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第十八話 聖剣と聖衣の選択

「あの村に、刃などなかった」


 ロードは足元の泥を気にも留めず、セラヴィアの傍らに立った。


 竜騎士の流麗な輪郭が、この時ばかりは歪んで見えた。


「殿下の命令だ」


 兜を脱がぬせいか、ラグナスの声は冷たいほど平らだった。


 セラヴィアは黒煙の混じる雨上がりの空へ目をやり、ドロネオールを思った。


 ――私たちの中で、群を抜いた才。

 聖衣に選ばれし者。


 雨を呼び、虹を架けたあの手を、あの日以来見ていない。


 ドロネオール。


 本当は、こんな黒煙など私たちに見せたくはなかったのだろう。


「勇者一行はこの先だ」


 セラヴィアは背を向けた。


 脚の上がりが鈍い。


 きっと、ぬかるみのせいだ。



 手の感覚がまだ鈍い。アレンはようやく聖剣を下ろし、狭い宿の壁に立てかけた。


 横になる気にもなれなかった。


 窓の外。小さな灯りの奥に、ひどく疲れた顔がある。自分の顔だと気づくまで少しかかった。


 魔族。


 聖剣がそう告げた。


 ソラとシルバ。


 名前も、出身も。火のそばで聞いた、怯えたように笑うあの小さな話も――どこまでが本当だったのか。もう、確かめようがない。


 魔族だから斬った。


 血が、クローディアの髪と頬に散った。まだ後ろにいる。聖剣を握り直し、次へ向ける。


 ユーナがクローディアのそばへ駆ける気配。声は聞こえない。背中に視線だけが刺さっていた。


 責められているとは思わない。


 それでも、沈黙は重かった。


 俺は聖剣を振るう。


 正しいことをしている。

 魔族を許さず、仲間を守っている。


 ――そう思わなければ、次の一歩が出なかった。



 湯で流しても、髪には血の匂いが残った。


 地面以外で横になれるのは、いつ以来だろう。


 仰向けになって、両手を上げてみる。


 ソラとシルバ。


 聖剣はもう、魔族を選ばない。だが、今こうして息をしているのは、あの残酷な選択のおかげだ。


 二人とも、まだ十五にも届いていなかった。


 目の前で首が落ち、血飛沫を浴びた。


 人間と同じ、温かい赤。


 その奥で、勇者はもう次の敵へ刃を向けている。


 ユーナが駆け寄り、白い袖で頬を拭ってくれた。けれど、声はかけない。


 ユーナは二人の若い魔族には一瞥もくれず、ただ聖剣を振るう男へ向けて、小さく告げた。


 アレン様。


 私が、必ず。



 アレンは斬った。


 一寸の躊躇もなく、二人を。


 一つ、二つ。


 鈍い音。


 仲間の狩人は赤く染まり、膝立ちのまま動かない。


 セラヴィアが驚いたのは、あの双子を斬り落としたことではない。


 目だ。


 アレンの目。


 あれは同じだ。


 ――我が君主に。


 聖剣は張りついた血を拭われもせず、こちらへ向いた。背後にはアレンの仲間が控えている。


 分が悪い。


 引くか。


 だが、見ただろう。


 あれが、聖剣を持つ者の本質だ。


 お前たちが邪悪と罵る我々と――何が違うのか。

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