七章:真の絆
それまでの日と比べて大分気温も上がり、暖かいを通り越して熱ささえ感じるようになってきた。高井市立蓮堀高等学校もそんな陽気から熱気に変わりつつある中でもいつも通りにそこにあった。生徒たちはいつも通りに昼休みを迎え、楽しそうに思い思いに時間を過ごしていた。今日もまた義人たちは一緒である。いつもの広場で、真美がいつもの如く作ってきた弁当をいつもの六人が取り囲むようにして食べている。今日もまた六人全員が食べる量を用意してくれた。
「真美、相変わらずみんなのためによく頑張っているな」
「うふふ、皆が美味しく食べてくれる姿を想像しただけで作るだけでも楽しくなっちゃって。この小さなオムレツなんて結構自信作なんだから」
「へえ~。小っちゃくて可愛いじゃん。真美が作ったいつも通りの一口サイズだね」
「栄養バランスも良く考えられてますね。ここまでこっている献立、私も知りたい位です」
「この人参、花の形に綺麗に切ってありますね・・・・・」
「なんだか食べるのが勿体ない位だよ」
「どうもありがとう皆、でも見るだけじゃなく食べなきゃ意味がないからね」
そうやっていつも楽しそうにはしゃいでいた。そうして六人は食事の準備をする。とここで義人があることを思い出した。そうしてポケットの中に手を入れてみる。いつもだったらあるはずの硬い感触が無いのだ。あちこち体中を触ってみても同じである。
「義人、どうしたの?」
「ごめん皆、どうやらスマホ教室に置いてきたみたいだ」
「それは大変ですね先輩、すぐに取りに行った方がいいですよ」
「そうですね。この前の件もありましたし、貴重品は手元にあった方が安心ですからね」
「誰かが勝手に取り出してそうさなんてことになったら大変だからね」
「とって来るまで私たち待ってるから慌てなくていいよ」
それを受けて口々に言い出す由香たち。
「ありがとう皆。でも俺にお構いなく、先に食べてもいいぞ。急いでとって来るから」
「とはいえ気を付けろよ、おまえの分も残しておくようにするからな」
そうして義人は駆けだしていく。例の的場にアカウントを悪用されたこともあり、皆プライバシーやセキュリティのことに厳しくなっていたのだ。義人は後れを取るまいとスマホを置いてきたであろう自分の鞄のある教室の席まで向かっていった。
「良かった。何も変にいじられているような部分もないぞ」
そう呟いて鞄の中に入っていたスマートフォンを持ってみんなの元に戻ろうと廊下を歩いていた義人。またみんなに迷惑かけちゃったな。でも待っていろよ皆、これからがお楽しみのランチタイムだからな。俺たちのハーレムは俺の存在があっての事、俺がいなきゃどうにもならない。すぐにでも戻るからな。そんな思いを胸に皆の居る場所まで戻ろうと、スタスタと足取り軽く歩いて行く。
が、その途中である声を聞いたのである。
「ねえ、もう用意してあるでしょ?早く出してよ」
階段の入り口の方からだった。
「ん?何だ?」
義人は不審に思い、皆の元への帰路からそれて、その声のした方へと向かっていく。そして恐る恐る声が聞こえる階段の入り口を覗いてみる。するとそこにいたのは三人の女子生徒と、もう一人見覚えのある女子生徒の姿が。身なりが整っていて、如何にも品のあるその彼女、何よりも後ろ姿でも見えるボリュームのある数本の螺旋を描いた綺麗な縦ロール。
「・・・・・平等院さん・・・・・?」
そう、義人たちに昨日因縁をつけるが如く自分たちの関係を非難してきたあの平等院麗華が、何やら三人の女子生徒と向き合ってそこに立っていたのだ。その彼女は眉を顰めて困惑しており、対して三人のうちの一人が手を差し出して何かを要求しているようだ。義人は静かに四人のやり取りに耳を傾ける。
「分かってるでしょ?アタシたちがあなたの友達になる以上、ちゃんと友達料を払って貰わないと」
「そうそう。あなたいつもお高くとまっているし、周りの人たちは近寄りがたいのもそうだし、お嬢様だからって生意気だって言ってて、それでいつも独りぼっちなんでしょ?」
「そんな中でアタシたちが友達になってあげるって言ってるんだから、これぐらいの見返りがあったっていいじゃん。お嬢様ならお金で解決すればいいんだし」
その三人が放つ言葉に義人は耳を疑った。嘘だろ?あの三人、平等院さんから友達になることを条件に金をせびり取っているわけなのか?そうした困惑の中で、三人の言葉を受けた麗華は静かに言い出す。
