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底辺ゲーム実況者の俺、奪ったロボでAIの“最適解”をひっくり返す〜2039年占領下の東京でもギルメンの絆とレンチの一撃は最強でした〜  作者: 黒須トク
首都陥落

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第6話 レイド募集。ただし報酬なし!

 夜、俺はゲーム仲間と使っている通話アプリを開く。

 サーバー名は、八咫烏やたがらす


 いつものボイスチャンネルには、見慣れた名前が並んでいた。

 普段なら、くだらない雑談をしてからゲームが始まる。

 今日は、画面の向こうの仲間を現実に巻き込むかもしれない。


 画面には、っさん、玉さん、アヤ、月読つくよみのアイコンが点いている。


 八咫烏は、何度も人が入れ替わった。

 大きなイベントのたびに人が抜け、揉め事で消え、生活で離れ、最後に残ったのがこの四人だった。

 ゲームの腕前はそれぞれだが、俺の無茶な呼びかけに、最後まで返事をくれるやつら。


 画面越しの付き合いでも、五年は短くない。

 ミスれば怒られたし、うまくいけば本気で褒め合った。

 何度も同じ目標に向かって走った相手を、今さら他人とは思えない。


っさん、聞こえるか」

「聞こえてる。団長、さくらちゃんの件、こっちでも調べてる」


 っさんは、ゲームじゃ前を張るタンク役で、ネトゲ仲間なのに、まさかのご近所さん。

 親父さんの跡を継ぎ、町工場を一人で回す車の整備士。

 さくらとも、会えば挨拶するくらいの顔見知りだ。


「玉さん、東京拘置所の情報は?」

「公開情報は一通り確認した。当然少ない。今、プライベートな繋がりにも当たっている」

「中の話、聞けそうなのか?」

「知人の伝手に刑務官がいる。その人も強制接収で中へ入れなくなったらしい。まだ裏は取れていないが、元々の収容者は別施設へ移されたと聞いている」


 玉さんはAI関連の仕事をしていて、HNは趣味で育てている将棋AI「玉響たまゆら」が由来。

 ゲームでは後衛の魔法職で、理屈で最大ダメージを稼ぐタイプだ。


 この二人は、オフ会で何度か飲んだこともあり、顔も声も、リアルの仕事も知っている。


 残りの二人は女性陣で、声しか知らない。


「月読、北京の施設は?」

「……公開情報ほぼゼロ。医療棟が大きい。教育だけなら要らないはず」


 ゲームでの月読は、索敵と奇襲が得意なアサシン職。

 アメリカ西海岸にいるらしく、海外ニュースや海外掲示板を拾うのが早い。

 余計なことは言わない。だから、月読の報告が短い時ほど、だいたい悪い情報だ。


「ダーリン、SNSはアヤが見ておりますわ」

「ありがとう。何かわかったか?」

「ご家族が収容されたという投稿が、散見されますわ。エラー市民、勾留、矯正きょうせい教育……言葉が違うだけで、中身は同じですわ」

「さくらと美咲ちゃんの情報は?」

「まだ、つかめておりませんわ」

「……さくらの名前を出せば、目撃情報が来るかも」

「お止めください。WWU(ユニオン)に、目を付けられますわ。まずは同じ通知を受けたご家族を文面から辿っております。同じ境遇の親なら、向こうから繋がってくれますわ」


