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六章:高嶺の花

 あくる日、義人たちの学校はいつも通りに賑やかだった。その大半が友人たちと仲良く過ごしていたのだった。勉強の合間の楽しい一時、彼らは思い思いに幸せな昼休みを過ごしていた。けど彼女だけは別だったのだ。

 自分は生まれも育ちも普通の人とは異なる。とても格式高く、そんじょそこらの中流階級とはわけが違っており、豊かな人格と品性、知識も備えていたのである。が、そんな特別な存在は時として本人自身をきつく締めあげ苦しめる縄にさえなるのである。その高尚さは時として低俗な存在を見下し、時に余計なお世話を焼いて相手を怒らせ兼ねない。生意気な奴だ、自分の方が偉いとでも思っているか、周囲からそう思われて疎ましく思われてしまう。そうでなくともあの人は自分たちと格式が違うから触れ合うべき存在ではないのだろう。そう思ってつい謙遜して距離を置いてしまうのかもしれない。いずれにせよ誰も彼女を気に掛けることなど無ければ声を掛けることも無い。只自分たちとは違う世界の人間のように遠くから眺めるだけである。そうして彼女はいつも誰も近寄らず、いつも孤独を抱えている。このお昼の時間だってそうだ。持ってきた昼食は並の人間であれば驚く程豪華で品性のあるものだが。そんなものを食べる人なんて自分位しかいない。それを誰も他におらず、自分一人で細々と食べていたのだ。そして今日も一人で寂しく食べている。

「ねえ平等院さん」

突然声を掛けられた。ふと顔を向ける。あ、あのいつもの三人ですわ。今日もわたくしに会い来たというのでしょうか。そんな期待が膨らんでいたが、それと同時に虚しさまでもが込み上げてくるのだ。

「あらあなたたち、何の用ですか?」

「何って決まってるじゃん。一応あなたの友達なんだし、この時間付き合ってあげてもいいわよ」

「それはまた・・・・・」

 こうしたことを言われたら勿論嬉しいはずなのだ。けれども彼女の場合はそうではなかった。ふとその女子生徒の一人が言い出す。

「で、平等院さん。例の事、忘れてはいないよね?」

 そう言われて少し眉を顰める。その言葉が何のことを言っているのかは分かっていたからだ。彼女はすぐさま返事をする。

「分かっていますわよ・・・・・あなた方がわたくしのお友達で居続けるというのであれば、本望ですもの」

 その声は弱々しく静かなものだった。これっぽっちも嬉しくないといった感じだった。

「それならいいんだよ」

 三人の女子生徒は笑っていた。その笑い声は楽しげでありながら、どこか嘲る様にも冷やかす様にも捉えられる笑いだった。彼女は強く唇を噛み締めるのだった。

「あ、ちょっと見てあれ。あれって例の」

「ホントだ。最近噂になっている男子とその彼女たちだね」

 突然女子生徒の一人がふと遠くを見て指をさす。それを見た他の二人もさした方を見て答える。そこには男子生徒を取り囲む四人の女子生徒、そしてもう一人男子もいる。六人は楽しそうに昼食をとっている。

「えっと名前は何だっけ?豊田義人だっけ?」

「そうそう。いつもあの辺りでああやって女の子に囲まれて楽しくやってるみたいなんだよ。所謂ハーレムを作ってるみたい。そのことでSNSでとある生徒が不純交際をしているって嘘の投稿をしたことで学校中でも大騒ぎになったみたいなの」

「けどまあそうやって嫉妬されて、変な悪戯されるようなことがあってもおかしくはないよ。だって一人の男が複数人の女と交遊してるんでしょ?そんなのどう見てもまともじゃないよ。ま、それであの男子の人生が崩壊しても無理もない話だね」

 三人の口から次々と義人に同情し兼ねるような言葉が出てくる。当然と言えばそれまでだが、やはり義人が彼女たちとやっていることは普通ではない。周りから異様に見られ、あまり良いように見られていないのもごく普通のことである。あの一件があってから義人と彼女たちの関係性が学校中に知れ渡ったのは言うまでもなかったのだ。勿論その嘘の投稿のせいで広まった、義人が彼女たちを女奴隷として扱っているなどという誤解こそ解けたものの、やはり恋愛関係が一対一が当たり前である以上は、その当たり前から逸脱した行為は世間には受け入れ難いものがあるのだ。そうしたこともあってこの三人組も彼らを異様なようにしか思っていないのだ。

