五章:和解
翌日。朝を迎え、周りが賑やかに登校する中で、一人のガラの悪い少年が一人テクテクと歩いて行く。その表情はどこか勝ち誇ったようなものだった。
「へへへ、大谷がログインの方法を教えてくれたおかげで俺もあんな投稿が出来たよ。おかげで大反響だ。昨日はあんなにも学校中で大騒ぎしていたな」
その笑みは無邪気なものではなく、明らかに悪意に満ちた邪なものだということは見て分かるものだった。
俺としてはあの女どもを大勢引き付けてイチャイチャしていたあいつのことが気に食わなくてならなかったよ。あれだけの人数を独り占めしやがって、まるで自分が王様にでもなった気分でいるのかあの野郎。それで女と結ばれずにいる他の奴の身にもなれっての。前々からそんな風にあいつを見ていたよ。けどこれはどういう運命の風の吹き様か、たまたまあの大谷があいつの親友で、あいつがああなったせいで一人寂しく眺めているところに出くわしてしまったよ。で、俺はそいつの心の隙間に入り込んだってわけ。大谷とは一年の頃から一緒のクラスだが、あいつのアカウントを使ってあいつの代わりに何かやり取りしているところはよく見ていた。だからこそあいつからそのアカウントの入り方を聞き出せたというもの。けどまあああまで言いくるめてあいつから易々とハーレム野郎のアカウントを乗っ取ってああいうことが出来たとは、我ながら素晴らしいよ。これであの野郎は時が経てば女どもが離れていく事態に陥ることになるだろう。そこを大谷が良い親友面している裏で、その女どもの心の拠り所になっている何て言う複雑な状況になれば、あの野郎はさらに精神的に追い詰められることだろうな。考えただけでも笑いが止まらなそうだよこりゃ。
校門から入って、玄関まで歩いて行く。その間にも的場はそんなことを考え続けている。その考え事は正に悪人の悪巧みによるそれである。否、悪人だから悪巧みをするものではなく、悪巧みをするから悪人になるものなのである。この的場とて例外ではない。元々このようなことをした動機にしても、単純に複数人の少女に取り囲まれて仲良くしているのが気に食わなかったという、一種の嫉妬と不快感という利己的な感情によるものでしかない。その上自分がやったことに対して何の罪悪感も感じていないと来た。的場がやったことは最早完全無欠の悪意ある行為としか言いようがない。義人はそんな悪意の毒牙を掛けられてしまったということだ。そしてそのことは的場にとって望ましいこと。人の不幸は蜜の味ということだろうか。
そんなこんなで的場は玄関に入っていく。運が良ければあの野郎の姿を拝むことが出来るかもしれない。そう、女が一人も残らずいなくなって、一人で寂しそうにして、そこを大谷に慰められている姿を。あいつはもうお終いだ。学校中からも変な目で見られ続け、頼りになるのは親友の大谷一人だけだろう。この学校っで正気を保っていられるのはいつまでになるだろう。
その思惑の間にも足取りは軽くなっていくのが分かっていた。
そうして教室まで足を運んだ的場、そうしてホームルームを迎えた。全ての連絡を終えたと誰もが思ったその時、担任から思いもよらぬ言葉を掛けられることとなった。
「あーそれから的場、大谷」
「「はい」」
言われて二人は返事をした。
「放課後に校長室まで着て貰おう。そこでとある者たちから話をすることになる」
その言葉を放った担任はどこか険しい顔をしていた。それを言い渡された直後、的場は僅かながらに冷や汗が出るのを感じた。まさかあの事がばれたのか、大谷も一緒だから共犯として共に責められることにはなるだろうか、でももしそうだとしてもどうやって俺が主犯だってことが分かったりするのだろうか。それにしても大谷はやけに冷静で堂々としていたな。一体あいつのどこからそんな肝の座りようが出てくるものなのか。的場はそんなことを考えてその日のそれまでの時間を過ごすこととなった。
放課後、的場は校長室の前まで来ていた。今朝とは違い、その足取りは重かった。源は的場よりも先にこの部屋に向かっていった。この部屋に既にいることは予想できる。恐る恐る的場はドアをノックして言った。
