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底辺ゲーム実況者の俺、奪ったロボでAIの“最適解”をひっくり返す〜2039年占領下の東京でもギルメンの絆とレンチの一撃は最強でした〜  作者: 黒須トク
首都陥落

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第5話 自衛隊は、助けてくれないんですか

 ニュースサイトを開く。

 出てくるのは、WWU(ユニオン)の声明と交通規制の見出しばかり。

 さくらに繋がる情報は、ない。


「コマンド。WWU(ユニオン)のエラー市民、教育センター、矯正きょうせい教育の三つを調べて」


〈検索します。完了後に通知します〉


 首輪型デバイスのAIエージェントが、検索タスクを裏へ回した。

 俺はSNSと掲示板を開き、最新の情報をあさる。


 東京の外から助けは来るのか。

 警察や自衛隊は動かないのか。

 S級以上の特別矯正教育とは何なのか。

 北京の施設は、どこまでヤバいのか。


 画面を流れる投稿の中に、駅前の動画が混じる。

 AIなんかに従わない、と声を上げる大規模なデモだ。


 最悪の答え合わせみたいな動画だ。

 NPI(インスタンス)を背後に従え、前に出たBULK(バルク)が、群衆へ二種類の兵器を浴びせていく。


 ひとつは、狙った方向だけに音をぶつける音響兵器。

 強烈な音の束を浴びた人たちが、耳を押さえ、平衡感覚を失って膝をついていく。


 もうひとつは、電子レンジと同じ理屈で、皮膚の表面を灼熱させるミリ波兵器。

 不可視の熱波に晒された人たちが、悲鳴を上げて後ずさる。


 血は出ていない。

 けれど、無事ではない。

 動けなくなった人が、まとめて灰色の腕に回収されていく。


 声を上げても、ああなる。

 正面から助けを求める道は、消えた。

 残るのはロクでもない手だけだ。


 ネットの知り合いにも頼る。

 五年続けているMMO(ネトゲ)ギルド、八咫烏やたがらす


 中心メンバーは五人だけの、小さなギルド。

 規模は小さいが、信頼はでかい。


 最初に打ったのは、『助けてほしい』だ。

 無理だ。

 そんな一文で、誰かが動けるわけがない。

 泣きつけば危険に巻き込むだけで、作戦にもならない。


 俺は一度、文字を消す。

 分からないことを順番に並べる。

 さくらの目撃情報、東京拘置所、北京の施設、調べてほしいことを箇条書きにしてギルドチャットへ送った。


WWU(ユニオン)のエラー市民、教育センター、矯正教育について調査完了〉


「コマンド。結果を表示して」


┌──────

 【調査レポート】

 ①エラー市民:

  幸福関連法に違反した市民。民間の通称だったが、現在はWWU(ユニオン)公式でも使用される

 ②教育センター:

  エラー市民の勾留施設、内部で矯正教育が行われる

 ③矯正教育:

  指導映像の視聴とテストによる思想教育が行われ、二〜三日で解放される事例が多い。反乱の指導者層などは数年以上の事例もある

           ──────┘


 さくらの通知には北京移送と書いてあった。

 普通の矯正教育とは、扱いが違う。


 分かったのは、助け方がどこにも載っていないことだけだ。

 新しい攻略ルートを見つけるしかない。


 次に、通知リストに残っていたメッセージを開く。

 昨夜から届いていたのに、開けずにいたものだ。


━━━━━━━━━━━━━

 ▶︎ 真壁まかべあおい|はじめまして。本日、江戸川で……

━━━━━━━━━━━━━


 ドローンの檻に閉じ込められていた、あの自衛官だ。


┌──────

 はじめまして。本日、江戸川で助けていただいた、ハチドリ隊の真壁葵です。


 突然のご連絡をお許しください。

 配信の切り抜き映像から、黒羽くろばさんのチャンネルにたどり着きました。


 黒羽さんの助力がなければ、私はあの場で拘束されていました。ありがとうございます。

 現在、黒羽さんも占領区域内におられ、お困りごともあるかと思います。

 私にご協力できることがあれば、ご連絡ください。


 正直に言うと、あの包囲は怖かったです。

 空に道が見えたとき、ここを抜ければ、また人を助けられると思いました。

 初めて救助される側になって、まだ気持ちをうまく整理できていません。


 情勢が落ち着いたら、改めて御礼に伺います。

           ──────┘


 文章は硬く、丁寧すぎるくらいだった。

 余計な言葉を削った文面から、相手が姿勢を正して打っているのが伝わってくる。


 ゲームの中なら、礼を言われたことは何度もある。

 現実の「ありがとうございます」は、思ったより効いた。


 けど、今はさくらだ。


 俺はメッセージの下に出ていた〈トークを開く〉を選択する。


『妹が東京拘置所の教育センターに収容されました。

 自衛隊は、助けてくれないんですか』


 送ってから、一般市民が自衛官に聞いてどうなる、と思った。

 でも、他に聞ける相手がいない。


 すぐに返信がくる。

 文章は長く、言葉は硬い。

 けど、俺の返事を待っていたみたいに、間がなかった。


『妹さんの件、心中お察しいたします。

 現時点で、自衛隊には首都奪還および収容施設制圧の命令は出ておりません。

 ハチドリ隊の主任務は救助です。命令があれば救助に向かえます。


 ただ現在、私たちが行動できるのは、明確な災害に対する救助、または通常訓練と言える範囲に限られます。

 組織の人間としては、ここまでしか言えません。ですが、妹さんのことは、他人事とは思えません』


 自衛隊は動けない。

 少なくとも、都市を取り返すような大きな作戦は出せない。

 希望が一つ消える。

 だが、立ち止まっている時間はない。


『分かりました。ありがとうございます。

 俺にできることを探します』


 送ってから、自分がもう止まる気でいないことに気づいた。

 真壁隊員は、その一文で何かを察したらしい。

 返信は、また間を置かずに連続で届く。


『民間人に危険地域への接近を勧めることはできません』

『昨日の操縦を見る限り、黒羽さんが無謀なだけの方だとは思っていません。ですが、危険です。どうか、そこは軽く見ないでください』

『新葛飾橋で確認した敵は、コンテナ内部からBULK(バルク)も出現しました。各地で同様の報告があり、類似のコンテナを積んだ車両や船舶の目撃情報が出ています』

『危険ですので、不審なコンテナには近づかないでください。お願いします』


「近づくな、か」


 俺の目が、その一文で止まる。


「なら、そこに何かある」


 俺はメッセージを閉じる。

 無茶かどうかは、もう問題じゃなかった。

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