「ねえ平等院さん、あなたもお嬢様という品位ある存在なんだし、やっぱりああいう男女の交際ってどうにも見ていて耐え難いところはあるでしょ?」

 唐突に聞かれる。その時の彼女には分かっていた。彼らは自分と違う。しかしそれは自分の家柄や育ちが良いなどという優越感や、彼らが異様な人間であるという軽蔑の念から来るものではなかったのだ。むしろ彼らに対する羨ましいという気持ち故のものである。けれども彼女はそんな自分の気持ちを認めなかった、認めたくなかったのだ。只でさえ良い所の令嬢である自分が一般庶民を羨ましいなどと言っていることは自身の気高さとプライドが許さなかった。何よりも彼らの関係性は心からの愛情で成り立っていることは彼女には分かっていた。だからこそそれを肯定すれば自分のやっていることを否定することになりかねない。自分自身を卑下してしまい虚しくしてしまうだけだ。そんな想いを抱くままに彼女は口を開く。

「・・・・・全くですわ。あのように殿方をシェアするだなんて実に見苦しい、破廉恥ですわね。わたくしたちのようなごく普通の友達付き合いとは違いますわよ」

「そうだよね。やっぱり分かってるじゃん」

 三人はキャッキャとはしゃいでいた。確かに彼女たちとの関係はごく普通である、少なくとも表向きは。そのどうしようもない現実から彼女は目を背けざるを得なかった。






 放課後、義人、由香、千恵、真美は楽しげに身支度をしていた。

「そういえばさ義人、あたしたちこのハーレムを結成してから一回もどこにも行ってないじゃん。これから陽鞠や源も連れてどこかへ行こうか?」

「そうだな。そういえば最近あのショッピングストリートに新しくできたファンシーショップがあるみたいだし、お前たちもきっと気に入るものがあると思うぞ」

「え!?それってどんなショップ!?超興味あるんだけど!」

 義人の提案に由香が心躍らせる。

「いいね。それからクレープ屋さんもあったね。一度見てみたんだけど、色々種類があってみんな好みのものがきっとあると思うよ」

 更に真美が温かい笑みで付け加えの提案をする。

「ふふ、勉強するのも大切ですが、そうやって仲睦まじい交流をするのも悪くありません。・・・・・いえ、悪くないどころか、こうして義人君と恋仲になった以上はそうやって素敵な時間を過ごすことはとても重要ではありますね」

 つい昔までは堅苦しく、笑顔を見せることさえ稀だった千恵も口角を上げながら告げる。そういう経験が大事ということを勉強しての事でもあるが、それを実感するに至ったのも嘗て義人にカフェでご馳走して貰ったことを発端にしているが故なのである。

「良し、そうと決まれば源や陽鞠も誘いに行こう。源だったらノリノリだろうな。陽鞠も本ばかり読んでないでたまにはそういうのも大事だぞって言えば喜んで付いて行くだろうしな」

「決まりだね」

 こうして一行はそう語り合いながら源と陽鞠の元へ向かおうと教室を出た。その時だった。

「ちょっとあなた方!」

いきなり声を掛けられたのだった。声を張り、それでいながら力任せな怒声ではない品のある女性の声である。その声のした方を向く義人たち。そこに立っていたのは一人の女子生徒。すらりと、それでいて細すぎもしない体型、その長い髪は四股に分かれ、それぞれ綺麗な螺旋を描いて下がっている。さり気に両足をぴっちり揃えて合わせ、繊細な指の生えた手の共同の一つ一つに風情が感じられる。顔はすっきりした小顔だが、その表情はどうにも機嫌が悪そうである。細くスッキリした眉を上げ、切れ長の目を睨みつけるように細め、ムッと閉じていた桃色の唇を開き出す。

