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第21話 素材の前に人集めだろ

 玉さんが、江戸川沿いの封鎖ポイントを重ねた。


「市川橋への増援到着を三十分と見るのは楽観的だ。最短十分と思った方がいい」

「避難民を通すのに数十分だろ。足りねえじゃねえか」

「そうだ。橋を開けても、渡り切る前に増援が届く。この時間を稼ぐ手がいる」

「……近隣の主要道路を全部通行止め」


 月読の条件は、無茶だった。

 通話が、少しだけ黙った。


「では、アヤの出番ですわね」


 重くなった空気に、その声だけが涼しく通った。


「何をするつもりだ」

「毎日どこかでデモが起きていますわ。怒っている方々は、もういらっしゃるんですの」

「デモを大きくする気か」

「いいえ。鐘を鳴らす場所と時間を、少しずらすだけですわ」


 軽い言い方なのに、やろうとしていることは軽くなかった。


「……危ないことはするなよ」

「はい。心配してくださって、うれしいですわ」


 アヤは、少しだけ笑った。


 市川橋で、俺たちはタロンを初めて人前に出す。

 どこまで動けて、どこから先は無理なのかも、そこで嫌でも分かる。


「よし。工作系の募集だ。どこで人を集める?」

「そこは、ダーリンの配信を使いますわ」


 アヤが即答する。


「ハチドリ隊員救出の切り抜きが、今も伸びていますわ。その流れを使いましょう」

「名目はどうするんだ?」

「ダンボールラジコン機を飛ばす参加企画ですわ。詳細は当日まで伏せたままで十分です」

「それで集まるのか?」

「はい。今は移動も制限されていますし、皆さまSNSに張りついていますもの」

「もう一つ。当日は、開始の一時間前から公開配信にしてくれ」

「操縦者を集めるのか」

「ああ。市川橋の敵ドローンは24機。ダンボール機は落ちる前提だ。最低でも50人は欲しい」

「……録画は残る。あとで拾われたら終わり。はいGG」

「それには、手を貸す人を犯罪者にしない線引きがいる」

「法律の話か」

「ああ、今の日本には、まだ使える理屈が残っている」


 玉さんはそれだけ言って、詳細は話さない。


「まーなんだ。今回は素材集めから組む。武器クラフトだな、団長」

「素材の前に人集めだろ」


 そう返しながら、俺は配信枠の準備を始める。

 配信画面の向こうにいる人たちを協力者に変える。


 工場の奥には、まだ黒く塗装中のタロンが片膝をついている。

 未完成で、遅くて、太いケーブルを切られたら終わる巨体。


 妹を連れ去った灰色の腕に、こっちの腕をぶつける。


「コマンド。ダンボール製のラジコン飛行機、芝生、明るいイベント風でサムネ作成」


〈画像を生成しました〉


 俺は配信のサムネに募集の文字を置いた。



 その夜の『からすねぐら』は、ゲーム配信ではなかった。


 いつもどおり、俺の顔も出さない。


 開始時点の画面には、サムネだけを出す。

 平和すぎる絵だったが、文字だけよりはマシだ。


 〈ダンボールラジコン協力者、募集〉


「今夜もエナジー全開のねぐらへようこそ。常闇のはぐれ鳥、鴉だ!」


:カーカー(こんばんは)

ねぐらの引きこもりさんこんばんは

:鴉、コンタクト!

:はぐれ鳥(開幕即死)さんこんばんは

:今日も魔剤キメてる


 画面の隅で、同接の数字が動き出す。

 最初に流れるのは、いつもの常連の煽りだ。

 今日はそこで止まらない。

 ハチドリ隊員救出の切り抜きで知った新規が、ぽつぽつ入ってくる。


〈視聴者数:312〉


 知らない視聴者が増えるほど、中二くさい名乗りが気まずい。


:おっ、鴉だ

:葵ちゃん助けた人じゃん

:生きてた!

:WWUに捕まってないの?

:切り抜きから来た


 知らない名前が、画面を流れていく。

 マイクの前で、口の中が乾く。


 同接二桁の部屋で二年喋ってきたはずなのに、三百が、こんなに重い。

 開けてあったエナドリを一口流し込んで、実況の口調を被り直した。


「さて。今日の配信はゲームじゃない。リアルイベントの協力者募集だ。たぶん人生で一番ガチのやつ」

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