「的場です」
「入ってくれ」
言われてドアを開けて入る。そこにいたのは校長と、源と的場の担任、そして義人のクラスの担任、そして更にそこにいたのが、義人、由香、千恵、真美、そして陽鞠の五人だった。
「え、お前らまで?」
「待ってたぞ、的場」
義人が勝ち誇ったような表情で的場に告げる。獲物を追いつめた捕食者の如く的場をじっと見つめ、もうお前は逃げられまいとばかりに迎え入れたのだ。
的場は自分が懸念したことがついに現実のものになったこの状況に真っ青になっていく。そしてゆっくりと歩み寄っていった。
「的場、約束通り来たな。では話を始めよう」
大谷の担任がそう告げ、話は始まった。
「的場、学校中でも騒ぎになっているが、豊田が三木野、俵、佐和山、そして一年の矢橋と不純交際をしているっていうSNSの投稿が、豊田自身で行われているって聞いているだろう?」
「はい」
「あれ、実際は君がやったものなんじゃないのか?大谷からアカウントの入り方を聞いて」
案の定だった。的場の周りの空気は一気に張り詰めた。自分がやったことがついにばれた。ふと頭にそう浮かんだ瞬間だった。だがまだ望み薄ではない。本当に自分がやったものだと誰が見ても分かるような何かが今は提示されていない。そうである以上は如何様にだってしらばくれることはできる。
「俺がやったものだとでも言うんでしょうか?一体何を根拠にそういうことを・・・・・」
その辺りについてはどうせばれはしない。そのことを確信していたつもりだった。だがここで義人の担任がこう言い出したのだ。
「豊田、彼は証拠を求めているそうだ。君たちの方から説明してやってくれ」
「分かりました」
そう言って義人は胸を張り、自身に満ちた表情で口を開く。
「的場、お前が自分のスマホから俺のアカウントにログインしているのは分かっているんだぞ。まだ今でもログインしたままの状態にしているんじゃないのか?設定から分かるんだからな」
そう言って自分のスマートフォンから開いて、設定のアイコンでその欄を提示する。この設定ですぐにログアウトさせることも可能なのだが、ログインしている状態にしておけばそれが不正アクセスの証拠にもなるので、あえて消さずにいたのである。
「ここに俺には見覚えの無いものが一つある。後は俺の端末と、源の端末だけだ。源、お前の端末の識別番号を見せてみろ。俺がログインするように指示したものなんだから、別に大丈夫だよな」
「いいとも」
源はそう返事をして認識コードを提示する。それは今の欄の中に入っている。
「さあ的場、今度はお前の番だ。見せてみろ」
こう来ては的場としても要望に応えるわけには行かない。言われた通りに提示する。見せつけたスマホにはその識別番号が書かれていた。それは義人が提示した欄にもあった身に覚えの無いそれだった。
「けれどもこれだけでは俺がああいうことをやったっていう証拠としては物足りないな。大谷と豊田がやったっていう風にも捉えられるぞ」
的場は何てことも無いように反論する。けれども義人は平然としていた。
「そこはここにいる矢橋陽鞠が聞かせてくれるぞ。陽鞠、頼んだ」
「はい」
言われて陽鞠は的場に向かって一歩出る。その視線は的場の方に冷ややかに向けられた。あなたはもうここで終わり、そう告げているかのようだった。
「的場先輩があの投稿された日に、義人先輩のアカウントに自分の端末でログインした。その形跡もちゃんとここに残っていますよ」
それを聞いて的場は額から冷や汗を流し出した。
「どうやってそんなことが出来るとでも?」
「そんなこと簡単すぎます。あの投稿のコマンドを調べさせていただきました」
そう言いながら持っていたノートパソコンでそのコマンドの羅列を表示した。
「このコマンドがすべてを語っています。投稿した日時もこのコマンド内に示されていますよ。何よりもここにあなたの端末の識別番号も書いてあります」
そうして指さした番号、たしかに的場の端末の番号である。こうしていつだれが義人のアカウントにログインしたものなのかが一目瞭然となった瞬間だった。