「あなた方が噂のハーレムを作っているという方々ですか。そしてそちらが豊田義人さんですわね?」

 その突然の問いに義人は反射的に答える。

「そうだけど。君って確か別のクラスの・・・・・」

「ええ、平等院麗華ですわ」

「確かいいとこのお嬢様だったよな。あの平等院財団の」

「その通りですわ」

 義人からの問いにも淡々と答えていく麗華。そう答えている間もムッスリしていて感じが悪そうに見えていた。由香も負けじと言い出す。

「それで、そんなお嬢様があたしたちに声を掛けて、何の用なの?」

「決まっていますわ。あなた方、見て分かる通り一人の男性が複数人の女性と関係を持ってらっしゃるではありませんか。よくもまあこの公然の場でそのようなふしだらなことが出来ますわね。全く破廉恥極まりありませんわ」

 「ふしだら」「破廉恥」、その言葉を受けて由香はおろかその場の四人全員がムッとする。そして最初に言い返したのが由香だった。

「何よ失礼ね!別にあたしたちがどうしようと勝手じゃないの!愛の形は人それぞれ!アンタが一々そのことに首を突っ込む必要もないでしょ!」

 続いて千恵が言う。

「その通りです。私たちは事情があってこうしているまでです。あなたのように育ちの良い人には理解できそうもないでしょうが、私たちはこうして同じ人を好きになった者同士、その彼を共に支えていくと誓い合ったのですから」

 更に真美が言う。

「義人君は別に女を連れ回していい気になっているチャラチャラした人じゃないの。彼を好きになった私たち全員の気持ちに応えて、平等に愛していこうと向き合ってくれる切実な人なんだよ。だからこそ私たちもそんな彼の想いに寄り添ってあげようってこういう集団を作っただけなんだから」

 そうして三人は弁解の言葉を述べる。けれどもその想いは麗華には伝わらない。

「だとしてもですよ、そんな関係性をわざわざ公の場でひけらかすかのようにするのは止めてくださいませんか?人によってはあまりにも見苦しいものなのですわよ。それに関する一件で校内中が大騒ぎになったことがある事実はあなた方だってご存じですわよね?この学校の生徒であるなら、そうしたことをして学校中を騒がせるような真似は厳に慎んでほしいものですわね」

 口では如何様にもそう述べられていた。その様子を義人は見守る。その間にも義人は感じ取っていた。彼女は今自分たちに余計なお世話を焼いているお節介さを見せているつもりでいるかのようだった。だが誤魔化しきれていないのも微塵ながら感じる。それは表向きは風紀の乱れに対する非難によるものでいながら、裏側には何かしらの嫉妬のようなものが入り混じっていたのだ。一見繊細で無駄がない動作、息遣いにも、所々不安定な部分が見受けられることからもそれは分かる。と、ここで義人は一つ聞いてみる。

「で、平等院さん。君はそんなことを言いにわざわざ俺たちの元まで来たわけなのか?」

 麗華はそれを聞いて一瞬黙り込んだが、程なくして答える。

「いいえ別に。たまたま見かけただけですわよ。あなた方のことは日頃からよく見かけますから、わたくしとしてもどうにも目障りなもので、少し注意しておきたいと思いました次第でして・・・・・」

 その時の彼女はどうも時折視線を逸らすような落ち着きの無い様子を見せていた。義人は更に言う。

「そうか。まあ日頃から不快には感じていたわけだったんだな」

 すると更にこんなことまで言い出したのである。

「とはいえ、俺たちの関係をそこまで言うなんて、何か嫌なことでもあったのかな?」

「!?」

 その言葉を受けて麗華は目を見開いた。それは思いもしない一言だったのだ。

「よ、義人?」

 突然の言葉に由香たちさえ驚きを隠せない。さっきまで憎たらしいことばかり言ってきた相手に対し、その身を案じるような言葉を掛けたのだから。

「な、何なんですの一体?」

 突拍子も無いことを聞かれ、おぼつかないながらも言い返す麗華。

「あの事件の事だが、あの後それを引き起こした本人が、その悪事を白状した際に言った言葉を今も俺は覚えているんだ。『何かしらでいい気になっている奴らが気に入らなくなって、そいつらを羨ましく見ている奴らにも漬け込んだ』。そいつが悪いことをしたことには変わりは無いが、それでもあの時のような事件やトラブルというのは、そうした個人の憂さと不満から来ているものだと俺は考えている。君にまでそういうことはしてほしくない。もし何か思い悩んでいることがあるなら何でも言ってほしい。俺は誰のことも救いたいって思っているから。さあ、言ってごらん」

