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第29話 あの人まだ前に進んでる

:また相打ち!

:釣り糸かよw


 絡まった敵ドローンの一機が、空中で小さく爆ぜる。

 火花が散り、近くを飛んでいたダンボール機が二機、三機と巻き込まれて落ちる。


:KAMIKAZEきた

:ダンボールが軍用ドローンに勝ってる!

:味方も巻き込まれたぞ


 次はNPI(インスタンス)の目だ。

 ダンボール機が、墨汁水風船ごと頭部へ突っ込む。


 10機ほどが、斜め上から頭部を狙う。

 半分は風に流されて外れる。

 二機は肩や胸で潰れる。

 頭部で割れたのは、二機だけだった。


 NPI(インスタンス)二機のセンサー列が黒く塗られた。


:墨いった!

:顔面真っ黒で草

:NPIのセンサー潰した?

:効くのかよこれ

:墨つえええ


 強度はただのダンボールだ。

 NPI(インスタンス)が腕を振るだけで、何機も紙くずみたいに弾け飛ぶ。


:よわwww

:俺の機体、三秒で死んだ

:NPIはなんで銃出さないの

:ドローン相手なら散弾銃

:外れた弾が近くのデモに行くだろ


 顔も名前も知らない、全国のどこかにいる誰かが、自分の指で軍用ドローンへ体当たりしている。


 玉さんの声が早くなる。


「残り20機。生き残ってる機体は、低く。橋沿いに回り込め」


 ダンボール機の群れが、わざと敵の近くを乱れ飛ぶ。


:数で押してる、のか?

:BULKが動かないのなんで

:この程度じゃ子猫パンチ扱いなんじゃね

:またKAMIKAZE、入った。敵ドローン、三機は巻き込んだGJ

:安物を無視できないの草

:工作勢、ちゃんと仕事してる


 AIの照準が、目の前の小さな脅威へ吸われていく。


 少し奥にいたBULK(バルク)が、動く。


 対岸を向いていた体をこちらに向ける。

 太い脚がアスファルトを踏み、前に出てくる。


 近接防空レーザーが、ダンボール機の群れをなで斬りにする。

 一度に何機も、火を噴いて落ちる。


:BULKだ

:言ったら動いた

:やっぱBULK無理だろ

:ダンボールが一瞬で溶けてる


「でも、みんなGJ(グッジョブ)。敵ドローン、ラス五」

NPI(インスタンス)二機、センサー不良。残り四機は橋入口を警戒している」


 あと少し。

 あと少しで、タロンを出せる。


 敵のBULK(バルク)が一歩踏み出し、落ちたダンボール機を踏み潰す。

 その足元を、残ったダンボール機がすり抜けていく。


 タロンを出したい。

 だが、焦った指は一番弱い。


「まだだ、団長。敵ドローンが残ってる。NPI(インスタンス)の目も潰し切れてない」

「……ケーブル切られたら終わり」


 ミニマップでは、敵BULK(バルク)のアイコンの前に、赤い人型と丸がまだ残っている。


 橋の手前に固まっていた人たちが、ざわついている。

 前の方から「今なら渡れる」という声が広がる。


 ミニマップの端で、黄色い点が一つだけ飛び出した。


 見ると人影が橋の中央を避け、欄干寄りの端へと走り込んでいる。

 大きなリュックを背負った、中年の男だった。


:え、人が出た

:おいおいおい

:戻れ!!


『警告。橋上への進入は禁止されています。直ちに停止してください』


 NPI(インスタンス)の平坦な声が、夜の橋に響く。

 男は、止まらない。


 白い線が二本、男へ飛んだ。


 男が、声もなく崩れた。

 アスファルトの上で、固まった身体が跳ねる。


 あれを、俺は知っている。

 奥歯が勝手に噛み合って、コントローラーを握る指先が、痛みを思い出して一瞬硬直する。

 胸と脇腹に刺さる、熱い針。


:撃たれた!

:テーザーだ

:やめろやめろやめろ


 それでも橋へと走り込む人が続く。

 五人、六人。

 止める人の腕をすり抜けた人影が、車道の端へ転がり込む。


『警告。停止してください。従わない場合、テーザー銃を使用します』

『警告。橋上への進入は禁止されています』

『警告。動作を停止して――』


 同じ警告が、二つ、三つ、重なって響いた。

 白い線がまた飛んで、走り込んだ女の人が膝から落ちる。


「……ギルマス、まだ出ちゃだめ」


 月読が警告する。


 分かってる。

 ミニマップだけ見れば、それが正解だ。


 ゴーグルの中で、倒れた男が、まだ這っている。

 戻る方向じゃない。

 針を刺されたまま、震える腕でアスファルトを掴んで、橋の向こうへ進もうとしている。


:あの人まだ前に進んでる

:なんで逃げないんだよ

:……向こうに家族いるんだろ


 俺の指は、もう決めていた。


「予定変更だ! 先に出る!」

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