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田舎っぺ聖女様の花嫁奮闘記 〜 形だけの結婚と言ったのに、いつの間にか溺愛して来るクズな公爵様を躾けます 〜  作者: 鳥庭右京


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14話 故郷へ



 戦いは終わった。

 痔の治療薬を求めたマンドラゴラ採集から始まり、金髪美少年リュカに依頼されたブーヤンとカナリヤの救出。それから偶発的に発生したスケルトンジェネラルとの死闘。これが数時間の内に起こった事など、他人に話しても信じてもらえない過密さだ。


「奥様、スケルトンジェネラルはいったい?」


 ヌッコは恐る恐るミラへ尋ねる。

 ミラが見せた超常の力の全てが伝説の聖女の力だと知ってしまったからだ。変わり者の奥様だと思っていたら、世界に1人だけの聖女様であった。畏れ多くておしっこちょびっとチビりそう。


「オラはオランス王国の歴史を知らないっペ。ヌッコの方が詳しいんでないの」


 ミラは肩をすくめて首を振る。むしろ、プロダンス大将軍が何者か教えて欲しいと逆に問う。


「そう、ですね。200年ほど昔になります。当時は魔除けの鉄が無く、人の領域はもっとずっと狭かった。隣国プロシュット帝国は豊かな土地を求め、オランス王国を侵略しようと大軍を送ったのです」


 近隣諸国に名を轟かせた名将プロダンス大将軍。彼が指揮する大軍はオランス王国軍に勝利を重ね、ついには王都まで50キロ以下の距離まで迫った。


「しかしです。オランス王国軍の敗北は、天才軍師ミールコープの作戦だったのです。敗北を偽装してプロダンス大将軍を渓谷に誘い出し、狭く逃げ場のない一本道で、前後左右から強襲。包囲して殲滅しました。プロシュット帝国軍の死傷者は全体の7割に及び、戦死者の中にはプロダンス大将軍もいたそうです。以来、この渓谷にはプロシュット帝国軍兵の怨念が残り、アンデット系の魔物が住み着くようになり、立ち入り制限区域となったのです」


「そげか」


 ミラは目を閉じて、腕を組んで頷いた。


「人の魂も魔物化するけん、プロダンス大将軍もそれだっぺな。総指揮官が成仏したから、アンデット化した兵士も徐々に減っていくやろ」


 ミラは納得して、足下で存在感を放つ2つのドロップアイテムに視線を移す。Aランクの魔石と大剣。これは討伐者に所有権がある。売っても良いし、自分で使っても良い。売った場合、平民なら10年遊んで暮らせる額になるだろう。


「さて、王都に帰るべ。そこのアイテムはヌッコの物だで忘れずに」


「私の、ですか? それは出来ません。私の実力ではスケルトンジェネラルには勝てませんでした。全ては奥様の、いえ、聖女様のお力があったからこそです。だからアイテムの所有権は聖女様にあるかと」


 聖女と呼ばれ、ミラは凄〜く嫌な顔になる。


「オラは聖女ではなかよ。普通の美少女ミラだっぺ。それより早く帰らないと、御者頭のトムさんとの約束の時間が来てしまうべよ」


 ヌッコは「あっ」と思い出した。御者頭のトムには4〜5時間で用事が済むとミラが言っていた。ならば残り時間は2時間を切っている。


「大変。子供達はどうしますか? 私が担いで走りましょうか?」


 それまですっかり空気と化していたブーヤンとカナリヤを見る。2人は中サイズのスライムの上でスヤスヤと眠り続けている。睡眠魔法が解けていないのだ。


「眠っていたのは逆にさいわいでした。戦いの最中にパニックを起こされたら隙が生まれていた」


 ヌッコは2人の安らかな寝顔を慈しむ。ブーヤンはどうでもいいが、カナリヤはとても可愛く母性をくすぐられる。


「せやな。そんで帰りやけど、スライムが送ってくれるって」


「ん? は?」


「なんか、そっちのバカデカいスライムジェネラルも、こっちの中くらいのスライムも、同じスライムらしいべ」


「おおん? 奥様は、スライムの心がお分かりに?」


「うん。頭に心の声が聞こえるべよ。動物とか魔物とか、何となく気持ちが伝わるべ」


「へ、へぇ〜。(それってやっぱり、聖女の力なんじゃ)」


「でもスライムは初めてだっちゃ。スライムも大きくなると自我が生まれるんやね。勉強になった」


 その後、ミラはスライムジェネラルの背に乗って、ヌッコと子供達は中スライムの背に乗って王都へと帰還する。


 スライムの速度は時速100キロを超える。なのにクッション性抜群で快適な乗り心地。あらゆる地形を難なく走破して、出会った魔物は恐怖で逃げて行く。王都に到着するまでの30分弱は充実した時間であった。


