表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/51

第43話 二回目には同じ手を食わない

「ダンボール機53機、初期配置」


 月読の宣言と同時に、空が茶色くなった。


:初手全出しは鬼すぎ

:最初から53機か

:アシスタントさん、殺意高すぎ


 空では、安っぽいプロペラの羽音。

 前も、横も、背中側も、全てが敵だ。


 囲まれる側の視界って、こんなに狭いのか。


「みなさま、練習の成果をお見せになって。がんばってくださいまし」


:やってやるぜ

:アヤ様のために!

:死ぬ気で飛ぶ

:鴉絶殺


「スタート」


:うおおお、全機突撃ぃ!

:一番槍もらった!

:数で押しつぶせ!


 こっちも開幕即ダッシュ。

 前方へ駆け抜ける。

 正面、三機。


 右スティックで照準を合わせ、射撃ボタンを押す。

 光の線が、一機、二機、三機を、続けて焼き落とした。


:は?

:3秒で死んだ

:三機瞬殺

:AIより照準早くない?


〈警告:近接防空レーザーの温度が上昇しています〉


 レーザーはオーバーヒートする。

 残りは温存する。

 ここから先は、手で捌く。


 寄ってきた一機を、対戦車ナイフで切り落とす。

 返す刀で、もう一機。

 足を止めず、群れの薄い方へ進路をこじ開ける。


:無駄がなさすぎる

:近づいた瞬間に終わるんだが

:敵に回すと最悪


 捌きながら、見えてきた。

 こいつら、ドローンと違って空中で止まれない。

 進路を変えるには、大回りの旋回がいる。


 なら、答えは単純だ。

 旋回が終わる前に、囲みの外へ出ればいい。


:ごめん、旋回で味方に当たった

:4機自滅ww

:急に曲がれって言われても無理


 駐車場を横断し、群れを抜けた。

 背後で、行き場を失ったダンボール機たちがもたついている。


:え、囲んだのに抜けられたんだけど

:敵役うますぎない?

:鴉さん、それ本番でやられたら困るんですけど


「ふははは、どうした? 53機もいて、まだ汚れ一つ付けられてないぞ!」


:言いやがったww

:煽りまで通常営業で草

:次のラッシュで黙らせるぞ


 停止し、反対へと振り返る。

 ダンボール機は、こちらへ向かって一列気味になっている。


「コードイエロー」


 何か事前に用意してたのか?

 月読から暗号らしい言葉が出る。


 だが、関係ない。

 タイヤで加速。

 かかとのタイヤが路面を掴んで、灰色の巨体が滑り出す。


 右スティックを横にした八の字に動かす。

 灰色のBULK(バルク)の上半身だけが、スティックと同じように動く。

 ダンボール機の先端が、装甲をかすめて後ろへ流れていく。


 避けながら、すれ違いざまにナイフを入れる。


:デンプシーロールかい!

:その巨体でやる動きじゃないだろww

:人間の動きすんなや


 正面、避けられない角度で一機。

 温存の一発目を使う。


 命中。


〈警告:近接防空レーザーが次射でオーバーヒート。発射時は再使用まで180秒〉


:ああああ殺ったと思ったのに

:正面取ったのに!


 密集が厚すぎる場所は避け、もう一度、囲みの外へ抜けた。

 残り、25機ほど。半分以上削った。


 いける。

 そう思った瞬間だった。


「……予定通り角に誘導。ここ」


 月読の声が、低く落ちた。


 正面は、建物とフェンスに挟まれた角。

 道を選んでいたつもりで、選ばされていた。


:狙い通り

:アシスタントさん、優秀すぎる

:え、うちらの突撃、囮だったの?


