三章:拗れ
朝日が差し込む。蓮堀はいつもの如く静かな朝を迎え、登校してくる生徒たちで賑わっている。その中にとりわけ明るい雰囲気を醸し出していたグループが一組、今回は五人いる。少年と、いつも活発な少女と、凛と澄ました少女と、和やかな少女、そしてもう一人・・・・・こじんまりとした少女。今正に他の四人と落ち合ったばかりである。
「皆さん、おはようございます」
「おはよう陽鞠」
陽鞠に挨拶されて返事をしたのは義人だった。それは朝日のせいだろうかはたまた彼女が彼を愛おしく思っているからだろうか、いつも以上に眩しく見えていた。
「陽鞠!もしかしてあたしたちに朝一番で会いたいって思っていた?もしそうなら嬉しいよ!」
由香が義人の背後からひょっこり出てきて弾けるように声を張る。
「陽鞠さん、この前と比べても随分変わりましたね。こうして話してみると本当は凄く親しみやすい子なのですね」
千恵が静かに微笑んで陽鞠に語り掛ける。
「本当に。今の陽鞠ちゃんいい笑顔だよ。やっぱり笑っていた方が可愛いね」
真美が柔らかい微笑みで呟く。
「皆さん・・・・・ありがとうございます」
陽鞠もまたこの一時がどうにも幸せ過ぎてならなかった。この瞬間が永遠に続けばとも思っている位である。
義人は勿論、少女三人としても仲間になった陽鞠とここまで仲良くなったことはこの上ない喜びである。普通のハーレム集団であればまた一人女の子、要するに恋のライバルが増えたと他の女の子たちは焼きもちを焼いたり冷ややかな視線を送ったりするものである。けれども由香たちは陽鞠にも義人にもそういうことはしたりしない。むしろ彼女を歓迎しており、妹のように可愛がっている。それも全て義人の人柄やそれに惹かれる者の心情を互いによく理解しているが故のことであり、それは皆だって一緒だと気持ちを分かち合っている状態なのである。勿論互いに彼には自分のことを見てほしいという想いはある。けれども義人なら自分のことは決して忘れないし見捨てない、自分との関係も真摯に向き合ってくれるという信頼があるのだ。だからこそこうして安心できているのである。
「ねえ陽鞠ちゃん、今日のお昼は私たちと一緒に過ごさない?陽鞠ちゃんの大好きな肉じゃがも作ってきたよ。煮崩れしないように頑張ったんだよ」
「本当ですか?」
「流石は真美!一体どんな出来栄えなのかあたしも気になるよ」
「仕事が早いですね真美さん。私もそれは気になりますね。陽鞠さんのお口に合うといいですね」
「それじゃあ皆、いつもの広場に集合でいいかな?」
「「「はーい!」」」
三人は元気よく返事をする。
「はい」
続いて陽鞠が静かに返事をする。そうして賑やかに話し合いながら歩いて行って、いつの間にか正面の入り口に入っていた。
「では教室に向かいましょう」
「陽鞠ちゃんは一年生のクラスだから一階でいいかな?」
「はい、私はここで」
「それじゃあ陽鞠、昼休みに迎えに行くから待ってね!」
「俺たちも楽しみだよ、陽鞠との昼休憩。陽鞠も楽しみにしていろよ」
「それでは・・・・・」
そうしてゆっくりお辞儀をして先輩四人に見送られながら陽鞠は自分のクラスの教室へ向かっていく。
「俺たちも自分たちの教室に行こう」
「うん!ほら行こう、ホームルームの時間に遅れる!」
「そんなに焦るなよ由香」
「もう由香さんたら」
「由香ちゃんもいつにも増して元気だね」
こうして義人たちも自分たちの教室に向かっていこうとする。
だがその一部始終を眺め見守っていた一つの影があった。その主もまたこのハーレムの立役者になり、いつも陰から見守っていたのである。全てはあいつらが幸せになるために、俺だって色々手助けしてやったんだから、上手くいってほしい。そうした思いを胸に義人たちを陰ながら支えていたのである。陽鞠が仲間に加わるのだってそうだった。あいつは女の子に優しい奴だから、助けたいという気持ちは分かっている。そうして健闘を願って、それがようやく実を結んだ。そして今ああして楽しそうにしている。心の中でそう思って、親友の幸せやその女の幸せを心から祝福している。自分にとっても嬉しいことなんだと。
