第21話 お嬢様系腹黒魔導士、実証試験と称して陰謀を巡らせる
「よし、みんな集まったな。本日の会議を始めるぞ」
いつもの、オフィスのミーティングコーナー。
「アルカディア」生産状況の確認と、実証試験の方針検討のため、俺たち5人は、それぞれが資料を手に持ち、集まっていた。
季節は10月に入り、過ごしやすい気候となった。 本日も秋晴れの空が広がっている。食べ物もおいしい季節だ。仕事など放りだして、遊びに行くのが正解だが、俺たちは社会人である。(女性陣は学生だが……)
適度に仕事を片付け、よく遊び、良く寝るのが正しい社会人だ。
「まずは、アルカディアの生産状況の確認だが、マルティナ?」
「うん、順調だわ。皇都の魔導士ギルドに協力してもらっているから、来週までに、1,000台ほどの数が揃う見込みよ」
「フム、悪くないな。本格的な量産体制に移行した場合、月産ベースで、どれくらい作れそうなのだ?」
「そうね……こういった魔導工芸品の職工ギルドは、皇国の西方、内海エリアに集中しているから、そちらの協力を得れば、月産50~60万台といったところね」
なるほど、シルヴェスターランドの総人口は、把握されている分だけだが、約1億人。海外への生産委託分を考えれば、ある程度普及させるまでに5年といったところか。
「わかった。そちらの方は、今の方針のままで進めてくれ。どちらにしろ、今度行う、実証試験が重要という事だな」
「たしかにね。ギルドの方でも、「これ、なにに使うんですか?」という声が多かったもの。 わたしが力説したのだけれど、なぜか反応がいまいちだったわ」
「……おまえ、まさか前に言っていた、炎のカレー道場とやらを説明したんではあるまいな?」
「ぎくっ!」
やれやれ、こいつは相変わらずだな。まあいい、次だ。
「淳、ポーラ、通信インフラ部分についてはどうだ?」
「魔導水晶の空き位相を使った通信試験は順調ですね。 魔導水晶が置いてある場所なら、問題ないかと」
魔導水晶とは、照明とモンスター除けを兼ねたマジックアイテムで、街中や、街道の要所に設置されている。設置と魔法力の補充は、各地にある魔導水晶保安ギルド?なる組織が行っているらしい。
「魔導水晶の空きチャンネルを使って、魔導波を中継するとか、今までこちらではなかった発想になりますから……うふふ、色々とやり放題です♪」
「あのー、気になってるんすけど、これってもしかしてハッキング……」
「いけませんよ、淳さん。 こちらの世界では、「はっきんぐ」なる概念はございません。すなわち、何をしても、罪に問われることはありません。ふふ、お気になさらず」
「……アッハイ」
ふふ、と怪しい笑みを浮かべるポーラに即答する淳。
フム、こないだの3連休から、淳はすっかりポーラにコントロールされているようだな。こいつは結婚したら奥さんの尻にひかれるタイプだ。間違いない。
それはさておき……魔導水晶がある場所なら、どこでも使えそうだ。良いではないか。
「最後に遥、アプリや、配信ゲームの状況はどうだ?」
「うん、兄さん、順調だよ。 けいすけさんから受け取った、アバターや課金アイテムなども組込み済。ほら」
遥が、電源の入ったアルカディアを見せてくる。「おかすと!」のデモが動いているようだ。そこでは、ゲームのプレー画面と、イベントに合わせてアニメーションする3Dアバター (遥がモデルだ)が生き生きと動いている。お、ウインクしたぞ。
やはり動くとかわいいな、これはプレイしたくなる……ん?
デモ画面が切り替わり、今度は男キャラのアバターが出てくる。浅黒く焼けた分厚い胸板を、やけに胸元の開いたワイシャツが包んでいる。
”味方のプレーヤーと同盟を組もう! お互いの信頼度が高まると……”
アバター同士が、がしっ! と手を組み、お互いに顔を……
おい、まさか……
”この先は、あなたの手で確かめて……カギとなるアイテムはこちらで手に入れよう→アイテムガチャはこちら!”