「それじゃあログインに必要なIDとパスワードはどこから知ったって説明するつもりだ?大谷が俺の端末でやったっていうことも考えられるぞ」
すると源が一歩出て言い出す、ここで全てのケリをつけてやらんという決意の顔で。
「それなら俺が証明するぞ。このメールの内容で」
そう言って自分のスマートフォンのメールアプリを開き、送信メールの欄からとあるメールを開く。それは的場のアドレス向けで、アカウントのIDとパスワードを教える旨のものだった。更に大谷は言い渡す。
「お前あの日俺にこいつのアカウントの入り方を教えろって言ったよな?その記録も俺はちゃんと残しているんだぞ。さあ、お前の方からはどうするつもりだ?」
こうしてすべての証拠が出揃った。けれども問題が一つだけ残っている。今回のことは源が的場がどういうことをするのかを分かっていながらこれらの情報を提供した。そうである以上は源のことを共犯者として仕立て上げることだって今の的場にはできるのだ。そして案の定、的場は言い出したのである。
「ここまで提示された以上は俺がやったことだろうな。けどそういうことなら俺が能動的にやったんじゃなく、大谷に強要されてやったという風に言ったらどうかな?」
ここまで来ると言い逃れは出来ないように思えた。確かにそう言ってしまえば、的場の疑いの念は晴れはしないものの、源を道連れにすることだって出来るのだ。源が処罰の流れ弾を受けてしまう。そう思えるような瞬間に見えた。だが地齋はそうではなかったのだ。ふと陽鞠がこんなことを言い出したのである。
「それに関してはあなたの端末にハッキング、源先輩の件の他にも多くの余罪があることは調べさせていただきましたよ」
「え!?」
それを聞いた的場は大きく目を見開き、陽鞠の方を見た。彼女のパソコンでは数多くの人たちからあらゆるアカウントに入るためのIDやパスワードを教えるよう要請する内容のメールのコマンドがいくつも開かれていく。
「いつの間に!?」
「あなたの端末を特定できれば造作もありません。これらに書かれている内容からも、あなたが源先輩以外にも多くの人からこうした情報を聞き出して、それを悪用していたということでしょう。事前にメールを送った人たち全員にも聞き込みをしてみましたが、その全員があなたとは何の深い関係も持っていない、只話し掛けられただけだというのです。そして口を揃えて言います、『何かをやって貰うためにログインの仕方を教えた』と。その何かというのも、あなたがこの人たちを口車に乗せるような内容ばかりでした。あなたがそうした人たちを言葉巧みに騙してこれらの情報を得て悪事に及んでいた。そうではないですか?」
陽鞠はそう問い掛けてキッと的場の方を睨みつける。もう気弱で、はにかんだりするような彼女の姿はそこにはない。自信満々に相手の粗を洗い出したかのような強気な姿勢だった。彼女にツラツラと暴かれた事実を述べられ、的場は真っ青になっていく。
「成程。これだけの前科があるというのなら、大谷ではなく真っ先に君に疑いの目が向いてもおかしくはないな。どうなのかな的場?」
自身のクラスの担任に迫られていく的場。そして静かに口を開きだし告げていく。
「・・・・・そうだ。俺がやったよ。何かしらでいい気になっている、そんな奴らを見かける度にそいつらのことが気に入らなくなって、更にはそいつらを羨ましく見ている奴らに漬け込んだんだ。そういう時こそネットの力を使ってやるって」
観念したかのように項垂れて言い渡す的場に、一同が非難の眼差しを浴びせる。
「アンタってホントにサイテー!人が幸せそうにしているのに、その幸せが気に入らないって勝手に壊そうとするなんて!」
由香がビリビリと震わせてくる罵声を放つ。
「全くですよ。おまけに人を上手い具合に言いくるめて個人情報を聞き出すだなんて、これは最早詐欺のレベルですね」
千恵が冷淡に淡々と告げる。
「ひどすぎるよ。私たちは只義人君と仲良く過ごしていただけなのに、その上それを羨ましがっている源君の心の隙間に漬け込みまでして」
真美が悲愴に満ちた表情で呟く。