 スライムに乗ったまま王都には入れない。都市手前の畑で停止する。ミラがスライムに呻きの渓谷に帰るのかと尋ねると、一緒に行きたいと言う。巨大スライムは無理と諭すと、小型化出来ると言う。それならばと許可を出すと、スライムジェネラルと中スライムはグニグニと融合。超巨大スライムキングへ進化した。


「奥様、スライムキングはSランクの魔物ですよね? しかも半ば伝説の存在です。これはまずいですよ」


「がっぺ。こっから小さくなれんの?」


『キュイッ!』


 ミラの声に応え、スライムキングはブルッと震えると縮み出した。みるみる間に小型化し、最終的には鶏卵サイズで落ち着く。外見だけは半透明で水色の小型スライムだ。


「可愛いっぺ」


「なかなかですね」


 小型スライムキングはピョンピョンと跳ねてミラの肩にライドオン。嬉しそうにグニグニと揺れた。


「うう〜ん、ここは?」


「あ、う、う〜」


「子供達が目を覚ましました」


「大丈夫そやね。一応、聖回復。えいっ!」


 ブーヤンとカナリヤが目を覚ます。寝ぼけて朦朧としている内に聖回復を食らわす。これで肉体的には問題なし、聖女だとバレる事もない。


「わっ! 姉ちゃん達誰だ! 変態野郎は?」


 いち早く覚醒したブーヤンがカナリヤを庇う。


「安心なさい。男は成敗しました。ここはもう、王都近郊ですよ」


 ヌッコは優しい声で説明した。主にカナリヤに対して。ミラも加わり2人を安心させるよう努める。


「私とデカい彼女は、あなた達のお友達、リュカ君に救出を頼まれた冒険者です。彼ったら、2人を助ける為に身売りする覚悟までしたのです。素敵な友情ですね。良いお友達を持てて幸せです」


(奥様が標準語に戻ってる。相手によって器用に使い分けるなら、会話の全部を標準語にすればいいのに)


 ヌッコが面倒臭いミラの二面性に気が付いた瞬間である。


「リュカの奴が助けを呼んでくれたのか。そうか、俺達を見捨てなかったか」


「リュ、カ」


 安堵する2人を伴って、ミラ達は冒険者ギルドへと帰還した。不安の中で待ち続けていたリュカ。仲間の姿を見つけると、嬉しい泣き顔を作り2人に飛び付く。


「ブーヤン! カナリヤ! 良かった無事だった!」


「リュカも無事か!」


「あ、う」


 抱き合う3人の友情が美しい。周囲の冒険者達も、この瞬間だけは邪魔をする無粋はしないようだ。


「デカ乳お嬢様、デカ姉ちゃん、本当にありがとう」


 リュカは深く頭を下げる。しかし呼び方が無礼である。


「良くってよ。報酬はちゃ〜んと頂きますもの」


 ミラはデカ乳と呼ばれた事を少しだけ根に持った。


「覚悟は決めた。なんでも言ってくれ」


「待てよリュカ! これは俺達3人で背負う事だぞ! 報酬の支払いなら、3人割りだ!」


「う」


「ブーヤン、カナリヤ、すまない」


 感動の場面。友情の余韻に浸らせてあげたいが、ミラ達には時間がない。約束の時間を過ぎると御者頭トムに怪しまれる。


「3人は北区教会孤児院で暮らしているのよね」


 ミラは確認する。これは重要な事だ。


「そうだよ。逃げも隠れもしないぜ」


「逃げても隠れても捕まえるから、そこは大丈夫なの。それより、教会なら墓地が併設されてるかしら?」


 教会と墓地はセット。これは一般常識。ミラは期待を込めてリュカの返事を待つ。


「あるぜ。夜になると幽霊が出るから怖いんだ」


「ビンゴ!」


「うわ! なんだよデカ乳お嬢様!」


 ミラには計画がある。今回、幸運にもマンドラゴラの種を手に入れた。これを人工栽培出来れば大儲け、薬草の品質も爆上がりしてみんなハッピー。


 問題は、マンドラゴラはジメジメして不成仏霊が彷徨う場所でしか育たない事。こまやかな手入れが必要なので手間が掛かる事。超高級薬草なので栽培の秘密を守れる世話係が必要な事。それらの諸問題を目の前のリュカが解決してくれるかもしれない。


