四章:失踪
放課後、授業が終わった。けれども帰る支度をする気になれない。気怠いのもそうだが、下校中に三人に出くわすのが気まずかったのだ。席に座り込んだまま頬に両手をついて考え込む。
俺は自信満々になっていたんだ。あの状況をどうにかするにはそうしようって提案するしかなかったし、自分も覚悟を決めたんだ。でも、彼女たちはそれを拒絶した。もうどうすることもできない。そのうえ彼女たちは俺に幻滅してしまったんだ。きっと自分や他の誰かとだけ付き合ってくれるって信じていたんだろう。そう、俺はまた過ちを犯してしまったんだ。
「おーい義人、まだ帰らないのか?」
そう声をかけたのは、鞄を背負って今にも下校しようとしていた親友源だった。まだ帰りもせず、自分の席でボーっとしている義人を気にかけたのだ。それから例の件に関しても聞きたいことがあるのだろう。
「なあどうしたんだ。返事もないし、何かあったのか?三木野や俵さんも元気なかったけれども、それと何か関係でもあるのか?」
何かにおどおどしているように義人に尋ねる。
「それなんだけど・・・・・」
そうして義人は重い口を開きだす。その口から源から受けた助言通りに今回の告白に応じたことや、三人全員と決裂してしまったことを淡々と話す。自分は只周りの助言を頼りにしただけなのに、うまくいかなかったと。それを聞いて源はいつもの軽々しさが嘘のように重々しく言い出した。
「そうだったのか。やっぱり愛があればすべて良いわけではなかったか。いや、愛があったからこそそれを裏切られるように聞こえてしまったのかもしれないな。」
そうして自分が助言したことを気まずそうにしながらも、いつもの明るい雰囲気で更に言う源。
「そういうことならあれだな、やっぱり今の状況におけるお前にはそういう方法は無理だったんだろう。 俺は俺なりのアドバイスをお前にしたけど、必ずしもそれが正解って訳じゃなかったんだ。と言っても、もう手遅れかもしれない。でもしょげるな!お前にもこれからいくらでもチャンスはあるんだぞ。高校生のうちのみならず、どこか大学に進学した後だっていくらでも出会いはあるんだから。そう、例えば合コンに参加したりとか・・・・・」
軽々しくはあるけれども、これも親友で幼馴染であるからこそのこと。源もまた義人がどういう奴なのかを分かっている。だから明るいノリでいつだって彼を鼓舞してきたのだ。それが自分の助言のせいで、折角のチャンスを逃させてしまうという皮肉な結果を間接的に作ってしまったのである。罪悪感のままにそれをどうにか取り繕おうとご機嫌取りをする。けれども、
「もう分かったから・・・・・。今日は一緒に帰る気になれない。お前一人で帰っていいぞ。俺はもう少しこうしてる」
少し冷めたような声で源に言い渡す。そしてまた頬に両手をついてじっとする。
「そう、か・・・・・。ならそうさせて貰うよ。まあ、健闘を祈る」
完全に落ち込んでいると察した源。今はこれ以上は言っても元気にはならないだろうと思い、ばつが悪そうにその場を静かに去っていく。その時の義人は源の呼びかけも、他の生徒たちの声も、何も自分には気にならなく感じていた。
しばらくして、生徒たちが部活動に出たり下校したりし、教室にはほとんどいない。今なら出ても大丈夫だろう。そう判断した義人は荷物を持って、重い腰を上げて教室を出ていった。
そして玄関で靴を履き替え、通学路をとぼとぼと歩いていく。空はすっかり濃い色の雲で覆われていた。今にも雨が降り出しそうだ。その間にも思いを巡らせる。勿論それは傘を忘れてきてしまったとかそういうことじゃない。
これまで俺は女の子を二度と傷つけたくない、気持ちに寄り添いたい、そうした思いで色々悩み、努力し、尽くしたのに、結局駄目だった。ましてやこの誰にでも向ける優しさが仇になって彼女たちの思いに答えられなかったんだ。これほどまで自分のやったことが意味のないことだったなんて。最早俺は人を不幸にするだけなんだな。こうして生きているだけでも。