「みなさま、低空飛行で、足元から急上昇を狙ってくださいまし」


:低空了解

:地面スレスレ行くぞ

:足元はレーザーが来ない、そこが抜け穴だ

:お嬢様の命令なら何回でも死ねる


 アヤの指示で、ダンボール機が地面スレスレを飛んでくる。


「なるほどね。狙いは悪くないな」


 俺は、その場から動かなかった。

 角は、背中を預けられる壁でもある。

 来る方向が90度に絞れるなら、来た順に落とすだけだ。


 右から一機、斬り落とす。

 足元から二機、掬い上げて叩き落とす。


 水風船は割らないように、翼だけを切り裂く。

 危ないときはナイフの側面で受ける。


 同時に来られたら、肩で受ける、左手も使う。

 結構ギリギリだが、いける。


「ははっ、いいぞ、もっと来い! まだ全然、いけるぞ!」

「そう来ると読んでおりましたわ」


 アヤの声が、嬉しそうに笑った。


 ――上。


 視界の最上端、点みたいな高度から、一機だけが垂直に落ちてくる。

 アヤだ。


「下からの攻撃は、視線誘導ミスディレクションか」


 だが余力は常に残しておくもの。

 最後のレーザーを、真上へ撃った。


 命中。


〈警告:近接防空レーザーがオーバーヒート。再使用まで134秒〉


「計算通り」


 月読が、静かに言った。


 撃ち抜く寸前、アヤが機首の向きをわずかにずらす。

 レーザーはダンボール機を貫き――機首の水風船が弾けた。


 散った墨が、落下の勢いをそのまま乗せて降ってくる。

 真上から、黒い雨。


「あっ」


〈警告:光学センサー異常〉


「はい、レーザーで撃ち落としてくださると思っておりましたわ♡」

「鴉はいつもトラップ踏む lol」


〈勝者:ダンボールラジコン機チーム〉


:やってやったぞ!!

:命中www

:鳥の糞攻撃www

:それはやめろwww

:ラスボス、フンまみれ


 コントローラーを握ったまま、指先がぷるぷるした。

 悔しい。

 でも、久しぶりに、まっすぐ悔しかった。


「もう一回だっ!」


 コメント欄が、どっと沸いた。


 二戦目は、名乗らなかった。

 俺は同じ手を、一つも食わなかった。


 かたまりの外周から一機ずつ着実に削る。

 次の経路を常に意識し、角には近づかない。


 空いている道は、罠だと思って逆へ行く。

 高度を上げた機体は、早めにレーザーで撃ち落とす。


「どうした! 一戦目の勢いはどこいった!」


:無理無理無理

:近づく前に落とされる

:絶対勝てないって

:誰か攻略法おいてけ


 最後の一機が落ちたとき、コメント欄は悲鳴で埋まっていた。


:フルボッコすぎる

:今回も3秒で死んだ

:こんなのが小菅にいたら終わりだろ

:いたら困るんだよなあ


「……いや、いると思っておけ。本物のAIも、二回目には同じ手を食わない」


 俺がこの数日、シミュレーターで殴り続けてきたのは、そういう相手だ。


「みんな、おつかれGG」


 月読があっさり解散を告げた。


「……リプレイは各自見返しといて」


 みんなに挨拶し、訓練サーバーを抜けて八咫烏やたがらすの部屋に戻る。


「ギルマスもGJ(グッジョブ)


 GJ、ときた。

 騙して、墨をぶっかけて、最後に一言で労う。

 月読らしい。


「ダーリン、いい顔で怒ってましたわよ」

「見えてねえだろ、顔」

「ふふ、声で分かりますわ」


 付き合いは長い。

 ごまかしても色々バレている。


「それでは、今日はお開きですわ。ダーリン、月読ちゃん、おやすみなさいませ」

「おつー」

「……ああ。二人とも、ありがとな」


 通話を抜けると、周りは静かだった。


 炭酸の抜けたエナドリを一口で流し込んで、またゴーグルへ手を伸ばす。

 伸ばして――止めた。


 ずっと張り詰めてる、か。


 今日は寝る。

 寝て、明日、八回の先へ行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