第23話 大帝国、崩壊の兆し(ゲームで) 前編
大成功の展示会から、1週間がたった。
本日は、アルカディアがどのくらい使われているか、遥が作ったバックドアを経由してモニターし、分析する予定だ。このような案件は、動かしたら終わり、ではない。その後の分析と、改善、つまりPDCAが重要なのである。
ということで、いつものミーティングスペースに、俺たちは集まっていた。
テーブルの上には、あったかい紅茶と、さいきん皇都で話題の、ケーキ屋さんのフルーツタルト。冷静な分析には糖分が重要だ。
「それじゃみんな、分析結果を映すね」
幸せそうにタルトをもぐもぐしながら、遥がモニターに資料を映す。
10月も半ばを過ぎ、肌寒い朝も増えた。
遥もすっかり、秋の装い。衣替えが済み、制服の冬服を着ている。上下紺のオーソドックスなセーラー服。白いリボンタイが、目にも鮮やかだ。少し厚手の、秋用のタイツに、茶色のコインローファー。
肌色面積が減ってしまったのは残念であるが、着込んだ遥もかわいいものである。冬はもっと着込んでもこもこになるので、5倍かわいい。楽しみにしておくがいい。
「これが、使用率の推移」
「だいたい、95パーセントから98パーセントくらいを維持してる。優秀だね」
「利用エリアは、貴族街と、各軍司令部宿舎近辺か。 宰相府などの中央官庁街も多いな」
「ふむ、展示会では貴族と高級軍人が多かったから、前ふたつは納得だが、中央官庁街というのは意外だな」
遥が表示してくれたグラフは、おおよそ予想通りではあったが、貴族連合主催の展示会には、政治家、官僚などはあまり呼ばれていなかったはずだ。
「それは、高級商人たちが影響しているかと。彼らは、中央官庁への物品納入も牛耳っていますから。政治家に転売したのではないでしょうか」
なるほどな。商人どもは10台、20台と仕入れていくやつも多かったからな。
「ふへー、そこまでわかっちゃうのね、怖いわー」
先週のキャリアウーマンモードの反動か、いつにもましてユルいな、マルティナの奴……
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帝都中央官庁街 庶民院議員宿舎
でっぷりと太った商人が、少壮の政治家と話をしている。何か商談をしているようだ。彼は、新進の財務官僚として名高く、貴族たちの浪費を厳しく取り締まる立場だ。
「いやあ、センセイ、最近貴族たちが何やら新しいおもちゃを手に入れたようでしてな。 このアルカディアっちゅう、ツキア皇国の新型魔導鏡。 ただ通信したり、魔導遊戯をするだけではなくて、どうやら、魔法石手形をやり取りできるみたいなんですわ」
「なんだと?」
魔法石手形とは、中央国際魔導管理局魔法石管理部が発行する、取引手形、株券のようなものだ。魔法石とは、魔法力が固形化した結晶であり、魔導水晶の中にも封入されている。資源としては、特段貴重なものではないが、シルヴェスターランドの魔導技術の根幹をなすものであり、特定の国家に資源が集中しないよう、国際機関で管理されている。また、魔法石手形は国家間の基軸通貨のような働きもしており、ヴァイナー帝国では貴族たちの浪費を監視する意味で、すべての取引を中央銀行を通すように管理していたのだが……アルカディアとやらで、仮想取引されてしまったら、管理のしようがない。
「ふむ、これは由々しき事態だな。貴族どもがただ浪費するだけならまだしも、隠し資産を作ってまた反乱騒ぎなどを起こされてはかなわん。 して、なんとかその仮想取引を確認できないのか?」
「へっへっへっ、センセイお任せを。 これはツキア皇国の担当者から直接聞いたんですがね、仕組み上アルカディアには10台に1台の割合で、管理者が必要。 そいつは他の端末の取引を覗けるんですわ。ちょうどここにほら、準備してまっせ。うちらとセンセイの仲ですから、50万帝国マルクでどないでっしゃろ?」
「ぐっ、なかなかだな……しかし、ここで不正な取引は防いでおかねば……財務局の予備費を緊急出動して……」
「へへ、まいど!」
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「という事で、センターサーバーをまだ置けないから、10台に1台の割合で、管理権限を持つ上位機を配置しているの。 それが周囲の子機を統括することで、広域ネットワークを構築するんだ」
「はえー」
遥の得意げな説明に、マルティナがアホ面で相槌を打っている。こいつ、頭はいいんだから、もっとシャキッとしろ、シャキッと。
「にしても、上位機なんてのがあったんだな」
「うん、システム上、どうしてもね。商人さんにはこっそりその情報を伝えて、高値で譲ってあげたよ!」
おう、さすが俺の天使。そういう抜け目ないところも大好き。
「端末間で、魔法石手形の仮想取引が可能、ですか。今までは手形証券での現物取引のみでしたから、これは画期的ですね」
「課金システムについて、こちらには電子マネーがないから、考えたんだ。 事前に魔法石手形の購入が必要なんだけど。 マルティナおねえちゃんにも協力してもらったんだ、ありがとう!」
「どういたしまして、ハルカ。 CMAの魔法石管理部に申請したけど、向こうも絶対何のことかわかってなかったわね。テラとの画期的な技術交流です! という事にしたけど」
マルティナが嬉しそうに遥の頭を撫でている。尊い光景だ。
「いやー、魔法の世界でリアルマネートレードと課金システムを作ってしまうとか、パナイっす!」
「しかも、その国の通貨ではなく、手形取引するから、いくら使ったのかがわかりにくく、金持ちほど多く使ってしまう仕組みか。なかなかにエグイな」
まあ、上流貴族どもから搾り取るんだ、問題なかろう。ちなみに、取引手数料として、10パーセントが俺たちに、5パーセントが魔法石管理部に入る仕組みだ。
「次に、「おかすと!」のプレー率だね。こちらも、利用者のほとんどがプレーしてる。 各軍司令部宿舎近辺での対戦が活発だね」
「特に、クラン (チームだ)を組めるようにしたり、魔法石手形を賭けて、対戦できるようにしてからは……」
遥が資料を操作すると、対戦回数のグラフが表示される。ある時点から、グラフが急上昇している。
「おお! すごいな。 対戦回数と、魔法石手形の購入率が急上昇している」
「ふふ、大儲けだね☆」
俺たちの世界では当たり前の仕組みも、こちらの世界では射幸心を大いに煽るようだ。
現時点での収益が、恐ろしいことになっている。
「現在のクラン・ランキングを見ると……「第14装甲師団師団長レフシキとその部下」、「第2海兵師団・サーペント 有志連合:代表エメロー」、「華麗なる魔法師団長ドナートと優秀なる下僕たち」……何だ、これは?」
どうやら、クラン名のようだが、これは、まさか本名なのか?
フム、調べてみる必要がありそうだ。