やがて遥か上空の黒い雲から落ちてくるものがあった。ポタッポタッと小さな水の粒が落ちてくる。始めそれは微かで断続的なものでしかなかったが、次第に何粒も連続的に落ちてくるようになり、当たりをびしょびしょに濡らしていく。勿論義人もその体を濡らしていく。けれども彼はそんなことはどうでもよかった。周りは濡れたくない一心で駆け足になるが、彼はその足取りを早めようとはしなかった。
「どうしたの?傘を忘れていったからこうなることは分かっていたけど、まさかここまでびしょ濡れになるなんて」
家に帰るとパートから一足早く帰っていた恵がいた。息子の身に何かあったのかと尋ねる。けれども義人は何も答えない、答えたくなかったのだ。その代わりに何てことなく母に話す。
「まあこんなにびしょ濡れになったら気分も下がる、それだけ」
「だったらいいんだけど」
恵にもほんの少しながらも何かあったことを悟っていたが、今はあまり追求しないようにしておこうと考えた。
「ほら着替えてきて、そのままだと風邪ひいちゃう。母さんが洗濯しておくから」
「ありがとう母さん。でもワイシャツならまだしも制服は洗濯が大変だから乾かす程度で十分だよ」
「遠慮することないわよ。ほら、着替える時もこのタオル使って拭きなさい」
「分かった、ありがとう」
そうしてハートフルながらも、どこか寂しげなやり取りを交わす母と息子。
その後敏明も帰ってきて三人で夕飯を済ませたが、その間にも義人は浮かないような顔をしていた。父親として気にかける敏明だったが、何も言わずに食事を済ませ、義人は自室に戻ってしまったのだ。
「なあ恵、義人どうしたんだろうな」
夕食後に一緒にテーブルに向かい合い、うわごとのように恵に話しかける敏明。
「それが私にも何も言わないのよ。あの子は私たちのことも心配させたくないみたいだったわ」
俯き気味になる恵。
「親の俺たちにさえ言えないようなことだってあるさ。今は触れないでおこう」
年頃の男の子なら無理もないとばかりに敏明は言い聞かせる。
「でももし私たちのことさえ信用していないとなれば?あの子は心を閉ざしちゃったのかも」
更に恵は眉を顰める。
「もしそういうことになったらなったで、専門家の力を借りよう。親二人だけでどうにもならなかったら、第三者の協力しかないだろう」
敏明は不安ながらも、他に手はないと分かり切った様子で言う。
「しかしまあ強い子だよ。義人は誰かのためなら真剣になって考える。使命感や責任感の強さゆえにすぐ一人で抱え込もうとする。親としてはそれでパンクするのが気がかりだが、あいつも大したもんだ」
「そうね、こういう時こそ私たちがしっかりしていないと。あの子にはいつだって味方だよって分かってもらえるように振る舞わないと」
そうして二人の曇った顔が少しずつ晴れていく。それは息子のどんな困難にも寄り添い支えていこうという決意の表れでもあった。
夜、由香は自室のベッドで両膝を抱えてうずくまっていた。そして机には自分が作ったチョコレートの箱が置いてある。やることもあると分かっていたのに思うように体が動かない。そんな状態になったまま由香は思いを巡らせていた。
あいつどうしてあんなこと言ったんだろう。あたしはずっとあいつのことを見てきた。だからこそあいつのことはあたしが良く分かっている。だから今回だってあたしのことを選んでくれるようにしたのに。でも「全員の気持ちを踏みにじらずに大切にしたい」か。あいつはいつもそういうところはあるから。
いつもはパクパクと言葉を次々と出してくる唇も今はなんだか重く感じていた。そうしてしばらく揺り籠を揺らすように体を揺らしていたのであった。
一方の千恵、明日の授業の予習があるから机に向かっている。そしてその隣には自分が作ったチョコレートの入った袋が置いてある。これだけ近くにある故、カカオの香ばしさが漂ってきて彼女の鼻腔をくすぐる。けれども今の彼女はそんなことさえ感じられない状態にあった。