「そうですわね、約束は約束ですし。こうして相手をしてくださるだけでもわたくしも嬉しいですもの」
その時の彼女は屈辱に耐えているかのように唇を噛み締め、懐から立派な光沢のある白い革の財布を取り出す。その中から何枚かの紙幣が取り出される。その出された金額に義人は目を見開いて驚く。えっと、一万円札が・・・・・三枚!?平等院さん、いくらお金持ちでそれ位出すなんて造作もないとはいえ、そんなに多くあの三人に出すわけなのか?あまりの光景に義人はその場で固まってしまう。
「さあどうぞ」
そう言って麗華は三人に三枚の一万円札を差し出し、直後に一人がそれを受け取る。
「どうもありがとう。そうそうこれが無くっちゃ」
「平等院さんのお陰で思わぬ形で贅沢三昧だよ。これを受け取った暁に、皆でまた遊びに行くとしましょうか」
「いいね。可愛い服とか、コスメとか買い放題。ほしいものはこうして全部手に入れられちゃうんだから。これも平等院さんのお陰だよ」
そうした歓喜と麗華への感謝の言葉を述べる三人。けれどもその様子は純粋な感謝には程遠い、人の心情そっちのけで言っているだけのものだった。麗華はそれが気に食わずにいるようだったが何も言えずにいた。もしここで文句を言おうものならまた一人ぼっちになってしまう。そう、これは言ってみれば取引だ。だからこそこういう犠牲はつきもの。この人も今おっしゃいましたが、わたくしはお金持ち。であれば、そうしたことはお金で解決すればいいだけの話なのですわ。麗華は心の中で尚も自分にそう言い聞かせているのだろう。その場で今の現状に対し、口を閉じて黙っているばかりだった。
「これで今週の分はいいわね。また来週もお願いね」
「分かりましたわ」
今週の分だと?あの人、一週間に一人三万ずつ払っているわけなのか?義人はさらに耳に入ってくる情報にその耳を疑う。平等院さん、そうやっていつも寂しさを埋めようと、お金の力でどうにかしていたわけなのか?俺たちのことをふしだらだの破廉恥だの言っていたけど、本当はそういう自分こそがお金で成り立っているだけの不純な関係を持っているから、俺たちのような真の愛や絆がある集団を羨ましがっていたわけだったのか?それで自分のやっていることを肯定するためにわざわざ・・・・・。
その後三人組ははしゃぎながら麗華の元を去っていく。その直後、麗華はその場に座り込み、グスッグスッとすすり泣きの声を上げる。その様子を見るだけでも義人は胸を締め付けられるような苦しみを感じていた。
義人はこれで確信していた。彼女はやっぱり寂しがっているのだと。金の切れ目は縁の切れ目、そう言わんばかりに金にものを言わせる形で今の自分の置かれた状況をどうにかしようと必死でもがいているのだと。その事実を知った義人の胸には込み上げてくるものがあった。あの時からずっと思っていた彼女を助けてあげたいという気持ちが強まったのもそうだが、それ以外の感情もまたふつふつと湧き上がってくる。人が困っているのに、それに漬け込んで親切そうに振る舞って、それで奪うものを奪っていく。そんな卑劣なやり口が許せないという正義感由来のものだった。不平に対する感情、怒り。
勿論この事実を他のみんなも知ったら同じような気持ちになるだろう。みんなに知らせなきゃ。その想いのままに義人は静かに去っていく。
「おかえり義人、結構遅かったけど、ちゃんとスマホは見つけてきたの?」
そう言って皆の元へ戻った義人を出迎えたのは由香だった。他の五人が先に食べていながらも、待ってましたとばかりに彼を出迎える。皆温かく明るい笑顔だった。誰もが義人との食事を待ち望んでいたという雰囲気だった。義人もまたそれを受けて爽やかに皆の元に駆け寄ってくるはずだった。けれども違っていた。どこか浮かないような顔つきである。その胸中に何か懸念していることがあると言わん表情なのだ。
「お待たせ皆、スマホは無事持ってきたぞ。ほら」
そう言って持ってきたスマートフォンを取り出してみんなに見せる。その時の表情も嬉しそうでもホッとしているようなものでもなく、曇った顔つきのままだった。
「ねえ義人、さっきからアンタ何か不安に思っているような顔だけど、何かあったの?」
心配した由香が言い出す。それに義人が尚も真剣な顔で皆の元に座り込んで話す。
