第43話 二回目には同じ手を食わない
「ダンボール機53機、初期配置」
月読の宣言と同時に、空が茶色くなった。
:初手全出しは鬼すぎ
:最初から53機か
:アシスタントさん、殺意高すぎ
空では、安っぽいプロペラの羽音。
前も、横も、背中側も、全てが敵だ。
囲まれる側の視界って、こんなに狭いのか。
「みなさま、練習の成果をお見せになって。がんばってくださいまし」
:やってやるぜ
:アヤ様のために!
:死ぬ気で飛ぶ
:鴉絶殺
「スタート」
:うおおお、全機突撃ぃ!
:一番槍もらった!
:数で押しつぶせ!
こっちも開幕即ダッシュ。
前方へ駆け抜ける。
正面、三機。
右スティックで照準を合わせ、射撃ボタンを押す。
光の線が、一機、二機、三機を、続けて焼き落とした。
:は?
:3秒で死んだ
:三機瞬殺
:AIより照準早くない?
〈警告:近接防空レーザーの温度が上昇しています〉
レーザーはオーバーヒートする。
残りは温存する。
ここから先は、手で捌く。
寄ってきた一機を、対戦車ナイフで切り落とす。
返す刀で、もう一機。
足を止めず、群れの薄い方へ進路をこじ開ける。
:無駄がなさすぎる
:近づいた瞬間に終わるんだが
:敵に回すと最悪
捌きながら、見えてきた。
こいつら、ドローンと違って空中で止まれない。
進路を変えるには、大回りの旋回がいる。
なら、答えは単純だ。
旋回が終わる前に、囲みの外へ出ればいい。
:ごめん、旋回で味方に当たった
:4機自滅ww
:急に曲がれって言われても無理
駐車場を横断し、群れを抜けた。
背後で、行き場を失ったダンボール機たちがもたついている。
:え、囲んだのに抜けられたんだけど
:敵役うますぎない?
:鴉さん、それ本番でやられたら困るんですけど
「ふははは、どうした? 53機もいて、まだ汚れ一つ付けられてないぞ!」
:言いやがったww
:煽りまで通常営業で草
:次のラッシュで黙らせるぞ
停止し、反対へと振り返る。
ダンボール機は、こちらへ向かって一列気味になっている。
「コードイエロー」
何か事前に用意してたのか?
月読から暗号らしい言葉が出る。
だが、関係ない。
タイヤで加速。
かかとのタイヤが路面を掴んで、灰色の巨体が滑り出す。
右スティックを横にした八の字に動かす。
灰色のBULKの上半身だけが、スティックと同じように動く。
ダンボール機の先端が、装甲をかすめて後ろへ流れていく。
避けながら、すれ違いざまにナイフを入れる。
:デンプシーロールかい!
:その巨体でやる動きじゃないだろww
:人間の動きすんなや
正面、避けられない角度で一機。
温存の一発目を使う。
命中。
〈警告:近接防空レーザーが次射でオーバーヒート。発射時は再使用まで180秒〉
:ああああ殺ったと思ったのに
:正面取ったのに!
密集が厚すぎる場所は避け、もう一度、囲みの外へ抜けた。
残り、25機ほど。半分以上削った。
いける。
そう思った瞬間だった。
「……予定通り角に誘導。ここ」
月読の声が、低く落ちた。
正面は、建物とフェンスに挟まれた角。
道を選んでいたつもりで、選ばされていた。
:狙い通り
:アシスタントさん、優秀すぎる
:え、うちらの突撃、囮だったの?
「みなさま、低空飛行で、足元から急上昇を狙ってくださいまし」
:低空了解
:地面スレスレ行くぞ
:足元はレーザーが来ない、そこが抜け穴だ
:お嬢様の命令なら何回でも死ねる
アヤの指示で、ダンボール機が地面スレスレを飛んでくる。
「なるほどね。狙いは悪くないな」
俺は、その場から動かなかった。
角は、背中を預けられる壁でもある。
来る方向が90度に絞れるなら、来た順に落とすだけだ。
右から一機、斬り落とす。
足元から二機、掬い上げて叩き落とす。
水風船は割らないように、翼だけを切り裂く。
危ないときはナイフの側面で受ける。
同時に来られたら、肩で受ける、左手も使う。
結構ギリギリだが、いける。
「ははっ、いいぞ、もっと来い! まだ全然、いけるぞ!」
「そう来ると読んでおりましたわ」
アヤの声が、嬉しそうに笑った。
――上。
視界の最上端、点みたいな高度から、一機だけが垂直に落ちてくる。
アヤだ。
「下からの攻撃は、視線誘導か」
だが余力は常に残しておくもの。
最後のレーザーを、真上へ撃った。
命中。
〈警告:近接防空レーザーがオーバーヒート。再使用まで134秒〉
「計算通り」
月読が、静かに言った。
撃ち抜く寸前、アヤが機首の向きをわずかにずらす。
レーザーはダンボール機を貫き――機首の水風船が弾けた。
散った墨が、落下の勢いをそのまま乗せて降ってくる。
真上から、黒い雨。
「あっ」
〈警告:光学センサー異常〉
「はい、レーザーで撃ち落としてくださると思っておりましたわ♡」
「鴉はいつもトラップ踏む lol」
〈勝者:ダンボールラジコン機チーム〉
:やってやったぞ!!
:命中www
:鳥の糞攻撃www
:それはやめろwww
:ラスボス、フンまみれ
コントローラーを握ったまま、指先がぷるぷるした。
悔しい。
でも、久しぶりに、まっすぐ悔しかった。
「もう一回だっ!」
コメント欄が、どっと沸いた。
二戦目は、名乗らなかった。
俺は同じ手を、一つも食わなかった。
かたまりの外周から一機ずつ着実に削る。
次の経路を常に意識し、角には近づかない。
空いている道は、罠だと思って逆へ行く。
高度を上げた機体は、早めにレーザーで撃ち落とす。
「どうした! 一戦目の勢いはどこいった!」
:無理無理無理
:近づく前に落とされる
:絶対勝てないって
:誰か攻略法おいてけ
最後の一機が落ちたとき、コメント欄は悲鳴で埋まっていた。
:フルボッコすぎる
:今回も3秒で死んだ
:こんなのが小菅にいたら終わりだろ
:いたら困るんだよなあ
「……いや、いると思っておけ。本物のAIも、二回目には同じ手を食わない」
俺がこの数日、シミュレーターで殴り続けてきたのは、そういう相手だ。
「みんな、おつかれGG」
月読があっさり解散を告げた。
「……リプレイは各自見返しといて」
みんなに挨拶し、訓練サーバーを抜けて八咫烏の部屋に戻る。
「ギルマスもGJ」
GJ、ときた。
騙して、墨をぶっかけて、最後に一言で労う。
月読らしい。
「ダーリン、いい顔で怒ってましたわよ」
「見えてねえだろ、顔」
「ふふ、声で分かりますわ」
付き合いは長い。
ごまかしても色々バレている。
「それでは、今日はお開きですわ。ダーリン、月読ちゃん、おやすみなさいませ」
「おつー」
「……ああ。二人とも、ありがとな」
通話を抜けると、周りは静かだった。
炭酸の抜けたエナドリを一口で流し込んで、またゴーグルへ手を伸ばす。
伸ばして――止めた。
ずっと張り詰めてる、か。
今日は寝る。
寝て、明日、八回の先へ行く。