けれども何だろう。それと同時にその心の中には何かがモヤモヤと残り、笑いたくても笑えなくしてくる。嬉しい気持ちであるのは変わらないのに妙に気分が上がらない。何か掛け替えのないもの、大切にしていきたいもの、それが自分から離れていって、二度と戻ってこないような状態の気持ちに似ている。そして思わずふとこう呟いてしまう。
「・・・・・どうしてあいつばかり・・・・・」
彼はそのいつまでも圧し掛かる何かを感じたままその場を歩き出す。その行く先は義人たちの同じ階だ。けれども義人たちとは別の部屋の方向だ。それが意味していることはただ一つ、・・・・・自分は物理的にも心理的にもあいつらとうんと離れてしまっている。
キーンコーン、カーンコーン。
昼休み。待ちに待った時間が訪れた。どの教室の生徒たちも待ってましたと言わんばかりにザワザワと騒ぎ教室から出てくる。その中にはあの四人の姿も出てくる。
「楽しみだね義人、今まではいつも通りの四人でお昼の時間を楽しんでいたのに、更にもう一人加わるんだから」
「全くだな。しかも彼女は後輩だぞ。下級生と早々に仲良くなるだなんて我ながら凄いと思うよ」
「一体どんな時間になるのかしら。早く陽鞠ちゃんを迎えに行きましょ」
そうして一行は一階に降りて行き、陽鞠がいるという教室に向かう。
「えっと確かこの先でしたね」
するとその先から一つの小さな影が。陽鞠である。
「皆さん・・・・・」
「あ、陽鞠。迎えに来たぞ」
「本当に約束通りでしたね」
陽鞠としてもこのことは嬉しくてたまらなかった。本当に意地悪な人であればその約束とは裏腹にいくら待っても来ないということもあるのだ。けれども彼らは違った。ちゃんと約束通りに来てくれた。そして一緒にお昼ご飯を食べようとしてくれる。そんなことなど陽鞠には到底なかったことなのだ。そして嬉しい気持ちは由香や千恵、真美の三人とて一緒だった。
「あたしも楽しみだよ陽鞠。こうして可愛い後輩と昼食なんて、今年二年生になってこんなワクワクすることはないよ」
「私も陽鞠ちゃんのために頑張ってお弁当作ってきちゃった。陽鞠ちゃんの大好きなものも入っているからきっと気に入ってくれると思うよ」
「それではいつもの広場に行きましょう」
「はい、お願いします」
こうして五人はいつもの食事処の広場のベンチにまで足を運んだ。そして真美が持っていた包みを開く。中から出てきたのは両手で持たなければならないサイズの、恐らくプラスチックで出来ているであろう赤い箱二つで、二段重ねになっていた。
「わあおっきい弁当箱!・・・・・というよりはもう重箱じゃん!」
「頑張ってきたとか言ってたけど、ここまでやるとはな」
「義人君や私たちのために日頃から作ってくれているのは分かっていましたが、今回ここまでやってくれるとは思いもしませんでした」
その入れ物の大きさだけで最早中身のボリュームの程は容易に想像できるであろう。義人たちは大きく丸く目を見開いていた。陽鞠もまたその質量に圧巻されて目の前の赤くて四角い物体を眺めていた。
「うふふ。驚いてくれたようで何よりね。それじゃあ中を見てみる?行くよ?」
真美はそう言って上に被せた蓋を取る。続いて重ねてある上の箱をどけて下の箱の隣に置く。
「はーい、どうぞー」
「「「「おー!」」」」
四人の目の前にはとても高校生の少女が作ったとは思えない色鮮やかで煌びやかなおかずやおにぎりの数々だった。下の段に入っているおにぎりはどれもこれも色鮮やかなだけでなく、何とウサギやパンダの姿の可愛い見た目で、箱一杯に規則正しくびっしり詰められていた。上に乗っていた段の中にはおかずが入っている。卵焼き、タコの形に切ったウインナー、小さなハンバーグ、香ばしく焼かれたヤングコーンにブロッコリーにアスパラガス、そして仕切りに入れられた肉じゃが。それは具材が驚く程に切った時と形が変わっていないのである。それでいて味が程よく染みているのか、少し茶色掛かっている。
「凄いな真美!これ全部自分で作ったのか!?」
「うん。レシピはお姉ちゃんに教えて貰ったけど、作るのは自分でやったの。結構手間が掛かったよ」