「皆、聞いてくれ。スマホを取りに行って戻る時に、あの平等院さんがとある女子生徒ととんでもない関係を持っていたことを知ったんだ」
「え?あの平等院麗華が?とんでもないことってどんな・・・・・」
その義人の言葉を聞いて他のメンバーが身構える。
「彼女、本当に寂しい思いをしていたよ。お嬢様だからいつも周りから距離を置かれていたんだ。自分たちと世界が違うからというのもそうだし、あの時の俺たちに対してみたいにちょっとお節介でお高くとまっている雰囲気なものだから生意気に見られて誰とも仲良くなれずにいたんだ」
義人は淡々と語っていく。それを聞いてその場の全員が「やっぱり」とでも言いたげな少し悲しそうな顔をしていた。
「そうだったんですね」
「平等院さん、育った環境故に苦労しているんだね」
だが更に義人が話す。
「それだけだったらまだいい方さ。俺、三人と関係を持っていたって言っただろ?その関係性が本当に捻くれたものでな」
そうしてその口から聞かされたことは皆の耳を疑ったのだ。
「彼女、その三人に寂しそうにしているからって、親切そうに声を掛けて近づいたようなんだが、そうして友達になってあげる代わりに毎週のように一人一万円ずつお金を払っていたんだ」
「「「「「!?」」」」」
それを聞いた五人は思わず息が止まったような感覚を覚えたのだ。
「嘘だろおい・・・・・」
「それってつまり、友達をお金で買っているようなものだよね?」
「それは平等院さんからそう言い出したのではなく、その三人組がそう提案したということで宜しいでしょうか?」
「ああ間違いない。明らかにそんな様子だ。その三人の方から『早くいつもの金を出せ』って言ってきたからな」
義人の証言は疑いようのないものだった。皆彼を信頼しているが故であるからだ。
そして一同はあの日の麗華の失礼な発言などもうどうでも良くなっていた。只彼女がそのような理不尽な扱いを受けていることに対し、彼女への哀れみや、そのような目に遭わせているその三人組への憤りで胸が一杯になっていたのだ。
「・・・・・何よ、何そのクソ女たち! 友達を金で買うなんて、そんなの絶対間違ってる!」
由香は激昂のままにその場で声を荒げる。
「もし本当にそうなっているのだとしたら、それは友情を騙った恐喝行為ですね。平等院さん自身もこんなのは間違っていると思っていながらも、誰も友達が居ないことから来る寂しさから、無理にお金でそれを解決しようとしているのですね」
千恵が冷静に、けれども力の籠った声で分析を述べる。
「あんな綺麗なお嬢様をよもや金ヅルにするなんて、そいつら最低すぎるだろ!」
源もまた女好き故、日頃から麗華のことはよく見たり聞いたりしていたこともあって彼女の魅力は充分に理解していたことだろう。そんな美しい存在が穢されている事実は耐え難く、その場で強くこぶしを握り締める。
「平等院さん可哀想・・・・・自分の身上や立場、育ちのせいで寂しくして、その上それを悪い人たちに漬け込まれるなんて」
真美は怒りの他に悲しみが入り混じった感覚を覚え、麗華の身を案ずる。
「ITの世界関係なく、現実の生活の中でもこうした形で人の弱みに付け込む手口があるなんて。これはその脅威を打ち破ることを志す者として見過ごせませんね」
陽鞠も嘗て的場を断罪した時と同じような力強い眼差しで顔を上げる。
そして義人も皆の顔にそれぞれ視線を送って告げる。
「もうみんなも分かっているとは思うが、俺たちの手で平等院さんを救うぞ。そんな『金の切れ目が縁の切れ目』みたいなことは絶対にあってはならない。彼女に本当の絆というものを教えるためにも、その呪いから彼女を助け出そう」
そうして義人の鶴の一声で、六人は意気投合した瞬間だった。
「とりあえず今は折角真美が用意したものを頂くことにしよう。どうするかは放課後にでもみんなで考えるとしてだな」
義人は更にそう言ってその場に腰を下ろす。こうした時こそその場の気持ちの切り替えを行い、今の大事なことに集中する。そうした「その時はその時」と言ったことを彼は弁えているのである。
「そうだね。皆も遠慮しないで、平等院さんを助け出す作戦のためにも腹ごしらえして」
そして真美の言葉を受け、一同も目の前の食事をとることに専念する。かくして彼らは再び校内の事件と向き合い、それに臨むべく一丸となったのだ。