画面にスモークガラスのようなエフェクトがかかり、アイテムガチャへ誘導するポップアップが表示された。
「おいまてコラ! ポーラ、お前の仕業だな!?」
とんでもないモノを実装するな! 俺は犯人と思われるポーラを問い詰める。
「もう、人聞きの悪いことをおっしゃらないでください。ほら、男性向けもありますので」
「そういう問題ではない!!」
……とはいうものの、男性向けは気になるな、後でデータを見てみるか。
「……兄さんの、えっち」
遥に怒られてしまった。だが、「……兄さんの、えっち」 これは、男が一生で一度は言われてみたい言葉の上位に入るであろう!
「……というか遥、この課金への誘導はエグくないか? さすがに最近は、こんなのに引っかかる奴はいないのでは?」
「何言ってるの兄さん、先行者利益、だよ。 課金文化がないこちらなら、入れ食い状態だよ」
「大丈夫、ベータテストだけだから。 本展開ではもうすこし、やさしくするよ (にっこり)」
なるほど、いざとなればデジタルの様にドライになれる。これが天才か。遥さんの言うとおりにしよう。
俺はなにやら寒気がしたため、撤退することにした。
「というより先輩、男のアバターってやけに僕たちに似てないっすか……」
言うな淳よ。男は一度許可したことを撤回できないのだ……
「そうだ、あとね、簡易チャットツールも搭載したよ! ゲームをしながらの交流、これがオンラインゲームの醍醐味だからね♪」
……「おかすと!」だと罵声の飛ばし合いになる気がするのは、気のせいだろうか。
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そういえば、ポーラから実証試験の場所について、提案があるんだったな。
「ポーラ、お前の提案にある、ヴァイナー帝国というのは、どういう国なんだ?」
「はい、ツキア皇国の西側、海を越えた大陸にある巨大な帝国です」
「以前は王政で、貴族国家だったのですが、現在の宰相イヴァン・イワノフが就任すると、帝政に移管、強引な経済対策と軍事拡張で、膨張を続けています」
「まあぶっちゃけ、金持ち貴族も多いですし、最近よくツキア皇国にちょっかい出してくる腐れ国家ですし、ヴァイナー帝国の男達はむさくるしくてドワーフみたいで、耽美さのかけらもないですから、むかつくので根こそぎ搾り取っても良いんじゃないでしょうか。うふふ、楽しみですね」
お、おう。 どうやら大丈夫そうだな。うん、よかった。
俺はどす黒いオーラを放つポーラに引きつつ、同意しておくことにした。こういう時の女には、触らないに限る。
「……コーチ漁業ギルドの漁場を荒らす不届き者は許せませんね……」
「って、実家の私怨か!」
……突っ込むのに疲れたので、話を先に進めることにする。
「さて、実証試験についてだが、マルティナの提案だと、ヴァイナー帝国の帝都で、魔導関係の展示会が開かれるんだったか?」
「そうね、帝国の貴族連合の発案で、民間レベルの経済交流を目的とした、魔導器具展示会が開かれることになったの」
「ウチの学院もそこに一枚噛んでいるから、つてを使って、わたしたちのアルカディアをねじ込むことに成功したわ!」
「すごい、マルティナおねえちゃん!」
「ふふ、もっと褒めてね! ハルカ!」
遥の称賛に、得意絶頂のドヤ顔を見せるマルティナ。
おお、やるな。 忘れていたが、こいつ学院主席だったな。それくらいのつてはあるという事か。そして遥、こないだから思っていたが、マルティナのドヤ顔が面白いから、必要以上に褒めていないか?
「ということで、ナオヤたちも来てね。テラとの共同研究であることをアピールすれば、より箔が付くの。 大丈夫、転移魔法でひとっ飛びだから」
なるほど、権威付けも重要という事か。
帝国に出張か。後で出張申請を出しておかねばな。社会人に申請は必須なのだ。




