第19話 観客を、参加者に変えます
「三機……」
BULKだけで三倍差、初戦で挑むステージじゃない。
玉さんはそこで止まらない。
「NPIは屋外警備だけで十数体。屋内にも収容者の監視に50体前後がいると思われる。さらに軍用ドローンは50機以上」
中川で相手にした戦力は、NPI二体だけだ。ドローン八機は、動き出す前に止められた。
小菅は違う。
三つの数字が、さくらとの間に立ちはだかっている。
「元々の収容者は占領直後に移された。今は、主に自衛官、機動隊員が捕らえられている可能性が高い」
「だから警備が厚いのか」
俺は、画面の小菅を見たまま続けた。
「妹がいる。分かってる。けど、タロンの初戦で小菅に突っ込んで、壊したらすべて終わる」
タロンは動く。
けど、まだ動いただけだ。
「タロンだけで小菅を落とせると思うか」
玉さんは、少しも迷わなかった。
「無理だ。複数のBULKを相手にしている間に、NPIとドローンが回り込む」
「……ケーブル切られて終わり。はいGG」
「月読ちゃん、言い方がストレートすぎますわ」
「全部無理って話じゃねえ。NPIは水風船で目ぇ潰せる。ドローンは太い糸で落ちる。団長がやってみせただろ」
単独なら攻略法は知っている。
だが、小菅は数が違う。
俺たちの手札では、数が足りない。
「……少数相手の成功。小菅じゃ不足」
月読の短い判定に、俺はうなずくしかなかった。
「相手の手数に対抗する手段が欲しい」
「銃と弾は捨てた。BULKをもう一機見つけられたとしても、動かす手が足りねえ」
牙っさんの現実論を受けて、俺は玉さんへ振った。
「玉さん、何かアイデアないかな」
「ある。まともな兵器ではないし、たぶん最初は笑われる」
「笑わない。使える話なら聞く」
「ダンボール製のドローンだ」
「おいおい、空におもちゃ飛ばす話か?」
共有画面に、古い記事が出る。
昔の戦争で使われた、ダンボール製の固定翼ドローン。
「ドローンと言っても、これはホバリングする高級機じゃない。ほとんど固定翼ラジコンだ。機体はダンボールでいい」
「で、中身の電子部品はどうすんだ?」
牙っさんが即座に突っ込む。
「家庭用の対戦ロボのおもちゃから抜く。前から流行っていて、店舗在庫が豊富だ。家庭にもかなりの数が眠っている」
「基板とモーター、バッテリーは使えるな。サーボも取れる。プロペラは3Dプリンターでどうにかなる。ただ、まともなカメラは高ぇぞ」
「今回は積まない。ダンボール機は安く数を出す」
「目がねえラジコンをどう操縦すんだよ」
「まず上空に撮影用ドローンを飛ばす」
「そんなもん、今から買う気か?」
「中川で奪った機体を改造する。そこから映像を合成して、操縦者にはゲームのステージみたいに見せる」
「離れた場所から、その画面を見て動かすわけか」
「そうだ」
要するに、見下ろし型のシューティングゲームだ。
その形なら、俺にも操作の絵が浮かぶ。
玉さんはそこで、月読へ話を渡す。
「ただ、問題が残る。月読、BULKの妨害電波範囲は?」
「旧アメリカ軍情報だと、BULKのジャマーは半径二百メートル前後」
玉さんは別の記事を拡大した。
「初期の戦争用ドローンには、光ファイバーを引いた機体もあった」
「でもよ、何十機も飛ばしたら線が絡むだろ?」
「だから、三百メートル上空の中継機から光で命令を落とす。一方向なら、安い受信機だけで済む」
「ダンボールラジコン機側は受けるだけか。タロンもそれでよくねえか」
「タロンは無理だ。道路上では遮蔽物が多すぎる。空のラジコンとは見通しが違う」
「……雨や煙も駄目」
「ダンボール機は、雨ならそもそも飛ばない。煙の中に突っ込むのは最後だけだ」
「……使える場所、少ない」
「だが、安く数を出せる」
月読は、そういう穴を見逃さない。
「いいじゃねえか。弱くても、数を出せるなら話が見えてくる」
「そうですわ。数を出せるなら、中川で効いた墨入りの水風船も載せればいいんですの」
「後ろに糸。ドローンに効く」
「水風船と糸か。飛ばすなら重さを見ねえと駄目だぞ」
「小さくすれば成立する。ぶつける前提なら、精密さは落とせる」
灰色のNPIの顔が墨で潰れ、空のドローンが糸を巻き込んで落ちる。
きれいに倒す必要はない。
タロンを動かせる状況が作れればいい。
「ただ、小菅のドローンは50機以上だろ。一人で動かせる数じゃねえ」
「一人一機が現実的。二機で上級。ギルマスでも五機」
「急に褒めるな。でも四機が限界だ」
「褒めてない。足りないって言ってる」
「でしたら、足りない分はネットで集めますわ」
アヤの声だけが、迷わなかった。
「操縦者をか?」
「ええ。それと、作れる方も必要ですわ」
「作るって、ダンボール機をか?」
「完成品を各自で作っていただく必要はありませんわ」
「……分業?」
「ええ。部品を出せる方、工作を手伝える方、本格的な装置をお持ちの方、それぞれお願いすればいいんですの」
「待て待て。ネットの素人に作らせるのかよ」
「数は力ですわ。ネットには、いろいろできる方が想像よりずっと多いんですの」
アヤの声が、少しだけ低くなる。
「観客を、参加者に変えます。ただ見るだけの配信を、参加型に変えるんですの」