義人君だけが私の心の拠り所でした。だから他の誰にも渡したくなかった。だから彼が自分を選んでくれるように頑張ったのに、あんなどっちつかずなことを言って。けれども彼はこんな私以上に無理をしているのではないでしょうか。こんな私にも気にかけてくれましたし、まして三人同時ともなれば。
encourage、impossible、necessary、generally、そうした教科書に連なる英単語を調べながらも、千恵の頭の中ではそんな言葉が行き交っていた。勉強はちゃんとやっているが、そんな思考に紛れてどうしても彼のことが頭に浮かび上がるのである。
そして真美、風呂上がりで濡れた髪を拭いていた。そして机に目をやれば、自分が作ったチョコレートの箱が寂しく置いてある。バスタオルで髪を何度も撫でている間にもそのチョコレートを見つめ、義人への思いを馳せる。
義人君はいつだって頑張り屋さん、そんな彼は私にだけは遠慮することはしていなかった。だからこそ今回だって迷わず自分を選んでくれると信じていたのに、結局あんなことを。でも不思議。誰のことも放っておけないって、何だか私も同じような気持ちになるのかもしれない。誰かを癒したい、幸せにしてあげたい、そういう気持ちは彼だって同じなのかもしれないね。
真美は少しため息をついてベッドに座り込んだ。そうして風呂から上がったばかりの火照った体と一緒に頭も冷やしていく。考えれば考える程に自分が何をやってしまったのかを悟り、溜息はより一層深くなっていく。
あくる翌朝、日差しが差し込んでくる。昨日の雨が嘘のように止んだのだろう。この光が閉じた瞼を突き通って眼球に刺激を与えれば目覚めの合図だ。すぐに起きようという気持ちになれるだろう。けれども今朝はどういうわけか頭も重いし体も動かない。起きなきゃと思っていても動けない。それに何だか寒気がする。この時期だからかもしれないなどということもなく、毛布に身を覆っているのに、内側からどんどん冷える感覚がする。それに喉が痛い。声を出そうとするたびにひりひりする。奥の方で何かが絡んでいる。これはもしかして・・・・・。
「義人、どうしたの?こんな時間になっても全然起きてこないで」
扉が開き、恵が心配そうな顔を覗かせた。
「母、さん・・・・・何だか、動けない・・・・・」
「え?」
義人が掠れるような声で言ってきたので不穏に思い、額に手を当ててみる。
「まあすごい熱!今体温計持ってくるから待っててね!」
そう言ってバタバタと駆けていくのだった。
蓮堀高校、いつものように生徒たちが登校していた。そんな中で三人の少女たちがそれぞれ別々の思いを巡らせていた。
教室でホームルームを待っていた真美。けれども振り返ってみると、いつもの席に義人がいつまでたってもやってこない。思わず携帯電話から通話やメール、SNSでメッセージを送ろうとするが全然応じる気配がしない。何度も画面を指で触っていくが、通知欄には何も浮かび上がらない。真美は次第に焦りだしていた。
そして迎えたホームルーム。そこで担任からとある連絡があった。
「今日は豊田が体調不良で欠席だそうだ」
それを聞いて真美の胸中にはさらなる不安の念が込み上げてくる。昨日あの出来事があって、もしそれで身も心も病んでしまったのであれば、そう考えていた真美の額から汗が垂れてくる。もしかして私は義人君を縛り付けようとしたのかもしれない。彼だって誰かのことを放っておけないのに、その気持ちを受け止めてあげなかったからこんなことになったのかも。そうして真美は思いを巡らせた。
昼休み。由香と千恵は落ち着きなさげに話をしていた。
「ねえ俵さん、義人見なかった?」
「いえ、見かけません」
いつも吊り上がり気味の二人の眉もこの時は下がり気味だった。昨日のこともあるが、それ以上に義人の姿が見えないことに虫の知らせを覚えていたのだ。もしかしたら自分たちがいつも喧嘩ばかりやって迷惑をかけていたから義人は息苦しかったのかもしれない。それで心身を煩わせることにでもなったというなら大変なことだ。この時点でこの二人にはそうした自責の念が芽生え始めていたのである。