「的場、お前に個人情報を教えた俺も俺だが、お前のやったことは紛れもない悪質な行為だよ。俺のためにやってやるなんて建前で、よくもまあこんなことを!」
源もまた的場を責め立てる。その間にも的場は何も言えず、只俯いて黙っているばかりだった。この時の的場にはもう源が自分にそうするように働きかけたという言い訳が効きにくい状況である。そうであると誤魔化すためのアリバイさえ作っていないものだから。そしてじっと見て聞いていた校長から最後の審判が下る。
「それじゃあ的場君、今回の君がやったことに関しては今度の職員会議にて十分に討論させて貰うよ。どのようなことが下されるかは今ははっきりしないが、いずれにせよ覚悟はしておくように」
言い渡された的場は項垂れたまま、唇を噛み締めていた。こうして一連の事件は解決の方向へと進んでいくこととなった。
あくる日の昼休み。それまで起こったことが何もなかったかのような穏やかで賑やかな一時となっていたその空間。暖かい光が差し込む広場ではとある男女の姿があった。皆で楽しく弁当を食べている。義人、由香、千恵、真美、陽鞠、そして・・・・・源の姿が。
「源君、このメンチカツはどうかな?大好きだって作ってきたけど、お口に合うといいんだけれど」
「スゲエや!こんな一口サイズで作って来るなんて!どれどれ・・・・・」
そう言って源は早速その一つを箸で摘まんで口まで運び込んでいく。それを噛み締める。旨味の籠った肉汁が口いっぱいに広がっていく。
「うーん!味付けも最高!良くまあここまで肉汁が出てくるもんだな!」
「ふふ。そうなるように、お肉から肉汁が逃げて行かないよういろいろ工夫したんだから。喜んでくれて嬉しい」
ほっこりした笑みで真美は答える。それを聞いて便乗してくるは由香。
「あたしにも食べさせてよ。どれどれ」
「由香さん、慌て過ぎですよ」
「だってぐずぐずしてたら皆に取られちゃいそうなんだもん!」
「由香、そんなことしないから焦る必要は無いんだぞ」
「ふふ、本当に由香先輩ったら」
その様子はあの時の騒動が嘘のような賑やかで幸せそうな空気に包まれていた。真美が作ってきた弁当の中身を、皆は思い思いに楽しみ味わっている。
「しかしまあ源がここまで元気になってくれて嬉しい限りだよ。やっぱりお前をこの仲間に加えて正解だったな」
「いやいや。お前たちがあんなことになるようなことしたのに、こんなことさせてくれるようにして、こんなの有難いの一言に尽きるな」
「何を言っているんですか源君。言ったはずですよ、あんなことした以上はしっかり私たちのために償って貰うと。あなたがこの集団の中に加わってこうしているだけでもその償いの行為はしているようなものなのですから」
「そうだな。人の幸せは俺の幸せ・・・・・いや、俺『たち』の幸せだから。だろ皆?」
そう問いかける義人に全員が快い表情をする。
「当り前じゃない、それでこそ豊田義人なんだから。あたしたちだって義人の幸せのために協力しているようなものだし」
今の源はこうして良き仲間に恵まれている。かつては親友の恋路を陰ながら支えていただけの存在が、今では自分がきっかけで結成されたこの集団の仲間入りである。全ては義人の誰のことも見捨てたくない、踏みにじりたくない、そうした思い故のものによる結果である。そしてその想いは他の少女四人とて同じこと、彼女たちの義人が好きで、彼を支えたいという気持ちは、いつしか彼の誰かを助けたいという意志の連帯感に変わっていたのである。
「で、あの事件が起こって、それからどうなったんだ源?」
ふと義人があの一軒の決着の程を聞いてみる。
「そうですね。勿論あの的場っていう人は然るべき処分は受けましたよね?」
千恵も興味津々に聞き出す。あの騒ぎが収まったと同時に、ハーレムに関する悪い噂は収まったのである。というのも、あの的場が義人へのなりすまし投稿事件をはじめとする今までやってきた悪事を認めたことで、その事実を全校集会にて伝えられることとなったのだ。それ以外の事件の被害にあった生徒たちもまた、的場の魔の手から救われることとなったのである。そして義人たちが気になるのが的場の末路だった。
