第十八話 聖剣と聖衣の選択
「あの村に、刃などなかった」
ロードは足元の泥を気にも留めず、セラヴィアの傍らに立った。
竜騎士の流麗な輪郭が、この時ばかりは歪んで見えた。
「殿下の命令だ」
兜を脱がぬせいか、ラグナスの声は冷たいほど平らだった。
セラヴィアは黒煙の混じる雨上がりの空へ目をやり、ドロネオールを思った。
――私たちの中で、群を抜いた才。
聖衣に選ばれし者。
雨を呼び、虹を架けたあの手を、あの日以来見ていない。
ドロネオール。
本当は、こんな黒煙など私たちに見せたくはなかったのだろう。
「勇者一行はこの先だ」
セラヴィアは背を向けた。
脚の上がりが鈍い。
きっと、ぬかるみのせいだ。
♢
手の感覚がまだ鈍い。アレンはようやく聖剣を下ろし、狭い宿の壁に立てかけた。
横になる気にもなれなかった。
窓の外。小さな灯りの奥に、ひどく疲れた顔がある。自分の顔だと気づくまで少しかかった。
魔族。
聖剣がそう告げた。
ソラとシルバ。
名前も、出身も。火のそばで聞いた、怯えたように笑うあの小さな話も――どこまでが本当だったのか。もう、確かめようがない。
魔族だから斬った。
血が、クローディアの髪と頬に散った。まだ後ろにいる。聖剣を握り直し、次へ向ける。
ユーナがクローディアのそばへ駆ける気配。声は聞こえない。背中に視線だけが刺さっていた。
責められているとは思わない。
それでも、沈黙は重かった。
俺は聖剣を振るう。
正しいことをしている。
魔族を許さず、仲間を守っている。
――そう思わなければ、次の一歩が出なかった。
♢
湯で流しても、髪には血の匂いが残った。
地面以外で横になれるのは、いつ以来だろう。
仰向けになって、両手を上げてみる。
ソラとシルバ。
聖剣はもう、魔族を選ばない。だが、今こうして息をしているのは、あの残酷な選択のおかげだ。
二人とも、まだ十五にも届いていなかった。
目の前で首が落ち、血飛沫を浴びた。
人間と同じ、温かい赤。
その奥で、勇者はもう次の敵へ刃を向けている。
ユーナが駆け寄り、白い袖で頬を拭ってくれた。けれど、声はかけない。
ユーナは二人の若い魔族には一瞥もくれず、ただ聖剣を振るう男へ向けて、小さく告げた。
アレン様。
私が、必ず。
♢
アレンは斬った。
一寸の躊躇もなく、二人を。
一つ、二つ。
鈍い音。
仲間の狩人は赤く染まり、膝立ちのまま動かない。
セラヴィアが驚いたのは、あの双子を斬り落としたことではない。
目だ。
アレンの目。
あれは同じだ。
――我が君主に。
聖剣は張りついた血を拭われもせず、こちらへ向いた。背後にはアレンの仲間が控えている。
分が悪い。
引くか。
だが、見ただろう。
あれが、聖剣を持つ者の本質だ。
お前たちが邪悪と罵る我々と――何が違うのか。