 その言葉は正に義人の人柄そのものと言っても良いものだった。それを聞いていた周りの仲間たちも納得している様子を見せる。そう、これでこそ義人である。麗華がわざわざ自分たちの姿を見て目障りだというには理由があることだろう。あの的場の件だって同じように、誰かに対する嫉妬やそれに対する自分への劣等感、そうした気持ちが歪んだ感情を引き出しているのだと。だからこそそうした人がこの世に出ないようにするためにも自分がそれに救いを施してあげなければ。そうした使命感が義人の中にあるのである。そしてその言葉を放って右の掌を差し出してくる。

 だが現状はそう言ったからと言って簡単に事は動くものではなかった。麗華からしてみれば今の自分が、あの校内でも問題を起こしたあの生徒と同じような扱いをされていると捉えているのだ。何よりも全てを語れば弱い自分を曝け出すことにもなり兼ねない。どんなに腐っても自分は財団の社長令嬢なのだ。ここでそんな立派な家柄の娘が情けない自分を周りに見せることは出来ない。そうした彼女のプライドが一切許そうとしないのである。そしてそんな気高さを保とうとして言い返してしまう。

「・・・・・何なんですの。わたくしがそのようなことを言ったところで何になるのですか?何よりもわたくしを誰だとお思いで?わたくしはあの平等院財団の社長の娘。あのような卑しい方と一緒にしないでくださらない?あなた方を羨ましがって何になるというのですか?わたくしはいつだって品格と威厳を損ないませんわ」

 その拒絶ともいえる言葉の後、ふっと踵を返す。

「あなたのその親切な一言だけは受け止めてあげましょう。ですがどうか覚えておいてください。人と人の絆というのは、そのような心からの愛情で成り立っているようなものばかりではありませんのよ。時にはビジネスライクな姿勢で臨まないといけない場面もあります故、いつまでもそのような仲良しごっこが出来るとお思いにならないことですわね」

 その言葉は手厳しくもどこかお節介ともとれる言葉だった。そしてその言葉を残して麗華はその場を去っていく。

「おい、ちょっと」

 義人は彼女を制止しようとするも、そのまま言い切らない内にスタスタと歩いて行ってしまった。その場にいた全員が呆然と立ちすくんで彼女の後姿が遠のいていくのを見守っていた。

「ホント感じ悪。折角義人が親切で今みたいなこと言ってあげたのに、何なのあの態度は?」

 由香はまたしても眉を顰めて文句を垂れる。

「平等院さんはどうにも素直になれない性があるのでしょうか。立派なご家庭で育った方ですし、それに似あった風格を保たなくてはならないということもあるのでしょう」

 千恵は冷静に淡々と語る。

「でもさっきから様子を見てたけど、分かるよ。なんだか寂しそうにしてて、やっぱり私たちのことが羨ましいんじゃないかな。もしかしたら今の私たちみたいに心から信頼出来る友達がいないとか」

 由香が心配げに呟く。

「だろうな。さっき彼女自身も言っていた、『ビジネスライクな姿勢で臨まないといけない場面もある』って。もしかしたら本当の友情と言うものが分からないのか、あるいは実感したことが無いのかもしれない」

 義人がそう彼女を案じる。彼としてもどうにかしたい、けど相手がなかなか素直にならない。そのもどかしい状況が彼の頭を痛めているのだ。そうして四人はじっと俯いて立ちすくむ。