「いつもなら登校の時に見かけるはずなのに見当たらないのよ。あいつの身に何かあったのかな?」
「とりあえず同じクラスの佐和山さんに聞きに行ってみましょう。そこにいればいいのですが」
「そうね」
そうして自分たちの教室を出て義人と真美の教室まで来ていた。けれどもそこには真美の姿があるだけだった。
「ねえ佐和山さん、義人はどうしたの?」
「義人君、今日は体調不良で休んだみたい」
必死で由香は真美に聞き、真美は俯いて答える。
「体調不良って、そんな。どうしてまた」
「それはまだ分からない。単に風邪を引いただけかもしれないけれども、そこまでは何も」
そう話すうちに三人は昨日のことを思い出す。
『いくらアンタのことが好きだからって馬鹿にするのも大概にしてほしいわよ!』
『誰のことも、傷つけて嫌われるのが怖いだけじゃないですか』
『はっきりと誰とも付き合わないって言ってくれた方がよっぽどましだよ』
あの時の言葉が、今思い返せば鉄の針のように心に深々と冷たく刺さる。
「そうよ、あたしたちがあんなこと言ったからあいつひどく落ち込んじゃったのよ。それで体を壊して・・・・・」
「傷ついたとは言ったけれど、私たちが一番彼を傷つけちゃったのかな?だって三人に一斉にあんなこと言われちゃったら・・・・・」
「まだ確証はできませんが、彼がこんなことになったのなら様子を窺いに行く必要がありますね。彼があんなことを言ったのも彼なりの優しさからでしたでしょうし、もう一度良く話し合いましょう」
こうして今度は自分たちが彼の気持ちに寄り添おうと決意した三人。そこにはそれまでのいがみ合いの様子はなく、お互いの目を真剣に見つめ合っていた。
喉の傷みは和らいでいた。熱も次第に引いていた。けど体は依然として重い。起き上がることもやっとだ。
あの後義人は恵とともに病院に行ってみてもらった。昨日の雨に濡れたせいで風邪をひいてしまったようだ。その後薬を渡されて家に戻った。恵は昼前から夕方にかけてパートがあることから色々と用意してくれて、温めればすぐ食べられるお粥まで作ってくれたのだ。お昼になったら食べることになっていたけれども、どうにも食べる気がしない。やはり三人のことが気がかりではあるし、かといって顔を合わせるのも気まずい。そしてそれは源や両親にまで余波が及んでいる。
俺がいるせいでみんなが迷惑しているんだ。現に女の子を一度に三人も不幸にしてしまったのだから。俺がどんなに優しさを振る舞っても、誰のことも幸せにできないんだ。そう、俺はこの世に存在していること自体が罪なんだろう。皆は自然と俺のことを好きになって、それで関係を求めた末にあんなことになってしまったのだから。俺はまた相手の心に一生ものの傷をつけてしまった。そうあの時のあの子のように。これ以上皆が幸せでい続けられるようにするにはどうしたらいいんだろう。もう俺の力ではどうすることもできない。
強迫観念が義人を襲った。それはまるで義人の心をきつく締めあげ、その痛みがじわじわと伝わってくるようにも感じたのだ。そして時計を見ると、三時十五分、恵が帰ってくる時間までまだあった。そして義人はベッドから重々しく起き上がった。その目は虚ろでどこを向いているかも分からない。そのまま机にあったメモ用紙とボールペンを手に取り、何かを書き綴っていく。書き終えた後にそれを机に置いたまま、彼は部屋を出ていく。
五時十分。義人の家の玄関の扉が開く。
「ただいまー。義人、今帰ったわよ」
入ってすぐそう呼びかける恵。
「ねえ義人―?」
しかし返事が一向にない。寝ているのだろうか。手にはスーパーで買った夕飯の材料が入った袋を持っている。とりあえずそれを台所に置いて様子を見に行くことにする。
階段を上がってみる。登って行ってすぐ左が義人の部屋だ。そうして恵は扉を開けてみる。
「・・・・・義人・・・・・?」
