表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/51

第14話 物理で話を終わらせるのは強い

「俺が操作か……」

「さくらさんを取り戻すために動いているのは君だ。それに、君は画面の中の変化を拾うのが異常に速い」

「手の速さじゃなくて、見る方か」

「それもある。だが、一番おかしいのは目だ。敵の動き、味方の位置、地形、警告表示。普通の人間が順番に読むものを、君は一度に拾う」


 っさんが、工具を持ったまま笑った。


「撃ち合いゲーで世界ランク取るやつは、目からもう変態ってことか。団長、こういう時だけは信用できる」


 俺は、少しだけ苦笑いした。

 俺の手が、無意識にコントローラーを握る形になった。


 頭のない巨体。

 そこへ、俺の入力を繋ぐ。

 これが、さくらに届く手になる。


「やる」


 声は、思ったよりはっきり出た。


「操作は俺に任せてくれ」


 空っぽの巨体が、俺の返事を待っていた。


「ゲームみたいに俺が操作する。俺の入力を、機体用の命令に変換する」

「そうだ。ただし、今は変換するだけだ。自動照準も操作アシストもない。さらに反応も必ずワンテンポ遅れる。君がボタンを入れて、機体が準備して、関節が動き始める」


 玉さんは、そこで一度だけ画面を見た。


「本当は、君の操作を先読みして、機体を準備させておきたい。将棋AIの玉響たまゆらで培った学習と予測を流用すれば、たぶん作れる」

「それ、すげえな。今すぐ欲しいやつだろ」

「すぐには無理だ。時間をくれ」


 っさんが、機体の背中を覗き込んだ。


「おい、それ勝手に動き出すやつじゃねえだろうな」

「それはさせない。予測の責務は準備までだ。実行はコマンドが来てからだ」

「で、その肝心のコマンドはどうやって届けるんだ? やっぱり無線か?」

「無線は簡単に妨害される。WWU(ユニオン)相手に無線で動かすのは安定しない」

「可視光通信にすれば?」

「見通しが要るのと、雨、煙、粉塵で通信速度が急減する。戦闘中に発炎筒を一本焚かれただけで、制御が効かない」

「さっき俺らがやったやつで死ぬのか」

「そうだ。可視光通信だとバレたら、敵も当然考える。だから有線で直結する」


 俺は、背中から伸びるケーブルの位置を想像した。

 無線より不便で、動ける場所も縛られる。

 けど、その線が残っている限り、この機体は俺の手から離れない。


「方針は決まった。最初の作業は通信系の切断だ」


 玉さんが背面へ回り、ドローン格納庫の脇にある通信ユニットを指さした。


「無線通信ユニットだ。繋がれば、ここがばれて、遠隔で止められる」

「止めるには?」

「ケーブルを引っこ抜いて、通信ユニットを叩き割る」

「乱暴だな」

「有線で動かすなら、無線は敵の入口でしかない」


 玉さんが、BULK(バルク)の頭部を包むアルミ保温シートを指で叩いた。


「この即席シールドが電波を弱めているうちに、さっさと外してくれ。こんなものはただの気休めだ、あまり信用できない」

「可視光通信は?」

「そっちは設定で切る。ユニットが光学センサーと一体だ。外すと視界まで死ぬ。無線ほど機体制御の根っこに食い込んでいないはずだ」


 っさんが工具箱を引き寄せた。

 玉さんが画面上で通信ユニットの位置を示し、っさんが工具を差し込む。

 図面と、床に寝ている巨体が、少しずつ同じものになっていく。


「こっちの制御系はどうすんだ」

「制御系AIとは、さっき指を動かしたNPI-MCP(NPI通信プロトコル)で通信する」

「軍用機だぞ。それが公開されてんのか」

「ベースはNPI(インスタンス)だ。民生作業アタッチメント用に通信仕様が公開されている。歩け、止まれ、手を開け。その程度なら同じ指示でいける」

「殴る蹴るまで、そのまま通るわけねえよな」

「そこは動かしながらログを読む。BULK(バルク)独自の制御は、試して、失敗して、少しずつ解明する」


 玉さんは、ノートPCを一台、作業台へ置いた。

 そこから伸びたケーブルが、BULK(バルク)の胸部に開いた保守端子へつながっている。


「外部との通信は切ってあるPCだ。まずはログを確認する」


 モニターに、機体の内部ログらしきものが流れ始める。

 分からない単語の方が多い。

 それでも、赤く点く警告だけは見える。

 赤はだいたい、ろくでもない。


〈コアAI疎通そつう確認:未応答〉

〈位置情報定期取得:エラー[コード103:GPS電波が取得できません]〉

〈エリア統括AI定期報告:通信エラー[コード401、300秒後にリトライ]〉


「……通信しようとしてたのか」

「だから切る」


 っさんが背面の通信ユニットを引きずり出す。

 固定具を外し、外向きのアンテナ線を抜く。

 火花が一度だけ跳ね、焦げた臭いがした。


「この束も外していいか?」

「待て。全部抜くと、安全系も落ちて、制御系AIが立ち上がらない」

「じゃあ、外へ出る線だけ殺す」

「物理で話を終わらせるのは強い。迷うところが減る」

「理屈は玉さんに任せる。俺は動くようにするだけだ」


 最後のケーブルが抜けると、玉さんが小さく息を吐く。


「切れた。これで、こいつは誰のものでもない。ここからは、こっちの盤面だ」


 玉さんはそこで、ようやくおにぎりの封を切る。

 二口で半分ほど食べ、冷めた缶コーヒーを一口だけ飲む。

 それから、何事もなかったみたいにPCへ視線を戻した。


 シャッターの隙間が、うっすら白くなっている。


 っさんは、一度家へ戻った。

 俺と玉さんは、受付室のソファに沈んだ。


 背中にかけた古い毛布から、機械油と洗剤の匂いがした。

 目を閉じた瞬間、落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