「おい、皆大丈夫か?」

 と、そう言って駆けつけてきたのは源だった。

「源・・・・・」

「いやいや、何だか大変なことになったな。あの噂のお嬢様に目を付けられたかと思えばあんなこと言われるなんて」

 源もまた自分の教室を出てすぐにあの光景を目にしていたのである。そして麗華が義人たちの元を去っていくときもすぐそばを通り過ぎていくのを見たのだ。

「ハーレムを作るのは大変なことばかりではあるけど、まああんなことがあるのはご愛嬌と言ったところかな」

「そうですね。それでも私たちはこうした関係を貫いていくって決めたんですもの」

「あんなこと気にすることも無いってことね。あたしたちにはあたしたちなりの信念があるんだもん。ここで屈するわけないじゃん」

「そうだよ。だってみんなで仲良くやれているんだから。この暖かい人の輪が永遠に続けばってみんなで願っている。そうだよね皆?」

「そうだな。俺だって皆を応援するって、みんなの力になるって約束したし」

 皆が口々に自分たちの絆を再確認する。そして源の誓いの言葉も力強く頼もしいものだった。そして源の言葉を受けて由香がさっきまでやろうとしていたことを言い出す。

「あ、そう言えばこれから源や陽鞠も連れて例のショッピングストリートに行こうって話になっていたんだっけ。今から陽鞠も迎えに言っていこうよ」

「おういいぞ。俺のことまでお誘いするなんて、ありがたく受け答えよう」

 源は頷いて答える。その後一行は陽鞠とも落ち合って学校を出ていく。






 学校からしばらく歩いた先、そこにあったショッピングストリートは多くの人たちが買い物に来ている。身近な生活用品や食品、おしゃれや趣味の用品の店など、人々の生活を潤す店がストリート一帯にずらりと並んでいた。年配の人もいれば、中には青春を味わう若者たちもここに来ている。その通りを義人たち六人も歩いていた。

「成程、私や源先輩を誘おうとしたときにそんなことがあったのですか」

 陽鞠はそう呟いていた。義人たちから麗華との間に起こったことの一部始終を聞かされたのだ。

「平等院麗華という人は私の方からも噂で聞きましたので、こちらの方でも色々調べているのです。平等院財団、何十年も前に立ち上げられ、その後様々な事業を展開し、今のような巨大企業として社会の貢献に一躍買っている。そして今の平等院一斉代表取締役社長の娘がその人ということですね」

 陽鞠はスマートフォンで開いた情報を提示して見せる。

「良く知っているな。陽鞠にはそういった情報収集能力もあるみたいだな。まあそんなところだな。しかしまあそんなビッグネームの娘にあんな子と言い渡されることになるとは」

 義人は早くも自分たちのやっていることに対する周りからの風当たりの程を実感する。これが普通の庶民だったらまだしも、格式高い家庭のお嬢様から因縁を付けられたともなれば尚の事きついものだった。が、ここで千恵が気掛かりなことがあるとばかりに言い出す。

「私としては気になるところがあります。あのような立派な人がなぜわざわざ私たちにあのようなことで一々構ったりするのでしょうか。立派な大人物であればこんな小さなことなど気にしていることも無く、只無視することしかしないはずですが」

「俺もそれは気になった。だからこそ彼女にああしたことを言ったまでだよ」

 そんな千恵と義人のやり取りに更に由香や真美も述べていく。

「そうだよね。『ビジネスライクな姿勢で臨まないといけない』とか言って割り切っていたところもあったし、もしかしたらあの人は本当は寂しい思いをしているんじゃないかな?いつもああやってお高くとまっているけど、周りから浮いているから心から信頼できる人がいないんじゃない?」

「そうね。あたしたちみたいな存在は関係性が異様とは言え、和気あいあいとやっているし、まして普通の交遊関係ではありえないような仲良しぶりだから、平等院さんもちょっと焼きもちを焼いちゃったんだね」

「俺もそう思ったよ。しかしまあさっきのと言い、お前らしいよ義人。相手がお嬢様だろうと何だろうとああやって手を差し伸べちゃって、憎い奴だよ全く」

 源の囃し立て、その言葉は義人にとって照れくささもありながらも、一種の憂いが沸き立ったりもした。

「それはどうも。けど・・・・・やっぱりあの人のことが心配だ。だって俺がそうやって手を差し伸べたのに、そうすぐに素直にその手を取ってくれない。やっぱりお嬢様としてのプライドが許さないんだろうな。ここで弱みを曝け出したら平等院の名が廃れるって感じで。でもだからと言って放っておけないよ。どうにかして彼女を何かしらの形で救い出せる方法はいいものか・・・・・」

