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底辺ゲーム実況者の俺、奪ったロボでAIの“最適解”をひっくり返す〜2039年占領下の東京でもギルメンの絆とレンチの一撃は最強でした〜  作者: 黒須トク
首都陥落

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第3話 コントローラーを握れば、ここだけは俺の戦場だ

 狙うなら、ローターの軸だ。

 このロープを巻き込ませれば、落とせるはず。


 五メートルほどの長さのストリンガーを、胴体の下にテープで仮留め。

 引っ張られたら、ストリンガーだけ外れるようにする。


 ベランダの端に置き、ゴーグルを被る。


 次の瞬間、視界に映るのは、あの人と十二機のドローン。


「コマンド。配信をドローンカメラに変更」


〈配信カメラをFPVドローンに切り替えました〉


 包囲網は、ゆっくり回っている。

 真壁隊員は踏みとどまっているように見えた。


 だが、高度だけが少しずつ落ちている。

 ばらばらに見えて、全部が連動して隙間を潰すように動いている。


 人間が慌てて囲む動きとは違う。

 逃げ道を順番に消す、ゲームの上位帯で嫌になるほど見た追い込み方だ。


 ゲームと似ているなら先が読める。

 狙うのは、そこだ。


 ライン取りを間違えなければ、いける。

 いや、通す。


「上の一機にロープを食わせる。落ちたら下も巻き込む。穴が開いたら――あの人が抜ける!」


:二機まとめて?

:無茶だろ

:そんなの狙えるのかよ

:やめとけ、爆発したら終わる

:他に誰が行くんだよ

:ここで外したら戦犯だぞ

:頼む、鴉


「戦犯、ね。ゲームなら謝って終わりなんだけどな」


 今回は、軽いスティックの先に、あの人の未来がぶら下がっている。


「底辺ゲーム実況者に投げる難易度のミッションじゃねえだろ、これ……。けど、コントローラーを握れば、ここだけは俺の戦場だ」


 十二機の包囲網に、一本の線が見える。


「行くぞ」


 スティックを押し込む。

 ドローンがベランダを飛び出す。


 川風が白い機体を横へ押した。

 俺は流される分だけ、逆に横方向へ調整する。


 ロープを吊った分、いつもより機体の反応が鈍い。

 画面でロープの流れを見て、親指の感覚で合わせるしかない。


 見つからないように、江戸川の水面ギリギリを飛ばす。

 低空で止められた真壁隊員。

 その周囲を回る、十二機の黒い機体。


 近づきながらタイミングを測る。

 ここで迷い、俺の親指が遅れた分だけ、あの小さな背中が追い込まれる。


 十二機全部を追う必要はない。

 輪の呼吸を乱した一機だけを見ればいい。


 真壁隊員のジェットの風で、一番下の機体が揺れる。

 中段、上段の機体は、包囲を戻すために遅れて動く。


 三つの予想される動きが、一つの線に重なる。


「そこ」


 三機が一直線になるタイミングで、スティックを倒して急上昇。


 最上段の黒い機体を越えた瞬間、逆V字を描くように機首を落とす。

 その動きに引かれて、たわんだロープがローターの軸へ滑り込む。


 仮留めが外れる。

 すぐに一機目が落ちる。

 垂れたロープが、下の二機のローター軸にも絡む。


「一、二、三」


 三機が、絡み合いながら、隊形から墜落していく。


:落ちた!

:三機いった!?

:すげー、やりやがった

:釣り具で軍用ドローン落としたぞ


 穴は開いた。だが、まだ足らない。


「もう一機!」


 急旋回して、開いた側に残る一機の真上へかぶせる。

 ほとんど接触する距離。


 敵機の動きを読み、ぴたりと追従させる。

 自機の下降気流を、相手の機体へ押しつける。

 上から叩きつける風で、黒い機体が姿勢を大きく乱す。


:これ、何!?

:上から風ぶつけた?

:ドローンって近寄りすぎると気流乱れて最悪落ちる

:鴉、そんなの狙ったのか


 包囲網の穴が広がる。

 今しかない。


 真壁隊員が動く。

 背中のジェット炎が太くなり、北東の開いた穴へ、身体を倒す。


 残ったドローンが一斉に閉じ直す。

 だが、遅い。

 四機分の穴は、すぐには埋まらない。


 その隙間を、小さな身体が通り抜けた。


「抜けた!」


 俺の声と、コメント欄の爆発が重なった。


:抜けたあああああ

:マジで助かった

:今の神業だろ

:ハチドリ隊の人、助かった?

:今の録画残ってるよな?

:切り抜き確定だろこれ

:保存しろ

:これ絶対あとで広がる


 画面右下の数字が、目に入る。


〈視聴者数:86〉


 100人にも届いていない。

 けど、その86人は見ていた。


 釣り具をぶら下げた白い機体が、自爆ドローンの包囲をこじ開けた瞬間を。


 これまでの俺の人生で、この86人ほど()()()()はなかった。


 真壁隊員は、千葉側へと江戸川を越えていく。

 残ったドローンのいくつかが追おうとするが、江戸川の真ん中あたりで帰ってくる。


「よし!」


 だが、ミッションクリア、なんて軽く言える状況じゃなかった。


 ゴーグルの端で、バッテリー残量が赤く点滅している。

 河川敷へ緊急着陸。

 カメラが斜め上で止まり、動かない。


 遠くに、飛び去っていく小さな背中が映っている。

 ジェットの炎が、短く数回、明滅。

 お礼だと、勝手に受け取った。


 取り残された白い機体へ、自爆ドローンが一つ、二つと近づいてくる。


:囲まれてる

:回収できる?

:いや無理だろ


「あれ、けっこう高かったんだけどなぁ……」


 俺はゴーグルを外す。


 遠くで、俺の機体が黒い群れに囲まれている。

 さっきまで俺の目だったものが、もう俺の届かない場所にある。


「配信はここまで。都心ヤバい、外に出るな。江戸川に近づくな。以上」


:葵ちゃん助かってよかった!

:鴉おつ

:おみごとですわ

:これ保存しとけ

:切り抜き誰か頼む


「コマンド。配信終了」


〈ライブ配信を終了しました。

 警告:配信アカウントへの不審な外部アクセスを検知しました。自動保護により、アクセスはブロックされました〉


 部屋の音が、急に戻ってきた。


 ファンの回る音。

 遠くのサイレン。

 自分の息。

 机の上には、飲みかけのエナドリ。


 モニターには、配信終了の文字。

 ゲームならリザルト画面が出るところだ。


「……マジで、助けられたのか」


 あの瞬間だけは、コントローラー越しに手が届いた。

 その実感が、遅れて来る。


 ARコンタクトの端に、未読通知が一つ。

 差出人は、妹のさくら。


 今の配信を見て、心配してくれたんだと思った。


『みーちゃんが――お兄ちゃん、助けて』


 そこで、メッセージは途切れていた。


 今日は、さくらは友達の美咲ちゃんの家にいるはずだった。

 俺はすぐに音声入力で返信する。


美咲みさきちゃんがどうした?』

『返事してくれ』

『さくら、今いる場所を送って』


 既読は、つかない。

 ビデオ通話をコールしても、呼び出し音は鳴らない。


 さっきまで、俺は空の誰かを助けた気でいた。


 画面の外で。

 妹が、()()()()()

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