一週間後、今週もまた麗華はあの三人の元にいた。もうこのようなことをし出してから何週間たったのだろう。今の麗華にはそんなことはどうでも良くなった。只、こうしたことで形だけでも彼女たちの仲間になっていないと、そんな強迫観念が彼女を襲う。今回も用意したのですもの。そう、このようなことはお金で解決すればどうにでもなりますわ。彼女は自分にそう言い聞かせている。それが本音ではなく、自分を納得させるための良いわけであるとも気付かないで。
「あ、来た来た」
「待ってたよ、約束通りに来るなんてあなたも義理堅いね」
「そんなにアタシたちのこと信頼しているんだね」
歩いて行った先の寂しい渡り廊下で彼女たちは待っていた。
「ええ、まあ・・・・・」
麗華はそう答えて当然だとばかりに返事をする。けれどもそんなものは空返事であると同時に表向きではそうだと言いたげな皮肉の籠った一言でもあった。
「それじゃあ早速出して貰おうかな」
「そうそう、これであなたもあたしたちと友達でいられるんだから」
「ほしいもののためにも仕方ないよね、こういうのには犠牲は付きものなんだから」
そう言いながら三人はヘラヘラと笑っていた。
ふとここで一人が放った言葉が麗華の中で大きく木霊し、彼女の中で何かがピキリと音を立ててひび割れたのである。「犠牲」、その言葉は一見すると理にかなっているようにも聞こえた。どんなものもお金を払いさえすれば手に入れられる。家、車、食べ物、道具、更にはサービスまで。全ては資本主義の名のもとに成り立っている。何事にもビジネスライクであらねばならない。さもなくば手に入れられるものも、手に入れられなくなる。そう割り切っていればいい、余計な感情はいらない。全ては自身の利のために。これまでそう自分にも言い聞かせてきた。
けれども何だろう。そうして機械的、事務的にやる分には問題は無いが、それで自分の心が満たされるのかと言えば違うのである。彼女たちは心から自分のことを求め、大切にしているのではない。本当は金目当てなのだ。お金ほしさに、金持ちの自分の境遇に漬け込み、自分の要望に応えるのと引き換えに富を毟り取っていく。自分は今彼女たちの良いようにされてしまっている。
「あの・・・・・」
「何?」
「皆さんはわたくしのことをどうお思いで?」
麗華は唐突にそのような問いをする。それを聞いて三人はさっきまでの笑みが消え、その面をしかめる。
「何なの急に?アタシたちがあなたをどう思おうと関係ないでしょ?」
「あなた方は、わたくしを只のお金を得るための道具のようにしか思っていないのですか?本当はわたくしのことを友達だと微塵も思ってらしてないのですね。『いつも寂しくしていて、友達を作りたくても作れないからそれに漬け込んでやろう』と、そのようにしか思っていないのですね?友達になってあげるなどと言っておきながら!」
それは明らかに麗華の彼女たちに対する抗議の言葉だった。うわべだけ仲良くなってあげると言い、金銭のやり取りで形だけでそうした関係を作っているだけ。心から相手と仲良くなろうなどとは少しも考えていない。そうしたことへの不服の言葉だった。
「なんなの?あんただって一人ぼっちの状況が嫌なんでしょ?折角そんな中であんたのその状況を解消してあげようとしているのに、アタシたちのやり方に文句つけるわけなの?育ちが良くて、それ以下の人間をすぐ見下すような態度とっていい気になっているお嬢様っていうだけのあんたが何を偉そうに!」
女子生徒の一人が突然不機嫌そうに声を低めてそう麗華に悪態を浴びせる。友達になろうとしていた偽善者としての仮面が剥がれた瞬間だった。
「何なんですのその口のきき様は!?品性が無いですわね!やはりわたくしのことは金の生る気のようにしか思ってらっしゃらないですか!そのようなことで金を原田家の価値があるだなんてよくもまあ癒えたものですわ!」
更に麗華は彼女たちを非難して絶叫する。
「うるさい!いいからよこせ!」
三人は一斉に彼女に掴み掛かる。そうして彼女が持っている財布から約束通りの金をとりだそうとする。
「離しなさい!離してくださいまし!」
そう言って力任せに腕を掴まれ、それを振りほどこうとする麗華。だが一対三、これだけの人数差で掴まれたらどうすることも出来ない。そうして一人に右手を掴まれ、一人に左手を掴まれ、最後の一人が財布の入った懐に手を伸ばしてきた。・・・・・その時だった。
パシャ!
