第15話 ま、動きゃいいんだよ
午後も遅い時間に、工場の奥で作業を再開する。
受付室のソファから起き上がると、全身の筋肉が悲鳴を上げた。
昨日の電撃が、全身の筋肉痛になってよみがえる。
歩くたびに顔がしかめ面になる。
玉さんが、胸部と背中を順に指す。
「制御系の改造箇所は二つ。胸の奥に変換アダプタ、背中に有線の受信端末」
「胸と背中で分けるのか」
「胸にはコアAIからの端子がある。ここからじゃないと、制御系AIに繋がらない。被弾を考えたら有線接続は背中側だ」
「俺のコントローラーとは直通?」
「間にPCを置いてNPI-MCPへ変換する。視界はPC経由で操縦用ゴーグルへ送る」
玉さんの説明は早い。
半分くらいしか分からない。
「まぁ、任せる」
牙っさんが、背骨に沿って伏せられた砲身を、工具の先で軽く叩いた。
「背中のでかい筒はどうする。レールガン、生きてんだろ」
「生きている。弾倉も十二発入ったままだ」
「お、使えんじゃねえか」
「使えない。水平に撃つには、四つん這いになって、装填と充電で、初弾まで十秒かかる。それと、外した弾は射線上の建物をどこまで壊すか分からない」
「……外したら、住宅街ごとか」
「そうだ。背後に弾を受け止める地形のない市街地では、撃てない」
「じゃあ放置だな。構造理解して外す時間もねえ。外したら重量配分が狂う」
牙っさんが、工具を置いた。
「俺がやるのは、ドローン格納庫を抜く。背中に穴を開ける。端末を固定して、背中から胸まで配線を引き回す。六本の有線を外へ出す。それでいいな」
「合ってる」
「まっ、玉さんがプログラムを書く。牙っさんが組み上げる。俺が動かす。そういうことだな」
その直後、玉さんから部品リストが飛んできた。
「あと、買い出しは君だ」
「俺かよ」
「君が一番、手が空いている」
◇
俺は開いている店が少ない秋葉原で、指定された部品を買い集めた。
戻った頃には、BULKの背中からドローン格納庫が外され、床に黒いレールが何本も転がっていた。
現場組の仕事が早すぎる。
作業台のノートPCで、玉さんが最低限の変換プログラムを走らせている。
PCから伸びたケーブルがBULKに刺さり、画面には状態値が並ぶ。
玉さんの顔はいつも通りなのに、指だけが速い。
俺が画面を覗くと、玉さんは視線を上げずに言った。
「ここは、私の仕事だ」
声は小さかった。
「四十二歳に徹夜でコードを書かせるな」
「一番平気そうな顔してるだろ」
「顔に出ないだけだ」
玉さんは最後のキーを叩く。
走っていたログが止まる。
「ベースのプログラムはできた。あとはモーションを追加していくだけだ」
「おう」
牙っさんは作業台に並べていた変換アダプタと受信端末を拾い、機体へ戻った。
「空いた格納庫跡に受信端末を入れる」
「肩の対空レーザーは?」
「残すが、元々ドローン落とす用だ。BULK相手には決め手にならねえぞ」
牙っさんは、背中のハッチを開ける。
三十二歳の整備士は、ゲームのタンク役そのままに、危険なところへ迷わず手を入れた。
「受信端末は格納庫の枠に固定する。直付けだと振動で死ぬから、防振ゴムを一枚挟む」
「胸までは、どこを通すんだ」
「こいつは外骨格だ。胸部や腹部がパーツ単位で独立してやがる」
「背骨みたいなメインフレームが無いのか」
「無え。胸の中に支持フレームや仕切り板はあるがな。代わりに、装甲の裏側に配線溝がいくつも走ってる。そこへ滑り込ませる」
「そこまで分かるのか」
「配線の通し方は車と同じだ。可動部で擦れる所や熱を持つ場所を避けて、元からある配線束に耐熱タイラップで縛り付けるのが一番確実だ」
「BULKなのに、車と同じでいいのか」
「BULKに使われてるパーツは化け物だ。コアAIも、超伝導モーターも、固体電池を兼ねた複合装甲も、国と大企業が本気で追ってるような代物だ」
牙っさんは、受信端末の向きを変えて端子を見た。
「だが、組むだけなら、部品数はむしろ少ねえ。最新の電気自動車より、よっぽど追いやすい」
「結論が急に町工場だな」
「ま、動きゃいいんだよ」
胸に変換アダプタが入る。
背中に受信端末が固定される。
言ってることは雑だが、仕事は丁寧だ。
「外の線は六本。プリカに通す」
「名前聞いても分からん」
「電線を保護する曲がるパイプだ。真上から銃で撃たれたら終わりだが、裸よりはマシだ」
牙っさんが、金属の蛇腹管を床に転がした。
「断線対策で六系統にする。左右三本ずつ、ずらして出す」
「そんなに散らすのか」
「一か所やられて全部切れたら終わりだ。その先は絡まないように帯状に束ねる」
残機六じゃない。
六しかない。
「その帯状ケーブルをBULKに踏まれたら?」
「走行中のタイヤに踏まれる程度なら、大型トラックでも大丈夫だ。だが、全体重で踏み潰されたら一発で駄目になるだろうな」
「敵に踏まれたらアウト、自分で踏んでもアウト、か」
「小銃が当たって一本二本千切れるくらいなら通信は維持できる。そこらの柱や壁の角に擦るくらいなら大丈夫だ。まぁ、あんまり考えてもしょうがねぇ」
作業が進むたびに、ただの巨大な部品だったこいつが、少しずつコントローラーの先へ近づいてくる。
溶接の火花が散り、油の匂いに、焦げた金属の匂いが混じる。




