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第22話 元社畜、新型端末展示会で悪役令嬢をたらし込む(予定)

 

「よし、みんな揃ったな。 準備は出来ているか?」


 今日はいよいよ魔導器具マジックアイテム展示会が開かれる日。そして「アルカディア」がデビューする日だ。


「うん、大丈夫よ。 現地での集合時間は午前10時。アルカディアの搬入は、学院の運搬サービスに頼んでおいたわ」

「大荷物専用の、転移魔法を運用するサービスがあるんだったか、助かる」

 一口に転移魔法といっても、数人プラス、手荷物を運ぶ小規模なもの (ルーラみたいなやつだ)と、物資の運搬などに使われる、数トンの重量を運べる大規模なものがあるらしい。後者を運用できる魔導士ギルドは限られているので、マルティナのつてがあって助かった。たまには役に立つではないか。アルカディアの山を抱えて、何往復もするのかと思ったぞ。


 ちなみに、大規模な転移魔法を運用できるギルドは限られているため、宝石などの高価なものを除き、物流の主流は海運である。


「兄さん、わたしたちも大丈夫だよ」

「大丈夫っす~。 デモ用の大型アルカディア (モニターサイズ21型)も運んでもらいますんで」

「準備万端です♪ 上流階級の奥様方を落とすパンフレット (意味深)も、ほら、こんなに」

 お、おう、バッチリなようだ。なにやら、禍々しいオーラを放つ、パンフレットとやらから目をそらす。


 今日は公式の場なので、男組は礼服を着ている。女性陣は落ち着いた色彩のドレス姿だ。あくまでビジネスの場なので、肩・胸元は見せないフォーマルな雰囲気。


 3人とも髪を結いあげており、うなじを見せている。耳にはイヤリングを付け、丸眼鏡をかけている。こうすると、とても知的で落ち着いた女性に見えるから不思議だ。少し高いヒールに、歩きにくそうにしている遥がカワイイ。


「ふむ、3人ともなかなか素敵じゃないか。やはり相手が貴族ともなると、多少のおめかしは必要となるな」

 俺もさりげなく、グランドサイコーの高級腕時計をしている。 (ボーナスはたいた)日本の高級機械式腕時計のクオリティに、世界は驚愕するであろう。これをきっかけとして、帝国貴族令嬢との、ワンナイトロマンスも夢ではあるまい。


 そういえば、最近タイムラインでよく「悪役令嬢」という言葉を見るが、何なのだろうか?

「わんないとろまんす、って、兄さん。 今日は日帰りだよ?」

 ……妄想が思わず声に出ていたらしく、遥に突っ込まれてしまった。そうなのだ。残念ながら、今日の出張は日帰りなのだ! くっ、宿泊日当が付かない! おのれ転移魔法め……


 俺たちは、とりとめのない雑談をしながら、出発の時間まで過ごすのであった。


 **  **


 転移魔法を使い、ヴァイナー帝国帝都、第78転移ポートを目的地として、移動する。

(転移魔法で移動するのは初めてだったので、なにかすごいエフェクトが発生するのかと思っていたが、案外普通でがっかりした)


 転移先は街中だと思っていたが、周囲を森と瀟洒な邸宅に囲まれた、小高い丘の上だ。邸宅の庭や植木が丁寧に手入れされているところを見ると、この辺りは貴族街のようだ。到着した俺たちを、初老の執事が完璧な作法で案内してくれる。


「兄さん、凄いね、あの執事さん。イギリスのバトラー(執事)に勝るとも劣らないよ」

 遥が、目をキラキラさせながら感心している。そういえば、遥はイギリスに住んでいたことがあったな。


 俺たちが通された建物は、平屋だが、天井が高く、広さは100メートル四方はあるだろうか。迎賓館を思わせる豪華な装飾が、あちこちに施されており、貴族連合とやらの財力の巨大さを想像させる。大広間が展示会スペースになっているようであり、俺たちは先行して到着していた荷物を確認し、魔導学院のスタッフと協力してディスプレイしていく。


「こうしていると、ビッグサイトで開かれるコズミック・マーケットみたいっすね」

 淳が楽しそうに作業している。コズミック・マーケットとは、年に2回開催される、同人活動の祭典だ。こいつ、サークル参加したことがあるのか。まあ、こんな豪華なサークルスペースはないだろうがな。テーブルなんか大理石のような材質だし、そこかしこに宝石が埋め込まれている。