 アヤはVTuberとしても活動しており、ネットの立ち回りやSNSの運用が得意だ。

 ゲームではヒーラーで、特典目当てで一度ゲーム内夫婦になって以来、俺をダーリンとからかってくる。

 歌がやたらうまく、「百万人の親衛隊がいる」「広いサロンがある」など口にし、八咫烏ではお嬢様ロールプレイの人で通っている。


 朝に投げた頼みは、ちゃんと届いていた。

 画面の向こうで、みんな動いてくれている。


 月読が、新たに見つけた画像を共有画面へ投げる。


「……東京拘置所の最新映像。BULK(バルク)が一機」

「拘置所にBULK(バルク)かよ。物騒すぎんだろ」

「自衛隊と機動隊が、NPI(インスタンス)に連行されている目撃情報がありますわ」

「訓練を受けた人間が拘置所に集められているなら、BULK(バルク)を置く理由はある」


 小菅教育センターにはNPI(インスタンス)がいて、BULK(バルク)までいる。

 いまの俺たちが正面から行っても、突破できない。


 まず手札がいる。NPI(インスタンス)と向き合い、BULK(バルク)が出てきても逃げる以外の選択肢を残す手段だ。


 俺は、真壁まかべ隊員から来た不審なコンテナの話を共有する。


 すぐにアヤがSNSで、中川なかがわに浮かぶ作業台船を見つける。

 その船の甲板にはコンテナが積まれていた。


「コマンド。中川周辺の地図を開いて。この写真の位置を推測して、重ねてくださる?」


〈地図を開きました。投稿写真を推定地点に配置しました。一致率93%/次点73%。先ほどの東京拘置所画像も配置しました。〉


 アヤの指示で、共有画面いっぱいに東京東部の地図が広がり、中川と小菅の上に写真がピン留めされる。

 月読が河川工事の予定表を、地図の端へ重ねる。


「……予定は空白。正規の理由はなし」


 っさんが、画面の船影に目を細める。


「作業船は資材積んで動く。コンテナ積んで寝てる船じゃねえ」


 アヤは別の投稿を共有画面へ重ねた。


「他のSNSに同じ船らしき動画もありましたわ。黒いドローンが何度か出入りしていますわ」

「アメリカの例。ドローンがパトロール」

「日本でも同じ運用だろうな。デモ、暴動、逃走者。監視対象はいくらでもある」

「都内各地で、同型の黒いドローンの目撃情報は上がっていますわ」


 アヤが、さらに短い動画を二つ並べる。


 黒いドローンは、昨日、真壁隊員を囲んでいた機体と同じに見える。

 コンテナの入口は工事用シートで覆われ、作業員の姿はない。


っさん、現場目線だとコンテナの中身は何だと思う?」

「ドローンが戻ってんだ、まず給電、電池交換だろ」

「今は監視でも、戦闘になれば積むものを替えますわよね」

「攻撃用の交換ユニットや弾薬くらいはあるだろうな」

「……警備、薄い。罠?」

「常駐で守る人手が足りないのだろう。代わりに、異常が出た場所へ黒いドローンを寄せる」

「見つかったら、上から来んのかよ」

「おそらく定期連絡も行っている。途切れれば、それも異常だ」


 きっと中川の作業台船は、守る拠点じゃない。補給ポイントだ。

 そして正面から小菅へ行けない俺たちが、最初に狙える場所だ。


 月読が情報を拾い、玉さんが状況を整理する。

 っさんは現場の判断をして、アヤは人の流れを追う。


 やっていることはいつものゲームと一緒だ。

 ゲームの中で何度も見た分担が、そのまま現実へはみ出している。


 カリスマB、マネジメントB。AI様に評価された能力を、今だけは信じてやる。

 俺はマイクに向かって言う。


「レイド募集。ただし報酬なし! ミスったら現実が終わる」


 数秒、誰も喋らない。


「ギルマス、アメリカでは毎年何百人もWWU(ユニオン)に消されてる」


 月読の声は、いつもより低い。


「……ログを拾われた順に消えた。見つかったら終わり。はいGG」

「月読さんの言う通りだ。これはゲームの延長ではない」


 玉さんの声は静かだ。


「分かってる。危ないと思うなら、聞かなかったことにしてくれ。俺はソロでもやる」


 そこで、アヤが笑った。


「ふふっ、今回は難易度高めですわね、ダーリン♡」


 その軽さに、詰まっていた息が抜けた。


「団長、これはもうゲームじゃねえだろ。……けど、手は貸せるぜ」


 工場の機械音が、うっすら混じっている。

 っさんが短く笑った。


「リスク承知なら、わたしも外から見る。海外でも、拾えるログはある」


 月読が言った。

 最後に、玉さんが続いた。


「……分かった。ただし、君がただ突っ込もうとしているなら止める。勝ち筋を持ってくるなら先を読む」

「――ありがとう。正直、一人じゃどうにもならなかった」

「まだ始まってもいない」


 月読つくよみが、いつもの平坦な声で刺した。


「お礼はクリア後」


 その素っ気なさに、少しだけ救われた。


 誰も、降りない。

 画面の向こうの仲間が、現実の危険に片足を入れてくれた。

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