「ホントマジで凄いよ真美!このおにぎりなんか可愛いし!」
「こうしてみると見た目もそうですし、栄養のバランスもしっかりとれている感じですね」
義人も由香も千恵もその内容に圧倒される。
「どう陽鞠ちゃん、気に入ってくれたかな?」
陽鞠もまた息を飲んでいた。まさか先輩が自分のためにここまで作ってくれるなんて思いもしなかったのだ。特に肉じゃがに関しては好物であると彼女には伝えてはいたが、それが肉じゃがとして満点とも言うべき状態で出てくるのは彼女としても想定外だったのだ。
「はい、見た目だけでここまでとは。こう来ると早く食べてみたいです」
「そうか。それじゃあ早速頂くとしよう」
「そうしましょう」
そうして五人は一緒に腰掛け、取り皿と箸を手に取る。
「「「「いただきまーす!」」」」
「いただきます・・・・・」
そうしてまず陽鞠が肉じゃがを取ってみる。牛肉、じゃがいも、人参、玉葱、それぞれの食材が醤油ベースで煮詰められている。その味の方はどうか。陽鞠は一切れのじゃがいもを恐る恐る口に運んで入れる。そのじゃがいもは煮崩れしていなかったのに、口に入れた途端に驚く程ホロホロと細かくなり、甘じょっぱい汁と仄かなじゃがいもの甘味が口に広がる。
「どうかな?」
「美味しいです。ここまで食べやすくて味のバランスもしっかりしているのはそう無いですよ」
陽鞠はほっこりした笑みを浮かべる。
「そうか良かったな。流石真美だ」
「気に入ってくれたようで何よりだね」
義人も真美も優しい眼差しで陽鞠を見守っていた。自分たちが企てていた試みが大成功すれば、これ程嬉しいことは他にないのである。そしてこの一時は陽鞠だけでなく義人とて同じだった。
「他にもいろいろあるよ。このハンバーグなんて結構頑張って一口サイズになるように焼いたんだよ。ほら義人君も、あーん」
そう言って箸でハンバーグを摘まんだ真美は左手を下に添えて義人の口元まで運んでくる。
「そうだね義人、アンタも食べてみなさいよ」
「それじゃあ・・・・・」
由香にも囃し立てられて義人は少し照れながらも口を開けて差し出されたハンバーグを口の中に入れて貰う。作り置きしたとは思えない位に肉汁が口一杯に広がる。
「これも美味しいよ。普通の手作りで、それもこんなに小さいサイズじゃあこんなに肉汁は出なんてしないものなのに」
「良かった義人君も喜んでくれたみたいで」
真美もそうだが、由香も千恵もその様子を優しく見守っている。陽鞠からすればその様子は普通のものではなかったのだ。本来なら好きな男が他の女の子とイチャイチャしているのを見て嫉妬したりむきになって割り込んで来たりするものなのだが、由香たちは一切そのようなことはせず、むしろ温かい目で見守っているのだ。その様子を見ていて陽鞠はふっと笑い声が零れる。
「皆さん本当に仲良しなんですね。義人先輩がモテるだけでなく、皆さんが全員で仲良くやってらっしゃるなんて」
「そうだ、これが俺たちのハーレムだ。こうすれば俺を好きになった女の子は皆が幸せになれるし、俺もこいつらを幸せにできて嬉しい限りなんだよ」
「そう。それでこそ我らが豊田義人だからね」
「皆彼のお陰で救われたと言っても過言ではありません。それは陽鞠さん、あなたとて一緒なんです。だからこそ私たちはお互い共感し合えるんですよ」
陽鞠も確信していた。義人の底無しの優しさがこれまでこの三人を救い、彼もまた三人に救われてきたのだと。そしてその輪に中に自分もまたこうして入れて貰えていると。そう考えただけで今食べているものがより一層美味しく感じられたのだった。
「共感ついでにあたしこのパンダのおにぎりいただいちゃうよ。あ、それからこの卵焼きも。それから・・・・・」
そう言って由香はひょいひょいとおにぎりやおかずを摘まみ上げる。
「あ!由香ずるいぞ、そうやって次々取って行っちゃうなんて」
「もう由香さん厚かましいことを。親しき仲にも礼儀ありですよ」
義人も千恵も呆れた様子で、しかし微笑ましそうに由香を見つめる。
「ふ、ふふふ」