「ちっ……趣味の悪い宝石がゴテゴテしていて、モノを置きにくいですね……成金め、滅ぶがよいです」

 ポーラがどす黒いオーラを放ちながら、いちいち設備に文句をつけている。怖い。近づかないようにしよう。


「ふう、こんなもんか」

 30分後、俺たちは設営を終えていた。中央には、大型アルカディアを配置、左右のテーブルには、デモ機が配置され、実際に触れるようになっている。


 すでに、気になるのか何人かの貴族、商人と思しき連中がのぞきに来ている。他のブースと比べ、映像が流れるというのは、大きなアドバンテージだ。


「そういえば、開会宣言を貴族連合の盟主がするようね。 案内に書いてあったわ」

 そうなのか? たかが展示会に大げさだな。貴族連合の盟主というのは、どういう奴なんだ、俺がマルティナに聞こうとしたとき、先程の執事の、良く通るバリトンボイスが響いた。


「大変お待たせいたしました。盟主がご挨拶いたしますので、皆様、レセプションルームの方にお越しいただけますでしょうか」


 大広間の隣にある、レセプションルームに移動する俺たち。四方を金の刺繍が入った赤いカーテンに囲まれており、正面が一段高くなっている。そこに一人の男が立っていた。盟主とは、奴のことだろうか?


 背が低く、ずんぐりと太っている。頭髪はカールされており、性格の悪そうな笑みを浮かべている。出来の悪いモーツァルトのようだ。傍らには目つきの鋭い、厚化粧した女が座っている。アレは良く出てくる伯爵夫人という奴だろうか。指にゴテゴテと宝石をちりばめた指輪をしており、正直趣味が悪い。


「なんか、あの人たち、臭そうだね」

「いやー、テンプレのような悪役貴族っすね」

「噂では、平民の女の子を誘拐同然に召し取って、ハーレムを築いているそうね、女の敵だわ」

 しゃべる前から物凄い言われようだが、俺も同感だ。とりあえず、ガチャの確率を下げても、気にせずに済みそうだ。


「はは、よくぞお越しになられた。ワシが貴族連合の長をしているオットーだ」

「本日は帝国中から、素晴らしいマジックアイテムが集まっていると聞いている。心配せずとも、ワシに任せておけば、販路の確保は保証するぞ。海の向こうの、蛮族どもに売りつけるだけだからな。成り上がりの宰相一派どもは、国王陛下をたぶらかし、調子に乗っているようであるが、それもここまでだ。 半年もたてば、我が公国はワシらの手の中に戻るであろう」

「おお、そういえば本日はツキア皇国からも出展があるのだったな、いや悪いが、海産物やキノコはもう間に合っているのでな! がはは!」


 ……ピキッ!


 となりで、マルティナとポーラが青筋を立てた音が聞こえた。上等だ。あいつに渡すアルカディアのガチャ設定は0.00000001パーセントにしてやる。

 ひそかに決意する俺たちをよそに、盟主とやらのどうでもいい話が続く。


 と、メイドたちがカートに乗せたグラスワインを運んでくる。……ん? これはもしかして!

「……それでは、展示会の成功と、公国の復活を祝して……」


 おおお! あれか、プロージれるんだな! よくわからない奴は、最近リメイクした、ギャラクティカ英雄伝説を見てくれ! さしずめ俺は、ヘクロテミアのオスカーという所だ。テンションが上がってきたぞ!

「……いやー、先輩はせいぜい貨物船の船長ですよ」

 やかましい、少しくらい夢を見させろ!


 盟主の話が終わりそうだ。いよいよアレか!!

「御照覧あれ、大神イフリーテス! プロージット!」

「「「「「プロージット!」」」」」

 出席者たちは盟主の後に続き、唱和すると、ワインを飲み干し、グラスを床にたたきつける。砕け散ったグラスが、星屑のように輝く。


 ……すばらしい。これだけで今日来たかいがあったな。


「男って、ほんとこういうの好きよね……」

 恍惚とする俺に、マルティナがあきれたようにつぶやいた。


 **  **


 ……というような儀式の後、展示会は案外普通に始まった。貴族だけでなく、商人や裕福な一般人、高級軍人も来場者として招かれているようだ。一気に人が増えた大広間で、俺たちのアルカディアは大きな注目を集めていた。やはり、映像、音声があると圧倒的に有利だ。


「これほど美麗な像が映るとは……これは以前、貴国で作られていた魔導鏡の改良型かね? それにしてもこのサイズとは……」

「はい、こちらの原型は魔導鏡となりますが、テラの二ホン皇国の協力を得まして、素材の廉価化と、魔導変換式の超高度化を行っております。現在の標準魔導通話機の250倍の速度で魔導波を送ることが可能です」

「250倍だと! だが……そうなると、高価なのではないかね?」

「こちらは試作機でございますが、量産機では600帝国マルク(9万円程度)にて提供させていただく予定です。よかったら、こちらをお持ち帰りください。もちろんお代は頂きません」

「そんな値段で提供可能なのか!? う、うむ、使わせていただこう。わが軍でも使えるかもしれんしな」


 おお、普段のポンコツっぷりはどこへやら、マルティナが優雅な仕草でさりげなくデモ機を持ち帰らせているぞ。あいつは、軍の技術将校のようだ。階級章を見る限り、相当の高官だな。