「勿論あいつは停学処分を受けることになったぞ。それだけでなく、保護者の人にもこの事実が知れてな、ネットの世界であんな悪さしたっていうことだから使っているすべての端末を没収されたっていうさ。哀れなもんだよ、ハッハッハ!」
源はヘラヘラと笑いながらそうした的場の末路を語った。
「正に自業自得だね。確かにちょっと可哀想でもあるけど、仕方もないね」
真美は哀れむようにも呆れるようにも取れる表情で答える。
「しかしまあこの事件解決は何といっても陽鞠が立役者になってくれたがためだろうな」
そう言って義人は陽鞠の方に目を向ける。続いて他の四人が陽鞠に顔を向ける。
「光栄です皆さん。私が今まで蓄えた知識がこのような形で皆さんに貢献するとは」
陽鞠は誇らしげに皆に告げる。と、ここでこんなことまで言い出したのだ。
「とはいえ、人の個人情報を漏洩させた源先輩もそうですが、簡単にそのようなことを親友相手とはいえ教えてしまう義人先輩も義人先輩ですよ。いくら源先輩に色々対応して貰うためとはいえ、自分のアカウントの入り方を安易に人に教えるだなんて。そうした自身の個人情報一つで色んなことが出来てしまう、そのことは今回の件で良く思い知りましたね?」
そう呆れたように義人に視線を向ける。
「そうだな、俺としたことが。あの時満身創痍で、源から『お前の代わりに色々処理をしておくから』って言われて、判断力を鈍らせていたっていうのもあっただろうけど。自分の大切なものだし、これからはそうしたことには十分注意するようにするよ」
やはりそのことは義人とて自覚はしていたことだろうか、ばつが悪そうに返事をする。
「幸い、的場先輩が二度とアカウントを利用できないようにするためにも、あの後にIDとパスワードを変更したからよかったですけど、今回の問題が解決されなかったらもっと取り返しのつきにくい事態にまでなっていたかもしれませんでした」
「そうね。本当に危なっかしかったわよ。あの時はあたしたちにだってそれをやらせてくれてもいい位なのに」
「いえ由香先輩、あなた相手だとしても駄目です」
「え~何よ、あたしじゃあ信用ならないってわけ?」
由香が少し膨れた表情で陽鞠に詰める。
「いえ、陽鞠さんはそういうつもりではないでしょう。只、やはり義人君のアカウントは義人君のもの。他の誰であろうと利用することは、プライバシーの保護という関係もあって避けるべきことであるのは間違いないでしょう」
千恵が突っかかる由香を制止するように手を添え、言い聞かせる。
「う~ん、そうね。とはいえ、陽鞠は凄いよ。ITの仕組みどころか、そういった倫理観とか、モラルとか、そういったこともわきまえているんだから」
「はい。言ったはずです、そういうトラブルで困っている人を助けたいと。だからこそそうしたトラブルは未然に防ぐに越したことは無いんです。そうして色んな人たちにITの正しい知識を教えるためにも、私は今まで勉強してきたというものです」
「そうね。人は生まれながらにして知ることを欲する。陽鞠ちゃんはそんな人間的な本能のままに知識を養い、今度は自分がそれを人に教えようとしている。そうして知識の連鎖は永遠に続いていくことになるんだね」
「そうですね。そうしてこの世の色んな人たちに幸せな人生を送ってほしい。そんな思いが私にはあります。だからここまで頑張れました」
「そうか・・・・・。陽鞠、大切な人のために良くここまで出来たな。君は本当に偉いよ」
そう言って義人は陽鞠の頭を撫でる。
「ファ!そんな、止めてください」
驚いてビクッとする陽鞠。その頬は赤みが出ていた。すぐさま撫でられた頭を両手で抑える。そんな様子をニマニマと眺めていたのは由香。
「もぅ義人ったら。いいこと教えてあげる」
ふとここで由香は分かり切ったようなことを言い出した。
「年頃の女の子っていうのは、男に一人前の女として認めて貰いたいものなのよ。ナデナデだなんて、まるで子ども扱いされてるみたいで気に食わないのよ」
「おおそうか、悪いな陽鞠」
それを聞いて陽鞠は謙遜し出す。