陽鞠は更に笑い声を漏らす。こうしたどこか面白可笑しくも和気あいあいとした雰囲気が気に入ったのだろう。緊張気味の彼女が心から打ち解けられる場所を作れたことを義人たちも嬉しく思っていたのだった。
四人が例の広場で賑やかにしている。いや、そこに更にもう一人加わって今は五人になっている。あの子は見た感じ今年度になって新しく入学してきた子だろうな。見た感じそんなに明るくて活発そうには見えない。俗に言う陰キャってやつかな。
「また一人増えたのか・・・・・」
あいつも立派になったもんだよ。あんなこともあったとはいえ、あの時俺が後押ししただけでこんなにも沢山の女の子たちを幸せに出来ているものだから。
『その三人全員をお前の彼女にしようってのはどうだ?ハーレムを作るんだよ!』
あの時義人に放った自分の一言を源は思い返す。あの時の提案に対して義人も指摘したが、そんなものは女たらしな自分の夢物語のようなものでしかないかもしれなかった。そのことは覚悟で彼に助言したのである。それが事あるごとに本当にそれを義人は実現させるに至ったのである。経緯はとにかく自分が背中を押したことが報われた。あいつは今あいつらと一緒に幸せになれている。それは源としても嬉しい限りなのだ。そう、本当ならそのはずだったのだ・・・・・。
あの事件から由香たちが全力で義人の世話を共同で行い、そして三人全員がめでたく義人と結ばれるようになっていった。そして今関係のないものは寄せ付けないといった雰囲気になっている。義人も義人でそうした女の子たちを幸せにしようと彼女たちの相手で付きっ切りになっている。新しく入ったあの子みたいに弱かったり困っていたり寂しくしていたりといった者でもない限りは、あの集団の中に入るのはおろか外部から客観的に干渉することさえ許さないといった状態なのだ。
ふとここで思い返す。俺と義人は中学の頃に由香の件があって以来、あいつに感銘を受けて、出来の良い人間のように尊敬して、そして仲良くなった。その後も同じ高校に入り、由香以外に新たに二人の女の子に目を付けられるようになってあいつはひどく頭を痛めていた。そんな時に俺がしっかりとあいつを励ましていたっけ。そうしてあいつはずっと三人の相手をこなし続けていた。俺もそうやってあいつのことを支えられている自分が誇らしげに思えていた。
だがそれも今は過去のこと。今の義人はちゃんと心身ともに支えになっている存在がいる。最早そこに源が介入することは不可能になってしまったのだ。自分の存在意義が無くなった。その事実は今まで義人の親友として、彼を気に掛けてサポートし続けた身としてはこの上ない喪失感に浸っている、つらく悲しいことなのである。更に源は嘗て由香をしつこくナンパしたりするほどの大の女の子好きであり、よもや親友ごときにモテることでここまで差を付けられるということなど予想だにもしていなかったため、一種の嫉妬のようなものを抱いたりもしているのだ。あの頃は良かった。もう一度あの頃に戻れたら、義人はまた俺を頼りにしたりすることが出来るかもしれない。あのハーレムさえ結成されたりしなければ・・・・・。源はそんなイフの世界を薄々ながらも考え始めていた。
「なあ大谷、何眺めているんだ?」
突然後ろから声を掛けられ振り返る源。そこには何やらガラの悪そうな男子生徒がいた。
「ああ的場か」
的場は今年度に同じクラスになった源のクラスメイトである。この的場は新年度に入って早々に並々ならない雰囲気を醸し出しており、クラスでも浮いたような人間だったのである。普段は話し掛けもしないようなものだが、そんな的場がいきなり源に話しかけてきたのである。
「お前さあ、あのハーレム野郎と親友なんだろ?」
そう言って的場は広場にいる義人と女の子四人の方を覗き込むように見入る。
「それがどうしたんだ?」
「お前のことを差し置いて、あんなに沢山の女と楽しそうにしているなんて許せないんだろ?あいつがまた自分の元に戻ってきてくれたらとか思っているんだろ?なら俺がどうにかしてやるよ」
「本当か?」
突然の的場の言葉に源は目を丸くして驚く。一体どういうことをしてあいつを自分の元に引き戻せるのか、疑惑に思っているのだ。