「うふふ、奥様がた。ご主人が政争と陰謀に明け暮れていて、お暇ではありませんか? 今からお見せするように、こちらの「アルカディア」は遊戯にも使えるんですよ」

「まあ、お上手。こちらに映るのは……耽美な殿方でありますこと……ここに触れると、きゃっ、動くのですね。 何かドキドキしてきましたわ」

「それだけではありません、奥様。 仲の良いお友達とチームを組んでいただきまして、こう、奥様に特別にお教えするアイテム(2万5千帝国マルク)を使いますと……」

「……ああああ、これは、良いですわ、良いですわ! ……失礼、思わず立ち眩みが」

「奥様、さらにですね、こうやって1対1で秘密の会話をすることもできるのです。 最近、ご主人と夜の営みはありますかしら……こうすれば秘密の逢引きも……」

「……あなた、最高ですわね。 ええ、いくらでもお支払いいたしますわ。おいくらですこと?」

「わたくし、奥様に使っていただきたいですから、2万帝国マルクでいかがでしょうか。あと、お友達に配っていただきたく、今買っていただければもう2台……」


 ポーラの奴、貴族の有閑マダムを深夜の通販番組ばりに抱き込んでいるな。しかも、ちゃっかりと料金を取っている。恐ろしい奴だ。それに、いつ有料アイテムがそんなに高価になったんだ……2万5千帝国マルクとか、400万円近いぞ……


「お兄さん、お姉さん、ちょっと遊んでってー♪」

「まあ、お兄様! この子かわいいわ! 連れて帰ってよいかしら!」

「こら、仮にも帝国貴族たるもの、小さなレディの前ではおしとやかにしなさい。 失礼、お嬢さん」

「大丈夫だよ、それよりお兄さん、こちらでガチャを回していきませんか? (にこっ☆)」

「ガチャ? ここを押すのかい? おお!何かアイテムが出てきたよ?」

「おめでとうですー。こちらを使えば、お兄さん、お姉さんは最強になれるよ。 このゲーム、いろんな相手と対戦することができるんだよ。いっぱい勝てば、お兄さんが貴族最強だよ。 (かわいく首傾げ)」

「私が貴族最強か。いい響きだね……」

「今なら、お姉さんの分も合わせて10万帝国マルクと言いたいところだけど、遥ちゃん、1万帝国マルクにしちゃう! (にこっ☆にこっ☆)」

「よし、買った! お嬢さんの笑顔に負けたよ」


 遥の奴、かわいらしさに寄ってきた連中に、勢いで売りつけているな……さすが俺の天使だ。


 淳の奴は……なにやら若手貴族 (陰キャっぽい)と、金髪ロリ、金髪ロリ、うおおおおお! と盛り上がっているが、まあ、デモ機は売れているようだし、放っておこう。


 俺か? 俺はこのにじみ出るアラサー男の色気と、左手に付けた高級腕時計グランドサイコーの力で、アイツら以上にデモ機を悪役令嬢に売って見せるがな。みておけ。ふははは!


 **  **


 3時間後、大盛況のうちにアルカディアのデモ機、しめて1,678台を配布することができた。大成功だ。俺の成績か? 聞かないでくれ。


 俺たちは撤収作業を終え、ツキア皇国への帰途に着いていた。


「いやー、疲れたけど楽しかったっすね!」

「まあ、上々じゃない? そういえばナオヤ~、悪役令嬢とのワンナイトロマンスは出来たの~?」

 マルティナがニヤニヤしながら聞いてくる。こいつ、分かって聞いてやがるな。


「もう、マルティナさん、ナオヤさんに意地悪してはダメですよ。 ほら、最後に来てたじゃないですか、美しいww悪役令嬢wが」

「あ~、あの体重150キロはありそうな、トロールみたいな女ね。 良かったじゃないナオヤ、モテモテね!」

 くっ、こいつら普段俺に言い負かされているからか、好き勝手言うじゃないか。 しかも、反論できないのが腹が立つ。


「まあまあ、マルティナおねえちゃん、ポーラおねえちゃん。 兄さんだって頑張ったんだから」

 遥の慰めが心に染みる。やはりお前は天使だな……


「そんなことより、これで実証試験やり放題だね。遥ちゃん、こんなこともあろうかと、管理者権限でバックドアを作ってたんだ。 これでどんな通信が行われたか、ガチャの確率操作まで、わたしたちの手の中だよ」

「ふふ、さすが遥さんです。何が起こるか楽しみですね」

「……つくづくアナタたちを敵に回さなくてよかったわ」


 なにか危険なセリフが聞こえたが、気のせいだろう。俺は何も聞いてない、聞いていないんだ。


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