第39話 一回、ボコられてくる
「で、どんなカスタマイズがいいんだ?」
「玉さんが開発中の補助機能は絶対いる。ラグが残ったまま複数相手は無理だ」
「行動予測モジュールは、あと二日くれ。設計は終わっている。動きがどう変わるかの見当もついている」
「いいじゃねえか。仕上がりが楽しみだな」
俺は、タロンの装甲を見上げた。
「それと装甲。今のは過剰だ。戦車砲やロケット弾を想定してるだろ」
「軽くするってことだな?」
「NPIの小火器も計算に入れるべきだ。装甲を削りすぎれば、あれにもやられる」
「そうだな、自爆ドローンには耐えて欲しい」
「そこは任せろ。あとは現物見ながら詰める」
イメージは回避特化ビルド。強くなるために、守りを捨てる。
「俺が気になるのはそれくらいだ。牙っさん、玉さんで他にアイデアあるか?」
「ケーブルを何とかした方がいいだろう」
「耐久性か? 硬くすりゃ、その分重くなるぞ」
「逆だ。重さと引きずりが、動きを殺している。硬さは諦めて、軽くする」
「ケーブルまで回避特化型か」
牙っさんが、床を這うケーブルへ目をやった。
「弱くすると手でも引きちぎれちまうぞ」
「手が届かないようにすればいい」
「空中に逃がすのか」
「そうだ。例えばタロンの後方10m、高さ4m でドローンに追随させ、光ファイバーケーブルを吊る」
背中から後方に伸びる線を想像して、マリオネットみたいだな、と思った。
「面白れえ。だが、そのドローンは誰が見る?」
「人を追随するドローンは二十年以上前からある。ただし、地形によっては、そのドローンとトラックを直線で結ぶのが難しいだろう」
「なら、もう一台中継させるか。そいつは人が位置や高さを調整する必要があるな」
「そいつは俺か月読の出番だな。団長のFPVドローンはPCからでも操作できるのか?」
「できる。ゴーグルのように自由な視界移動はできないが」
「なら、一台はあれ使えばいいな」
牙っさんは、工場のホワイトボードに太い字で書く。
玉響を流用した、行動予測モジュールの開発。
切れたケーブルの修理、プリカ除去。
装甲の軽量化。
ケーブル運搬ドローンの準備。
いずれもタロンを速く動かすための改造だ。
タロンを強くする。
市川橋で見えた弱点を克服し、小菅で戦える機体にする。
「ただし、中国からWWUの増援本隊が向かって来ているらしい。六日後。リミットは、そこまでだ」
「六日後か――コマンド。毎朝7時に増援到着、北京移送までの日数をアラート設定」
〈設定しました。WWU増援本隊到着まで6日/北京移送まで11日〉
牙っさんが、ホワイトボードに赤いペンで書く。
増援まで六日。
◇
次に、玉さんはモニターに粗いCGの空間を映す。
「これは最低限のモデルだ。まだ粗いが、外してはいけないものは入れた」
四角いブロックに雑に建物の写真を貼り付けた小菅のマップ。
玉さんは、徹夜して小菅想定のシミュレーターを用意していた。
「地図データと航空写真をベースにしている。建物の位置は正確だ」
モニターの青いアイコンがタロン。
三つの赤いアイコンが敵BULK。
橙色の線が、タロンの背中から伸びるケーブルだ。
「BULKはゲーム用のモデルに、過去の戦争で確認されている動きや、市川橋での動きを追加している」
コントローラーを手に取り、ゴーグルを被る。
「タロン側のシミュレーションには、実機の制御系AIを使う。動きがかなり正確だ。能力値はBULKと同等にしてある」
「見た目はまんま、ゲームだな。使える武器は?」
「使えるのはパイプレンチと近接防空レーザーの二つ。BULKの撃破判定は胸部強打のみだ」
「殴ったり、蹴ったり、投げたりは?」
「今は入れてない」
横から、牙っさんが口を挟む。
「こいつ、足そんなに上がらねえよ。移動中に交通事故のようにNPIを吹き飛ばすくらいならできる。だが、その場で振り上げて蹴るのは無理だぞ」
「腕は?」
「タックル程度なら使えるかもしれねえ。だが相手がBULKなら、こっちの被害の方がでけえぞ」
「リアルの格闘技を、そのままやる機械じゃねえってことか」
「形だけ真似しても無理だな」
玉さんが、画面へ視線を戻す。
「そこまで細かい判定は、すぐにシミュレーションできない。頭部や関節へのダメージ蓄積は現実では有効なので取り入れたいが、まだ組めていない」
「できることからやってくれれば十分だ」
「敵BULKがナイフでタロンの胸部を貫くか、敵がケーブルに触れた時点で失敗扱いにする。まずは複数機相手の立ち回り確認だ。条件を出す」
ゴーグルの中に、白い文字が浮かんだ。
〈制限時間:180秒〉
〈勝利条件:敵BULK三機の行動不能〉
〈失敗条件:BULKがケーブルに接触〉
「実際は横へ入られただけで、背部のケーブルを切られる可能性がある。そこまで組める時間は無い。接近戦で危ない角度を取られたら負けは自分で判断してくれ」
「わかった」
俺は、シミュレーターのコントローラーを握る。
「機体の反応が段違いだな」
前はボタンを押してから反応まで0.5秒ほどのラグがあったが、体感だと0.1秒以下になっている。
「まだ学習データが足りない。だからこれは暫定値だ。シミュレーションを重ねれば、繰り返す動きほど学習によって早くなる」
「それ、いいな。うまくいけば、ゲームみたいに反応するようになる?」
「移動は詰めやすい。使うのは主にタイヤと膝だ。だが、攻撃は腰、肩、肘を順に連動させる。繰り返しても限界はあるだろう」
「OK。よし、まずは一回、ボコられてくるか」
ゴーグルの奥で、三機が同時に動き出した。