「只、そのためにはお前の協力が必要なんだよ。それでもやることは簡単さ」
「何をすればいいんだ?」
嫌な予感を覚えつつもそのまま話を続けて貰おうと問う源。そんな源に向けて的場は信じられないことを申し出たのである。
「お前、あいつのSNSのアカウントの入り方知っているんだろ?俺にそのIDとパスワードを教えてくれよ」
「・・・・・何だって?」
源は眉を顰めた。そう、源は義人のSNSのアカウントの入り方を知っているのだ。あの事件があって、義人がスマートフォンも握る気力もなくなっていた際に、学校やら何やらに連絡を入れたいとき、源が代わりになって入れてくれていたのである。その際に義人のスマートフォンをいちいち操作しに義人の元に訪れるわけにはいかなかったこともあって源も自分の端末からログインできるよう義人に教えて貰っていたのだ。的場はどこからともなくその情報を聞いていたのである。
「ここでお前が何かしらを弄って足が付くようなことはしたくないだろう。だったら俺に任せろ。あいつがあの女どもを怒らせたりするような何かをやれば、あいつはまた女の子に嫌われる。そうして孤立すればまたお前はあいつに寄り添うことが出来る。それだけじゃないぞ。そうして傷ついた女どもをお前が慰める自作自演をやれば、あいつからハーレムを奪ってお前がその立場にとって代わることが出来るんだからな」
「何だよそれ。あいつは俺が手助けしたからああやって幸せになっているんだぞ。そんなこと出来るわけ・・・・・」
源はそう言って一瞬躊躇う。相手を親友として思っているのなら、常にその相手の幸せを第一に考えるのが筋なのである。源もまたそれを良くわきまえていた。それをわざわざ幸せを壊すようなことなど出来なかったのだ。更には折角彼が作ったハーレムの女の子を横取りするなんて、そんなせこいことをするなど源にはとても耐えがたいものである。
「じゃあお前このままずっと寂しくし続けてもいいっていうのか?あの時の青春は二度と戻って来ないかもしれないんだぞ。そんな状況のまま卒業して、永遠にさようならってなったらそれこそ取り返しがつかなくなる。お前としても悔いは残したくはないんじゃないかな?どうだ?自分の声を信じろ」
的場は不敵に笑いながら静かに源に語り掛ける。
『自分の声を信じる』、その言葉は今源の心に響いたのだ。あの時の自分だって義人に言い聞かせたんだ。そうだよ、あんなこと言った俺自身がどうしたいのかを自分に問いかけずにいてどうするんだ。こいつも言ったが、このままあいつが戻ってこなかったら俺たち一生・・・・・。
そうした思惑が脳裏を過ぎる。そうして源は俯いたまましばらく考えていたが、程無くしてゆっくりと顔を上げ、的場の方を見て言い放つ。
「・・・・・お前のメールアドレスを教えてくれ。そこに全て書き出す。URLも載せる」
源がそう返事をし、これを受けた的場が承知したと言わんばかりにニヤリとする。
親友を思っての言動、それが巡り巡って、しっかりと噛み合っていたはずの運命の歯車を今正に狂わせようとしていたのだった。
その夜、就寝の時間を迎え、暗い部屋の中でベッドに潜り込みながら義人はその日の思い出に浸っていた。
今日の昼休みは本当に賑やかだったな。あいつらもあんなに楽しそうにしていたし、陽鞠も明るく笑ってくれていたからな。何よりももう俺は四人も女の子を幸せに出来ているんだ。あんなにみんなが喧嘩することもなく、むしろキャッキャしながら共に時間を過ごしているなんて。もう俺を巡って取り合いをすることも無い。とうとう俺の理想郷を作ることが出来たんだ。
この上ない喜びに胸が一杯になる義人。が、ふとここである人物のことを思い出す。自分と彼女たちをこういう関係にするよう後押しした人物のことを。