カメラのシャッター音が鳴ったのである。三人はその音に一瞬ビクリとして動きを止め、恐る恐る後ろを振り返る。
「あ、あんたたちは・・・・・」
三人は視線の先にいたそれらを見て一気に血の気が引いていく。義人、由香、千恵、真美、陽鞠、源の六人の姿に。
「おやおや、随分大胆にやってくれてるじゃない。おかげでアンタたちに関していい証拠が掴めたわ」
由香が眉を吊り上げ、勝ち誇ったような笑みで言い放つ。
「これは恐喝のみならず強奪的な行為に他なりません。法的にもあるまじき行為です」
千恵が彼女たちをキッと睨みつけて言い放つ。
「どうしてこんなことするわけなの?こんな交友関係、どう見てもおかしいよ」
真美は困り顔で非難めいて問い詰める。
「全くだ。お前らそれでよくそいつと友達だなんて言えるな」
源も彼女たちを蔑むような視線を送る。
「あなた方のやったことはこうして写真に残しておきましたよ。いつだってこれをネタにあなた方の悪事をSNS上にでも暴くことが出来るのですから」
そう言って陽鞠はスマートフォンを掲げる。そこには麗華とそれに掴み掛かっている三人の姿が映った写真画像が見える。
「え?いや、その・・・・・」
三人は次第に余裕を失い、言葉に詰まり出す。自分たちのやっていることがバレてしまう。そんな恐怖と尻込みする心境が宿っていた。そして義人が歩み寄り、仁王立ちで腕を組んで彼女を睨みつけて言い渡す。
「お前たちがそういうことをやっていたところを、この目で見させて貰った。それで俺たちはそこの彼女を助けようと計画を立てた。こうなる瞬間を見計らっていつもの待ち合わせ場所でいつものやつをやると見込んで待ち伏せさせて貰った。そしてこうしてお前たちの不正の証拠を押さえたぞ。さあ、今すぐにその汚い手を放すんだ。そして二度と彼女に近づくな。そうすればお前たちが今までやったことは黙っておいてやる。言う通りにした方が賢明だぞ。俺とこいつらの連携を舐めない方がいい。証拠を取り押さえた以上、公表されれば、お前たちのこの学校での生活もお終い、人生お先真っ暗だ。どうする?」
そう詰め寄る義人の前に三人は何も言い返せない。ここで何かしらの抵抗をしようものならこの状況で自分たちがやったことが世に知らされる。白い目で睨まれてしまう。彼女たちはそっと麗華から手を放し、離れ、絶望の表情でその場から逃げ出していった。
そしてあまりの出来事に麗華はただ言葉を失うばかりだった。今正に三人に金を取られようとしていたところに、この六人が駆けつけ、よもや自分を助けてくれたのだ。けれどもそれと引き換えに自分が唯一友達を作る手段が経たれてしまったことも意味している。そんな事実に麗華は少し口を尖らせて言い出す。
「・・・・・あなた方、何なんですの?人が折角友達付き合いが出来るようにしていたというのに、ことごとく邪魔などして」
非難めいた言葉を述べる麗華。けれども義人はそれに臆することも無く言い返す。
「友達付き合いだって?あんなことするのが?縁起でもない。お金を払って友達になって貰おうだなんて、そんなの本当の友情だなんて言えるわけないじゃないか。本当に友達と言える存在は、お金のやり取り関係なく大切にしてくれるのを言うんじゃないか。だからそんなこと止めさせたんだ」
麗華はその言葉を受けてハッとする。それはさっきまで自分が疑問に思っていたことと同じ意見だったのである。麗華は自分と波長の合う人間がいたことに強い驚き、そしてほんの僅かな感動を覚えたのだ。だがそれはそういう形で友達を作ることが出来ない自分を否定することになってしまう。その事実からこの状況は嬉しくもあり複雑でもある。
「余計なお世話ですわね。あなた方が今みたいなことをしたせいで、わたくしはまた一人ぼっちになってしまいましたじゃないの」
複雑な感情のままに尚も憎まれ口を叩き続ける麗華。と、義人は言い出す。
