に一度の特別な日である。
「旦那様、よろしいべか」
「うん?」
食後のお茶を飲みながら、ミラは夜会に関する相談を持ち掛けた。
「今年は夫婦揃って幾つかの夜会に参加する様に、お義母様から言われたべ。なんで手始めに、お友達のコーラル様のご実家の夜会に2人で参加したいと思う。良かですかね?」
「コーラルのか。まあ、ガイオン男爵家なら良いだろう」
「ほんまか? 嬉しいべ」
「奴なら気兼ねしなくて済むからな。毒検知魔法は君に頼む」
「お任せだべ!」
ミラは小さくガッツポーズを決める。
「それから、旦那様のお誕生日会もこの屋敷でやるっペ」
「私の誕生日だと?」
カリムは途端に嫌な顔になる。
「お義母様の指示じゃん。絶対にやらないと怖いやん」
「む、そうだ、な。……そう、か」
歯切れが悪い。心底嫌そうだ。けれどカヌレ夫人の名を出せば諦めるカリム。
「それで、オラのお友達も招待して良か?」
ミラは可愛らしくおねだりする。
「君の友達? 構わんが、ペーターランドの友人か?」
「うんにゃ。新しく出来た友達だっぺ」
「ほう? 新しく」
カリムはミラの後ろに控えるヌッコに視線を送った。その友達は身元のハッキリした安全な人物なのか知りたいのだ。
「こく、こく」
ヌッコは無言で首を縦に振って肯定。ただし、表情は機械の様に無表情だ。
「君の友達なら招待するのが筋だろう。で、誰だ」
カリムは何処の誰か聞きたかった。貴族なのは当然として、なに家の誰さんかを。
「それは秘密だっぺ。当日に紹介するんで、お楽しみ」
ウインクを返すミラ。カリムはその仕草が嫌いではない。
「それから、参加する他の夜会なんやけど……」
カヌレ夫人の命令は絶対である。新婚夫婦の挨拶も兼ねて、友好的な貴族の招待は受けねばならない。
「嫌だが仕方ない。しかしそれだと、君のドレスと宝飾品も新しく購入しないといけないな」
「ふぇ? 新しく、だべか?」
シーズン毎に流行に沿ったドレスや宝飾品を新調するのが上級貴族夫人の常識だと言う。形だけとは言え、公爵夫人になったのなら、相応しい装いがあると言う。
「え、遠慮します! ドレスなら、お義母様から頂いたのが山のようにあるで、それを今風に仕立て直せば済むっちゃね!」
ペーターランド育ちのミラは贅沢を嫌う。大自然は無駄を嫌うのだ。欲望を優先して無駄を重ねれば、大自然は必ず報復を行う。だから袖を通していないドレスが多数あるのに、新調するなど以ての外なのである。
「君が良いならそれでも良い。ミュレリ商会を呼んで、流行に倣った物に作り直させよう」
「はい〜」
「だが」
「はい〜?」
カリムはミラが思いも寄らない事を言い出した。
「宝飾品は新しく購入する。そもそも君は、宝飾品をほとんど持っていないではないか。それでは夫である私の器量が疑われてしまう。今日、これから買いに行こう」
「はい〜???」
「形だけの結婚と言ったのに、君にはずいぶんと苦労を掛けているようだ。王都観光もまだだろうし、今日は一緒に南区へ行こう。港があるので良い店が多いのだ。私にとっても息抜きになる。どうだ?」
突然の申し出。これはいわゆるデートである。
ミラの心臓は意外にも高鳴った。