・・・・・源、そういえばあいつ今頃どうしているんだ?あれからすっかり俺たちの前に姿を現さないし、俺が連絡しても『俺のことはいい、お前はあいつらと楽しくやっていろ』の一言だけだ。思えば俺がこういうことが出来ているのもあいつのお陰なんだ。そんな恩人が今では蚊帳の外の状態になってしまっている。俺たちに気を使ってのことだろうけど、どうしてそうまで自分は関係ないみたいに捉えているんだろう。今頃あいつ寂しがっていることだろうな。もしこれであいつもあの輪の中に入れるようなことをしたらどうなるんだろう。由香たちは受け入れてくれるだろうか。
義人はそうして親友の身を案じていた。そうした思いに浸りながら彼は深い眠りに落ちていった。
翌朝。朝日が差し込む中、その眩しさに目を覚ます義人。ベッドから出てきて、窓辺で伸びをする。
「今日もいい天気だな」
その時の義人はまるで今日が良い日になるようなそんな予感でいた。だがこの時、夜中にとんでもないことが起こっていようとは考えもしなかったのである。
ふと自分のスマートフォンに目をやる。一晩の間に充電しておいたから百パーセントになっているだろう。そう思って画面を開く。思っていた通りバッテリーのアイコンは満タン状態を示していた。充電出来たことを確認する義人。
ところがそれと別に他のアイコンに目をやる。SNSの通知だ。一体誰からの通知だろうか。由香か、千恵か、真美か、陽鞠か、あっもしかしたら源なのか?もしそうならこれはすぐに返事をしてあげないと。あいつが寂しそうにしているならその思いに答えないといけないし。そんなちょっとした期待に心が揺れ動いた。しかしそうしてアイコンをタッチして開いたその先には信じられないものが映っていたのだ。
『ねえ義人、どういうことなのこれ?』
『まさか私たちのことまでこういう風に見ていたわけではないですよね?』
『何かの間違いだよね?』
『先輩、学校まで来たら話してくれますか?』
それは由香たちの義人に対して問い詰めるようなメッセージだった。それらのメッセージの元となっているメッセージを探っていく。その先には信じられないものがあった。
『俺、蓮堀の二年男子なんだけど、今まで女どもを垂らし込んでたんだ。それから今年入ったばかりの後輩ちゃんまで強制的に女奴隷にしちゃった!チョーラッキー!』
そのメッセージには写真も載せてあったのだ。義人が由香や千恵、真美や陽鞠と一緒に昼食をとっていた昨日の光景、それが写真になって載せられている。更に信じられないのが、そのメッセージが自分のアカウントで投稿されているということだ。
俺がこのメッセージを投稿したとでも?いや、俺昨日そんなことした覚えは無いぞ。この写真だって撮ったりしたことなんて無いし、どう見ても明らかに第三者が撮ったようにしか見えないじゃないか。一体どうなっているんだ?
義人は頭が真っ白になりかけている。身に覚えのないSNSへの投稿で彼女たちとの関係にひびが入り始めている。これはしっかりと弁解しなければいけない。ここまで今の彼女たちの関係をしっかりと構築したというのに、それがまた一瞬で崩壊するなんて、そうなったら彼女たちをまた悲しませてしまうことになる。何としてでも阻止しなければならない。それにしても気掛かりなのは、あの投稿が一体誰のによるものなのかである。人のアカウントを勝手に利用するだなんてそうそうないはずだ。俺だってそのアカウントの入り方をよほどのことが無い限り教えたりなんかしない。本当に信頼している相手だけだ。それで思い当たる人物がいるのだとしたら・・・・・。
「・・・・・まさか・・・・・」
いや、あいつに限ってそんなことはないだろう。だってあいつは俺の背中を押してくれたし、いつだって俺を気に掛けてくれていたんだ。ハーレム結成後も俺たちを陰ながら支えてくれていたし。でももしもあいつがそういうことをするのなら、一体どういう理由があってのことだろうか・・・・・。よし!その辺りも皆に相談してみよう。何か分かるかもしれない。
こうして義人は頭の中でこれからやることの整理を済ませた。そしてSNSで返事をする。
『俺もこの投稿には心当たりが無いんだよ。学校まで来たら話そう』
そうして支度をし始めた。何かが起こっていることははっきりしている。それを解き明かすためにも、まずはあいつらと話し合おう。胸の奥でそうした決意が宿っていた。