「一人ぼっちに?まさかそんな。もし一人で寂しいなら、俺たちが君の友達になるよ。もうあんな奴らのためにご機嫌を取る必要はないからな」
「え?」
その言葉は麗華の耳を疑ったのだ。あの時自分からああも厳しい批判の言葉を放たれたにもかかわらず、自分と友達になろうと言い出してきたのである。
「一体何のつもりですの?そういうことならば見返りは何が目的で?」
「見返りだって?そんなものなんか要るもんか。言っただろ、本当の友情が何なのかを。俺たちは君のことを助けたい、そういう気持ちのままに友達になろうって言っただけだ。君には本当の青春を味わって貰いたいから」
「けど、わたくし皆さんにあのようなことを申したのですのよ。憎たらしいとか思わないのですか」
今度は自分にはそんな資格は無いとでも言いたげな遠慮の言葉が出る。「どうせ自分なんか・・・・・」そうした後ろめたさだった。だがこれに由香たちが次々に口にし出す。
「何言ってるのよ。アンタがあたしたちみたいな集団が羨ましくてついあんなことを言ったこと位分かっているんだから。そんなのあたしたちがそう思えないようにすればいいだけの話じゃん」
「そうですね。例えどんな悪いことをした人であろうと人権はあるものです。弱かったり、困っていたり、悲しんだり、苦しんでいたり、そんな人がいれば手を差し伸べるのが人情ですから」
「平等院さん。私たちもね、もしあなたと仲良くなることがあるならば、一緒に学校の昼休みを過ごしたり、色んな所に出掛けたりして楽しみたいな。きっと素敵な思い出になると思うよ」
「こんな別嬪なお嬢様と仲良くなれるなんて俺としても光栄だし、こんな高嶺の花と思っていた人と一緒に楽しいことが出来るなら優越感が半端ないぜ。フヒヒ」
「源先輩、鼻の下が伸びてますよ。とはいえ私としても色々平等院さんからお話はしたいところですし・・・・・」
それぞれ六者六様だった。けれどもその根本的な思いはただ一つ。彼女と仲良くなりたい。それはあのショッピングストリートでの麗華に対する思いを一つにしたあの時の決意から来ていた。
これを受けた麗華もまた自信の中で何かかが壊れ、閉じ込められていた何かがブワッと噴き出してくるのを感じた。彼女の目は徐々に潤み、涙が零れてくる。そしてその場に膝をついてすすり泣きながら言う。
「グス・・・・・そんな・・・・・わたくしと仲良くしたい、それも何の見返りも求めずになんて。そんなことを言って下さる方がいらっしゃったなんて、願ってもいませんでした。こんな不束者のために、皆さんは・・・・・」
そして箍が外れたとばかりにその静かな鳴き声は大きくなり、涙もボロボロと流れるようになっていった。
「うわあああああ!申し訳ありません!そうです!わたくし、あなた方のことが羨ましかっただけだったんです!それなのにあのような無礼なことを申して!」
そう叫びながら項垂れる麗華に義人は歩み寄ってしゃがみ、肩に手を当てて告げる。
「もういいんだよ平等院さん。これからは一人で抱え込んだりする必要はない。俺達がついているから」
「そうよ。あたしたちの方こそアンタのことも考えず、あんなこと言ってごめん。これからは、もう平等院さんが寂しくないようにするから」
由香の言葉もあって麗華は気が晴れるような感覚を覚えたのか、スッと泣き叫ぶのを止め、しばらく黙っていた後に顔を上げて言い出した。
「・・・・・麗華と呼んで下さい」
目にはまだ涙が残っているが、やわらかい笑みがそこにあった。それは彼女が彼らを心から認めた証拠だったのだ。
「こんな育った環境の違う者でもよろしいのであれば、皆さんの仲間に加えてくださいまし。どうぞよろしくお願い致します」
その場にいた全員が胸を撫で下ろした瞬間だった。
「こちらこそよろしく、麗華」
義人はその申し出に受け答えて言った。そうして差し伸べた手を麗華は取ったのだった。陽鞠もその瞬間にニコリとして言ったのだった。
「ミッションコンプリートですね」