「近い内に教会へお邪魔します。神父様に伝えておいて下さいな」


 ミラはニッコニコである。


「分かった。でも俺達3人の問題だから、教会と孤児院は巻き込まないでくれよ」


 リュカ達はとても不安になった。


「大丈夫(悪い意味では)巻き込まないわ。むしろお互いが得をするお話があるのです。おほほほ」


 高笑いするミラ。3人組は助けを求める相手を間違えたかも、と思いながら孤児院に帰って行った。


「さてヌッコ。一つお願いがあるんだべ」


 3人組を見送り、ミラは切り出した。


「標準語で話して下さい奥様。それでお願いとは?」


「スケルトンジェネラルのドロップアイテムをオラに譲って欲しいっぺ」


「アレですか? アレなら奥様の物です。お好きになさって下さい」


 ヌッコはアイテムの所有権を主張する気などない。身体強化魔法も、聖輝付与も、謎の聖戦士任命も。何もかもミラの聖女の力であるからだ。アレだけ力を貰って自分の手柄だと言える恥知らずがいたら見てみたい。


「ありがとうだっペ。でも、何らかの形でお礼はすんでね(旦那様が)」


 ミラはアイテムを受け取ると受付カウンターへ向かった。例の受付嬢のカウンターである。


「ひいっ! お嬢様、お帰りなさいです!」


 受付嬢はビビリまくっている。


「見ていたから分かるでしょうけど、ご報告します。リュカ君の依頼を達成しました。誘拐犯の死霊使いは呻きの渓谷で脱糞後行方不明。おそらく社会的に死んだのではないかしら」


「は、はい! 死霊使いの事は憲兵隊に報告して、ギルド内でも情報共有して危険人物指定させて頂きます!」


「それと、呻きの渓谷でスケルトンジェネラルと遭遇戦になって、うちのヌッコが単独討伐しました。よろしくて」


「スケルトンジェネラルですか? あの、ネームドモンスターのプロダンス大将軍?」


 ネームドモンスターとは、個性を持った特別強い個体をさす。例として、通常のスケルトンジェネラルはAランクの魔物。ネームドモンスターのプロダンス大将軍はSランクの魔物になる。同じ魔物でも、脅威度が一段上がるのだ。


「いやいや、嘘でしょ。Sランクの魔物は単独討伐不可能です。それこそ、オリハルコン級冒険者でもない限り……」


 途中まで言って、受付嬢は「はっ!」と息を呑んだ。

 目の前のミラはオリハルコン級冒険者。そのお供なら、近い実力を持っていても不自然ではない。


「あの、プロダンス大将軍を討伐って、ガチめです?」


「ガチめですわ」


 ミラは笑顔でカウンターに魔石と大剣ヴァルキリーイーターを置いた。


「ひぇっ〜! こ、これ!」


「プロダンス大将軍のドロップアイテムですわ。それでね、冒険者ギルドにお願いがあるのだけど」


「な、な、な、な、な、な、なに?」


「これをプロダンス大将軍の遺品として、ギルド経由でプロシュット帝国に返還してもらえるかしら?」


「はひっ? 買い取りではなく、返還?」


「そうです。歴史遺物として、遺品を故郷に返してあげたいのです。よろしくて?」


 ミラと受付嬢のやり取りを見守っていた冒険者達は驚愕した。何故なら冒険者の常識を逸脱した理解不能の行為だからだ。彼らにとって、魔物からの戦利品は物でしかない。高値で売れるお宝を、無償でくれてやる理由など存在しないはずなのだ。なのにミラは、プロダンス大将軍のドロップアイテムは故郷に帰るべきだと言う。人として葬られるべきだと。


「ギルドマスターに相談させて下さい。その、時間が掛かるかもなので、ご連絡先をよろしいですか?」


 受付嬢は勇気を振り絞って連絡先を尋ねた。人外のオリハルコン級冒険者である。答えてくれる確率は低いと思いながら。


「守秘義務は守って下さいね」


 ミラは受付嬢の耳元に口を近付けて、囁やく様に連絡先を伝える。受付嬢は聞かなければよかったと後悔した。


(お嬢様が公爵夫人!? オリハルコン級冒険者でお嫁さん? あ、鼻血出る)


 ミラの王都初外出はこうして無事に幕を閉じたのであった。



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