第27話 操縦してくれる人はDMください
:ラジコン飛ばす会じゃなかった
:WWUに喧嘩売るのか
:……マジのやつだ
:おーガンバレ
:これ、捕まらないの?
:タイトル詐欺すぎるww
:戦争にならないのか
:余計なことすんな
:急に本編始まった
「これまで協力してくれたリスナーは、ただの工作企画だと思って手伝ってくれただけだ。責任は、全部俺が持つ」
:それ配信で言っちゃうのか
:だから今まで秘密だったのか
:工作勢、急に免責される
:そこまで考えてたのかよ
:録画残るぞ
:今のは普通に惚れる
「ただ、今から募集する操縦者は、別だ」
:何が別?
:操縦は安全じゃないの?
:見る専に戻っていい?
「反対デモに参加した人たちみたいに、拘束される可能性がある」
:それ先に言うの偉い
:怖すぎ
:ログ残るやつじゃん
:お前が騒ぐから犠牲出るんだろ
:通報するやつ絶対いる
:鴉、無理すんな
「だから、操縦者はWWUに占領されていない地域の人だけ募集する。封鎖圏内の人は、手を挙げないでくれ」
:東京の中からは無理か
:田舎からでも飛ばせるのか
:操縦枠まだある?
:WWU刺激するな
:都内だけど手伝いたかった
:WWU管理で生活マシになるって人もいるんだが?
「WWUが正しいのか、間違ってるのか。正直、俺には分からない。でも、橋が通れず、困っている人がいる。それだけは確かだ」
:分からないって言えるのは正直
:それで動くのが一番怖いんだよ
:ごめん、やっぱ怖いから一回閉じる
:無理すんな。アーカイブ残るしな
:てかお前、何様のつもりだよ
何様。
それは、俺が一番聞きたい。
画面の端でDM通知が跳ね続ける。
手伝う。やめろ。怖い。通報した。
文字が重なって、声が出ない。
:鴉?
:止まった?
「……何様でもない。この前まで、コメント三つで喜んでた底辺ゲーム実況者だ」
この口調は、心に仮面を被せているからだ。
知らない名前が増えるたび、素の俺はビビって緊張する。
マイクの前で『実況者・鴉』のスイッチを入れれば、不思議と声が出る。
「川の向こうに、帰れない人がいる。家族と引き離されたままの人がいる。その人たちに、手を貸してほしい。手伝ってくれる人はDMしてくれ。詳細はそっちで伝える」
最初は、さくらを助けるためだった。
橋の手前で止まった車の列を見ていると、声に勝手に熱が混じる。
あの列を、向こう側へ通したかった。
:は??? マジで言ってんの?
:これ犯罪予告じゃないの
:WWUに従えば40万円のBI貰えるんだぞ
:従ったら家族と会えるのかよ
:反対派が暴れるから封鎖がきつくなるんだろ
:封鎖してるのはWWUだろ
:うちの近所、占領後のほうが治安いいのは事実
:教育センター送りを治安って呼ぶな
:火炎瓶投げたやつもいたじゃん
:それ全員じゃねえだろ
:テーザーでも普通に死ぬことあるぞ
:じゃあ余計に逆らうなよ
:逆らわなきゃ帰ってくる保証あんの?
:垢BANされる前にミラー頼む
:受容派だけど、逃げたい人を止めるのは違うと思う
:甘いこと言うな。混乱増やすだけ
:混乱してるから助けるんだろ
:これ内乱じゃないの?
:家族に会うために橋を渡るのが内乱かよ
:怖いから俺は降りる
:俺はやる。親が東京側にいる
:こっち地方。回線でいけるなら出せる
:鴉、早くしろ
コメント欄は割れる。
画面の隅でDMの受信通知が、鳴り止まない。
わずか5分で、80の操縦枠はすべて埋まった。
◇
「玉さん、パイロットは全員準備できているか」
「全員接続済み。操縦枠、80。予備含めて90人」
橋を見下ろせるマンションの屋上から、玉さんの声が返る。
「中継ドローンは?」
「もう上げてる。もう少しで、橋周辺の盤面化が終わる」
「盤面化?」
「敵味方の配置を駒として、こっちで俯瞰図に組み直す。奥行きは残すが、操縦者にはゲームに近い見た目まで単純化する」
ゴーグルの端に、橋周辺のミニマップが開く。
青と赤のアイコンが、道路と橋のふもとに散っている。
「色の違いは?」
「味方は青、敵は赤。小型機は丸。NPIは人型、BULKとタロンは機体シルエットで出す」
玉さんの声は、いつものゲームの作戦会議に近い。
ただし、今夜の戦場は、本物の市川橋だ。
「敵は橋のBULK1機、NPI6機、ドローン24機。目的は避難ルートの確保。渡りきったら即時撤退だ」
「要は数十分、道をこじ開けときゃ勝ちってこったな」
「……大型増援到着でGG。ドローンに追跡されてもGG」
玉さんが状況を整理する。
牙っさんが、現場で成立する勝利条件を言う。
月読が、失敗条件だけを短く刺す。
俺が、行くか止めるかを決める。
いつものレイドと同じだ。
違うのは、失敗がリトライで済まないことだけだ。
俺は、手元のコントローラーを一度見た。
開始ボタンを押すのは俺だ。
今、俺の知らない誰かが、自分の部屋で、コントローラーを握っている。
高校生。仕事帰りの会社員。俺と同じように、画面の向こうにしか居場所のなかったやつ。
配信画面の端に、80人分の接続ランプが並んでいる。
視聴者数じゃない、味方の数だ。
この数十分だけ、ここは、こいつらの戦場だ。




