第40話 クソゲー感が凄い
「やっぱ無理ゲーだ……」
シミュレーターで十回ボコられたところで、ゴーグルを外し、休憩にする。
「どうだ、団長。いけそうか?」
「きつい。タイマンならいける。でも一機目でモタつくと、二機目から防戦一方。三機目で詰む」
「何がダメなんだ?」
「相手が二機以上になると、ケーブルの問題で後ろへ逃げるしかなくなる。最後はマップ端で詰む」
「なら、答えは単純だな。各個撃破で瞬殺する攻略ルートを見つけるだけだ」
「そもそも一機目に攻撃を当てる時点で、だいぶ苦労してるんだけど」
俺は目を閉じ、テーブルに肘をついた。
こめかみに拳を押し当てる。
考えろ。
どこかに抜け道があるはずだ。
「市川橋で攻撃が通ったのは、ダンボール機の支援で死角に入れたからだ。今はタロンの反応は早くなってるけど、正面から行くと読まれる」
「入力からの反応速度があがっただけだ。攻撃速度があがったわけじゃねえ」
「死角を作る方法はあとで考えるとして――先に、タロンを軽くしよう。動きが重いままだと、そもそも攻撃ターンが来ない」
「じゃあ、昼飯食いながら決めるぞ。腹減った頭じゃロクな案が出ねえ」
「エナドリのほうが即効性ある」
「飯よりエナドリって時点でカフェイン中毒で終わってんだよ」
牙っさんが差し出したサンドイッチを受け取り、一口かじる。
エナドリのプルタブを起こしたところで、ようやく食べ物の味を思い出した。
休憩が終わると、牙っさんはタロンの前で工具箱を開いた。
「肩、腕の外側、胸部、脚部前面の追加装甲は全部外す。これは対戦車用だ」
「ばっさりいくな」
「さらに装甲のアウターも捨てる。太陽光発電と光学迷彩は、今いらねえ」
「タロンを動かすのは夜だしな……。光学迷彩は、使う場面ないのか?」
「ねえよ。動画見たことあるか? 動いたらすぐバレる。拠点防衛や、待ち伏せにしか使えねえ」
「タロンは、待ち伏せする機体じゃないか」
「こんだけバランス変わるんだ。レールガンも外すか?」
「レールガンは残したい。それこそ使う場面があるかもしれない」
「なら残すぜ。外したパーツの重量は出しとくから、玉さんにシミュレーター調整してもらえ」
牙っさんが軽量化し、玉さんがプログラムを書く。
俺がやることは、動かすことだ。
二人が頑張ってる間に、シミュレーターで一機目ぐらい落とせるようにする。
十一回目の挑戦。
リスク承知で突っ込む。
敵の攻撃をギリギリ避けるタイミングを狙う。
刃が走る。
今だと思って止める。
遅すぎた。
灰色の刃が、ゴーグルいっぱいに広がる。
〈タロン、撃破〉
十二回目。
再度突っ込む。
だが、単純なゲームと違って毎回敵の行動パターンは変わる。
ナイフの軌道は突き。
今度は停止が早すぎた。
一歩踏み込んで攻撃モーションに入るが、間合いが遠い。
空振り。
足を止めた攻撃は、互いに当たらず、二機目、三機目に包囲される。
〈タロン、撃破〉
走り抜けながら殴れば、一発は入る。
でも、それはこっちも撃破される。
相打ちじゃ意味がない。
機体が同じスペックだと、何も考えなければ高確率で相打ちになる。
タイミングをずらすしかない。
十三回目。
今度は、敵が下がりながら、他機との合流を目指す。
逃げるな。
レンチをぶん投げたくなったが、我慢して追っかける。
〈タロン、撃破〉
「あー、クソゲー感が凄い」
十四回目。
相打ち覚悟で突っ込む。
走り抜けながら、横殴りの攻撃。
パイプレンチが、敵の胸部に入った。
〈敵BULK、一機目撃破〉
同時に、敵の刃もタロンの胸部を貫く。
〈タロン、撃破〉
「だよね……」
頭を両手でかき回す。
「同スペックで相手が高性能AIだと、正面勝負は厳しいな」
厳密には同スペックではない。
こっちには背中のケーブルという明確な弱点がある。
その代わり、タロンにはコアAIがない。
俺が遠隔で操作しているからだ。
制御系AIに繋がる胸部を貫かれたら終わり。
でも、多少胸部を切り裂かれても即失敗ではない。
「肉を切らせて骨を絶つか……」
十五回目。
袈裟斬りの刃を、胸の一番装甲が厚いところで受ける。
ギャリッ、と火花。
削られた。
けど、小破判定。
カウンターで、パイプレンチを敵の胸部へ叩き込んだ。
〈敵BULK、一機目撃破〉
すぐに二機目が来る。
同じ勝ちパターンを目指すが、次は踏み込みが鋭い突きで回避できなかった。
〈タロン、撃破〉
「ふぅ。やっと攻略の入口は見えた」
「お、やっと倒せたのか?」
「ああ。まだ一機だけだけどな」
「何がハマった?」
「武器の差だ。牙っさんが持たせてくれたパイプレンチ、これがBULKに特効だ」
「パイプレンチがか?」
「市川橋の解析だと、装甲を抜けていない。なのに、コアAIが停止してる」
「打撃なら、装甲越しに効くってことか」
俺は、モニターにBULKのモデルデータを映した。
「BULKの装甲は小火器なら無傷だが、戦車みたいな大砲は機動力で回避するコンセプトなのは知ってるよな」
「当然だ。手を出す前に調べた」
「BULKには乗員もエンジンもない。明確な弱点はコアAIのみだ」
「そこは胸の一番奥に守られてるだろ」
「ああ、だからナイフは届きにくい。だけど衝撃なら伝わる」
「なるほど、だから武器の差か。こういうのに気づくのは、さすがだな」
タロンには衝撃で壊れるコアAIがない。
有線用のパーツは追加されているが、コアAIほど繊細ではない。
正面から胸を貫かれたら終わりだが、ナイフで表面をゴリゴリ削られるだけなら、まだ耐えられる。
だが、同じパワーをパイプレンチでBULKに叩き込めば、奥のコアAIまで衝撃で揺れる。
「あとはダメージを全身に分散させて、継戦能力をどこまでキープできるか」
「回避ビルドって言ってたのに、タンクの被ダメ管理かよ」
「まあ練習で詰める。死にゲーなら慣れてる」
入口は見えた。
あとは失敗を積み重ね、攻略ルートを拓いていく。