「い、いえ。私は別にそんな風に思って貰おうなんてそんな・・・・・」
「何を言ってるの!アンタだってもっと背伸びしたっていいんだから。これからも義人に気に入られるようにするためにも、もっと魅力的な女にならないと。もっと胸を張りなさい!」
そう言って由香は陽鞠の背中をポンポンと叩く。
「え、そんな。私胸は無いのに」
すると千恵が言い出す。
「大丈夫ですよ。胸が無い悩みは私だって一緒です。それに私から言わせれば、だからどうしたって話ですよ。そう言うもので彼を魅了できないなら、もっと別の何かで彼の胸をキュンとさせましょう。例えばそう、もっと弱い自分を晒け出すとか」
「それいいね!千恵だってよく義人相手にやってたんだから。陽鞠も実践するべきよ」
「いえ、その」
何やら互いにノリノリになり出す由香と千恵。対して陽鞠は更に戸惑い出す。
「おいおい二人とも、陽鞠が困っているだろ。いいじゃないか陽鞠の好きなようにやらせれば」
義人は呆れたように言い聞かせる。すると真美がこんなことを言い出した。
「ふふ、こうやって由香ちゃんや千恵ちゃんが仲良くやっている何て。やっぱりハーレムを作ろうって源君が提案して、義人君が実行しようとしたことは間違いじゃなかったね」
それを聞いて源も言う。
「そうだな。こいつも幸せ者だよ。皆でこうすることを誓い合えたんだから」
すると何かを思い出したように真美は言う。
「『誓い』と言ったら、あの時義人君を幸せにするって約束したっけ。その時にやったこと、覚えているの」
「何だ?」
「ふふ、三人で義人君と口づけしちゃった」
「「「「「え?」」」」」
その一言でその場にいた全員が一切に真美の方を見た。
「ちょ!?何でそのことを今ここでひけらかしちゃうの!?」
慌て出す由香たちにお構いなしとばかりに源が言う。
「フゥー!憎いなお前ら!何なら陽鞠も、義人に誓いのキス、やっちゃうか?」
「止めてください。陽鞠さんにそんなことさせるなんて」
「そうだぞ!セクハラだセクハラ!」
そう言って陽鞠にもしものことが無いようにと擁護する義人たち。
誓いのキス・・・・・。その言葉を受けて陽鞠は一瞬頬を染める。けどこうも思っている。へえ、そうなんだ。由香先輩たちも義人先輩にやったんだ。永遠に一緒に幸せになるって決めたんだ。そうして自分たちは仲間になるって約束したんだ。皆さん、義人先輩のことがそんなに好きなんだ。・・・・・だとしたら・・・・・私も・・・・・触れたい・・・・・この唇で・・・・・それで私も・・・・・皆さんの仲間・・・・・。
陽鞠の体が前に動き出した。視界で見える先までどんどん進んでいく。向かっていく先は義人。狙うは彼の顔面、そして口、そして唇、そこに当てるのは・・・・・。
「!?」
「おっと・・・・・」
「これは・・・・・」
「あら・・・・・」
「おいおい・・・・・」
目の前で起こったことに一同は目を疑った。目の前には義人、そして陽鞠、そして二人は今、唇を重ねている。義人の唇には陽鞠の唇の温もりが伝わっていた。義人もあまりの出来事に硬直し、その場から離れられない状態になった。暫くして陽鞠の唇が離れる。
「陽鞠?」
その間にも義人はキョトンとしていた。そんな彼に陽鞠は頬を染めて、それでいて柔らかい笑みで告げる。
「あの、これからもよろしくお願いします」
そのあまりにも突然に出来事に周りも唖然としていたが、程なくして由香が笑い出す。
「あ、ハハハ!陽鞠ったら案外大胆じゃん!」
続いて千恵も笑い出す。
「フフ、本当ですよ。真美さんからキスの話を聞いて自分もしないといけないとでも思ったんですかね」
「・・・・・はい、実はそうなんです」
陽鞠は俯いて静かに答える。
「良かった。陽鞠ちゃんもすっかり自分に自信が持てるようになれたみたい」
「そうだな。おい色男!泣かせるんじゃないぞ!」
そうした周りの囃し立てを受け、固まったままだった義人がようやく口を動かしだした。
「ああ。改めて、こちらこそよろしく」
その眼差しは優しく陽鞠の顔を見据えていたのだ。
そうして男女六人は自分たちの幸福を祝う一時を送っていたのだった。




