第20話 それなら、橋ですわ
明るいお嬢様口調のまま、やろうとすることはかなり強引だった。
タロンだけでは届かない場所へ、数で手を伸ばす。
「画面の向こうは、ただの数字ではありませんの。ダーリンが本気で呼べば、手を伸ばしてくれる人が必ずいますわ」
「……雑に広げたら、足跡も増える」
月読が、すぐに釘を刺した。
「ですから、最初に出すのは工作系だけですわ。当日まで操縦の話は出しません」
「玉さん、俺、ビビってる。巻き込む人数が、急に八咫烏の外まで広がった。整理したい。これでやれる形になったのか」
「ああ、勝ち筋の形は見えた。ただし、タロンがどこまで動けるか、ダンボール機が何機揃うかは未知数だ。勝率を出せる段階じゃない」
見えたのは、細く危うい抜け道だ。
待っていれば好機が来る、なんて思わない。
ゲームでも現実でも、チャンスは作ってから拾うものだ。
「じゃあ、俺たちは次に何をすべきだ?」
「検証だ。タロンの戦闘力。ダンボール機の飛行性能。ダンボール機に積んだ墨と糸が、NPIやドローンにどこまで効くか」
「シミュレーションでは駄目ですの?」
「タロンの走行と、ダンボール機の単体飛行まではシミュレーションできる。けれど、戦闘と妨害は別だ」
「相手がいるからか」
「そうだ。BULK同士でぶつかる負荷も、墨や糸の効き方も、相手が動いて初めて分かる」
「都内のどこかでダミー相手にこっそり検証するか?」
「パトロールドローンがいる。都内は目立つ」
質問を重ねるたび、玉さんの答えは短くなる。
潰れた選択肢だけが、増えていく。
「牙っさん、包囲の外まで運んで試せるか?」
「すぐには無理だ。道路は封鎖されてる。水路もタロンを積める船を、すぐ用意できねえ」
「時間をかけて準備するのは?」
「北京移送まで十五日しかない。ダンボール機を集めるだけでも時間を使う」
「小菅でも封鎖ポイントでもいい。少数だけ釣り出して試すのは?」
「どちらも防衛優先で、持ち場を離れない。近隣のパトロールドローンを呼ぶだけだ」
「じゃあ、すぐ撤退できるステージを選んで、WWU相手に実機テストするしかないのか」
「そうなる」
俺は、すぐにはうなずけなかった。
「テストのためだけに戦闘を起こすのは違う気がする」
俺たちは軍隊じゃない。戦争を始めたいわけでもない。
ただ暴れるだけだと、テロ扱いだ。
「それなら、橋ですわ」
共有画面の地図が、江戸川へ移動する。
SNSの投稿が、地図の上に重なる。
「WWU封鎖圏から出たい人たちがいます。自宅に帰れなくなり、家族と分断されている方、子供だけでも逃がしたい方。橋周辺の写真と動画が増えていますわ」
橋の手前で路駐する車列、歩道に座り込む老人、子供の手を引いたまま川の向こうを見ている親など、短い動画と写真で並んでいる。
この人たちが、そのまま橋へ押しかけても、反対デモと同じになる。
銃で撃たれはしない。
だが、音響兵器とミリ波で倒され、灰色の腕に連れていかれる。
人数を集めて正面からぶつかっても、AIは涼しい顔で人を片づける。
「団長、逃げ道をこじ開けようぜ」
「橋をキープする必要はない。数十分だけ、人を通せればいい」
逃げたい人は、もう橋の前にいる。
その人たちが、通れる時間を作るために戦う。
「敵を倒す戦いじゃない。市民を通す時間を作る。これなら協力者にも説明できる。玉さん、候補は?」
移動距離を考えると候補は四つだった。
SNS情報で高速の市川大橋はBULK三機だったので外す。
他はBULK一機だったが京葉線と新葛飾橋は高架で、逃げ道が細い。
残ったのは、国道14号線の市川橋だった。
名前は似ているが、高速の市川大橋とは別の橋だ。
「片道二車線ありゃ、タロンも振り回せるな」
「SNSの情報だと市川橋には、ドローン24機、NPI6体ですわ」
共有画面の地図に、敵数が吹き出しで重なる。
「目的は市民を数十分だけ通すことだ。無力化で足りる」
「倒し切らねえで、援軍が来る前に退くんだな」
「……ドローンに追跡されたら負け」
月読のメモが注意事項として赤枠の吹き出しで追記される。
「時間は?」
「夜だな。日中は避けたい。NPIもBULKも、太陽光でフルパワーになる」
「道路から電気食えるにしても、夜なら多少は出力落ちるだろ」
「逃げたい人への連絡は?」
「ネットには出しませんわ。本当に必要な方へ、信用できる人から信用できる人へ回します」
「残る穴は、増援の到着時間だ」