机に向かっているわけでもない。でも肝心のベッドにも入っていない。この部屋にはいないのだろうか。まさかトイレ?いや今見てきたけれどもいなかったし。そうして不思議そうに見てみる。すると机の上に何かが置いてあるのを見かけた。メモである。メモ帳のページを破り取ってそこにボールペンで何か書いてある。義人の字である。そこに書かれている内容を読んだ途端、恵は血の気が引き、両手が震える。
俺と関わった全ての人へ
まずはごめんなさい、こんなことになって。
でも俺、自分でもどうすることもできなかったんだ。そのせいで一度のみならず二度も女の子たちを不幸にしちゃったんだから。その上、折角の親友や親二人の助言さえ無駄にしてしまった。
父さんや母さんにははっきり言わなかったんだけど、俺学校で由香や俵千恵や佐和山真美っていう子たちに好意を寄せられて、その全員の気持ちに応えようと三人同時に付き合おうとしたんだ。でも拒絶されちゃった。源が提案してくれたことなんだけれども、それを実行したところで無駄だったんだ。そしてその余波が他の人にも及んで、それでみんなに迷惑をかけてしまった。
俺はもう人を不幸にすることしかできないんだ。こんな俺なんかいなくなれば、もう誰も俺のことなんて愛しようもないし、俺のことを好きになって苦しんだりする必要もなくなる。これは俺自身で決めたことだ。人々の幸せのために死ぬ息子を、どうか見届けてほしい。何なら身勝手に死んでしまう息子を馬鹿な子だと言ってもいい。それでみんなが穏やかな日々を過ごせれば、俺はそれ以外何もいらないから。
さようなら。
義人
「そんな・・・・・、噓でしょ・・・・・?」
今の恵の頭の中は真っ白である。このようなメモが残っていて、息子が部屋からいなくなって、最早考えられることは一つだった。
放課後、長く感じていた授業もようやく終わり、帰宅の準備をした三人。教室を出てすぐの廊下で待ち合わせた。
「集まったわね」
「ええ、それでは義人君の家に案内して貰いますよ三木野さん」
「よろしくね」
「分かったわ、ここで幼馴染の立場を使わせて貰うわよ」
そうして校門から出ようとしていた三人。すると。
ブーッ、ブーッ、ブーッ。
突然由香の鞄の中でスマートフォンが震え出した。
「何かしら?ちょっと待ってて」
「ええどうぞ」
そうして電話に出ようと取り出す由香。受信画面には豊田恵の文字が。
「義人のお母さんから?」
不思議そうに、そして何か悪い予感を覚えて眉を顰めながらも電話に出る。
「もしもし」
「ああ由香ちゃん!良かった。ねえ聞いて」
そこから聞こえてきたのは焦ったように由香に話しかけてくる恵の声。
「大変なの。今家に帰ってきたばかりなんだけど、風邪で寝ていたはずの義人が部屋からいなくなっちゃって、財布もスマホも置きっぱなしで、机の上には『俺がいるせいで皆が不幸になるから、皆の元から消えるよ』っていう置き手紙があったの。俵千恵ちゃんや佐和山真美ちゃんも含めたあなたたちのことも書いてあって連絡したのよ。もし自殺でもしようとしているのなら大変なことよ!」
恵からの声はその場にいた全員が聞いていた。
義人がいなくなった?自殺するかもしれない?その言葉が脳裏をよぎった瞬間、三人の血の気は引いていく。折角こっちもきちんと冷静に彼と話し合おうとしていたのに、その矢先に彼がいなくなるだなんて。
「それでお母さん、警察には捜索してもらうよう連絡はしないんですか?」
由香は改めて恵に聞く。
「勿論警察に探してもらうようにするわ。それとあなたたちにも探してほしいの。もし心当たりのある場所を知っているならそれに越したことはないわ。源君にも連絡して探させるようにするから」
「分かりました。任せてください」
そう由香は静かに言うと、通話は切れ、プー、プーという音が鳴りだす。そして由香はスマホを持った手をゆっくりと下ろしていく。
「義人・・・・・」
「そんな、まさか私たちのせいで」
「義人君が、死のうとしているの?」
由香が先程の言葉を述べはしたが、三人は突然の連絡に呆然とする。自分たちが好きな人が、自分たちに責められたがために追いつめられ、今正に命を絶とうとしているのだ。