 そう考え込む義人。真面目で優しい彼だからこその言動であると周りは確信していた。だからこそここで由香が言い出す。

「ホラ!考えるのもいいけど、今は楽しむのが先でしょ!あったよ例のファンシーショップ!」

 そう言って指さした先に如何にもお洒落な店があった。ピンクや白で可愛く彩られたその店に一行は入っていく。

「すごい!こんな綺麗なものばっかり!あ、このキーホルダーとかいいね」

 早速はしゃぎだす由香。

「おいおい落ち着けって」

 呆れるように後に続いて入る義人。

「まあこういうのも悪くありませんね。あ、このシャーペン使えそうですね」

 そう言いながら千恵もキャラクターが描かれたお洒落なシャープペンシルを手に取る。

「見て見て、このストラップとっても可愛いよ。ふわふわで触り心地が良い」

 真美は小さなキャラクターのぬいぐるみが付いたストラップを摘まんで掲げる。

「この手帳、付箋付きで便利かもしれません」

 陽鞠もどこかウキウキしながらカラフルなリングファイル式の手帳を眺める。

「ハハハ、みんな可愛いな。こんな店で思い思いに気に入ったものを見ているなんて。おい親分、みんなお前のお陰だぞ。良くやってくれた」

「それはどうも。こうして彼女たちが楽しんでいるなら、俺も嬉しい限りだ。こういう場所に連れて来て正解だったよ」

はしゃぐ少女四人を微笑ましく眺めて言い合う源と義人。こうして六人のファンシーショップで幸せな一時を過ごした。

その後一行は同じく通りにあるクレープ屋に来ていた。

「うーんこのイチゴカスタード最高!やっぱりあたしの一押しだね」

「色合いもいいよね。私のバナナチョコホイップも最高だよ」

「私のはキャラメルアーモンド。この香ばしさが癖になります」

「私はマシュマロホイップ。ふわふわで美味しいです」

 由香に真美、千恵に陽鞠と、それぞれが思い思いに頼んだクレープを食べていく。

「しかしまあ源がツナサラダを選ぶなんてね」

 ふと由香が源の方に目を向ける。

「ああ、こういったスナック風のものがあるのも、こういう店の醍醐味だよな。俺ってこういうのに惹かれるところがあるからさあ」

 そう言い合いはしゃいでいた由香たち。一方義人は注文したチョコホイップを口にしながらじっと俯いてばかりだった。それを見た源が心配そうに声を掛ける。

「なあ、まだ平等院さんのこと考えているのか?」

「ああそうさ。もし平等院さんにも、こうした庶民の楽しみみたいなものを実感してくれる機会があれば、彼女も心を開いてくれるだろうなって」

 義人は静かに告げた。彼女と楽しみたい、そうすれば彼女とももっと仲良くなれる。彼女も心から笑えるようになれる。そんな気持ちで一杯だったのだ。そんな義人の背中をポンポンと由香が叩く。

「大丈夫だよ義人。人の幸せは義人の幸せなんでしょ?あたしたちもそんな義人のためにも頑張るよ。今はどうすればいいのか分からないけど、きっと平等院さんもあたしたちの関係性を認めるどころか、寂しそうにしているところを助けてあげられるってば」

「そうですよ義人君。必ず突破口は開けるはずですから」

「自分のその想い、どうか信じて。私たちにも出来ることがあればやるから」

「その通りです。そのためのこの集団だから」

「だからしっかりするんだぞ、我らが親分よ!」

 仲間たちから口々に言われる義人。それを受け、胸の奥で淀んでいた何かがスゥッと引いていくのを感じた。

「ありがとう皆。ごめんこんな時なのに心配かけちゃって。さっき由香にも言われたけど、そういうのはまた後でじっくり考えて、今はこの一時を楽しまなくちゃ」

「そう来なくちゃ。ホラ、あたしのクレープ食べてみる?」

「私のも良ければどうぞ」

「私のも食べたい?はいどうぞ」

「それなら私も・・・・・」

 そう言って少女たちは自分たちのクレープを一切に差し出す。

「おいおい、そんないっぺんに出してくるなって」

 義人は少し戸惑ってしまう。源はそんな様子をほくそ笑んで見守っていた。こうして六人による楽しい一時は過ぎていく。その間にもその全員の胸には共通した願いが抱かれていた。いつか必ずこの中にもう一人が仲間に加わり、共に笑い、はしゃぎ合う中になれる日が来ると、そのためにも皆で力を合わせようと。


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