二章:志
翌日、蓮堀はいつも通りの平和な雰囲気でいた。いつものように生徒が登校し、いつものように授業があり、いつものように放課後を迎えていた。
所変わって図書室、そこではいつものように勉強や読書にいそしむ生徒たちの姿が。そして当然と言ってもいいだろう、昨日と同じ席に後輩の彼女がいる。そしていつものように昨日と同じ本を読んでいる。けれどもそうして書いてある内容を読みながらも、頭の中では違うことまで巡らせていたのだ。
それにしても驚いたな、だって私はいつも通りにここへ来てこの本を読んでいただけだったのに、他の人のように何てこと無いように無視すればいいものをあの人たちはあんなにも興味津々で聞いてきた。その時のあの人たちは真剣で、それでいて目を輝かせて向き合っていた。そんな人たちに出会ったのは私初めて。けれどもあの人たちが折角親切で話しかけてくれたのにどうして自分はそれを拒んでしまったんだろう。本当はああいう人たちとなら仲良くしたいのに、自分はどういう反応をしたらいいか分からない。あんなに褒めてくれて嬉しいけど、それと同時に顔が熱くなって頭が真っ白になって慌てふためいてしまう。こんな調子じゃあ友達だって作れやしないよ・・・・・。何だかそんな自分が嫌になってくる。そう私なんてどうせ・・・・・。
彼女は今正に自己嫌悪に浸っているのである。今まで自分の好きなことを理解して褒めたりしてくれる人などいなかったのである。だからこそそういう人がいざ現れた途端、それに対する対処法が分からずに戸惑ってしまうのである。そうした醜態を晒してしまえば相手は引いてしまったりつまらない人間だと思ってしまう。そんな不安が彼女の心をキリキリと締め上げていく。
「あ、いたいた。よお」
突然声を掛けられた。その声には覚えがある。そう昨日会ったあの先輩の声だ。自分に優しく声を掛けてくれたあの人。思わず声がした方を振り向く。そして紛れもなく声の主が彼であることが確定した。彼だけではない、一緒にいた女子三人も一緒だ。なのだけれどもいつもと違うことがある。各自手にはスマートフォンやノートパソコンを持っている。
「あなたたちは昨日の・・・・・」
「その通り、昨日は本当に凄いものを見せてくれた」
義人が彼女に話す。彼女はまた慌て出す。
「い、いえ。私はあなたたちとは・・・・・」
そうしてまたその場を離れようとしていたが、義人はそれを制止する。
「待った待った。それを見込んでこいつらが君に頼みたいことがあるんだ」
「え?」
義人の言葉を聞いて彼女はその場で固まり、不思議そうに目を見開く。すると由香、千恵、真美が持っている端末を持って近づいて口々に言い出したのだ。
「実は、あたしのスマホ最近動画を見るとすぐカクついてうごかなくなるのよ。データの使い過ぎというわけでもないのにどうしたんだろうって。アンタなら分かるかな?」
「私のノートパソコンも、新学期からSNS通知設定がおかしいもので、大事な連絡がすぐ埋もれて読みづらくなってしまうんです。どうしたら良いか調べても全然分からないんです」
「私も趣味でブログをやっているけれども、今のセキュリティで大丈夫なのか心配なの。あなたに診断してほしくて」
その顔はそれらの問題を解決して貰いたいという本当の気持ちが籠ったものだった。今三人はITのことで困っていることがある。その事実を受け、後輩の彼女の脳裏にはあの時の身内を襲った悲劇の場面が過ぎった。そしてすぐに彼女には助けたい、力になりたいという感情が湧き出てきたのである。そして・・・・・。
「・・・・・いいですよ。まずあなたから見せて貰いましょう」
そう言って由香のスマートフォンを受け取り、設定を開いて確認する。
「あ、先輩のこれ、バックグラウンドで無駄なキャッシュが溜まりすぎてメモリを圧迫してます。というか、使ってない位置情報アプリが常駐して通信しすぎです、削除しますね」
「あー成程、余計なデータが残っちゃってたんだ」
彼女が説明をしながら手際よく捜査していく中、由香も納得したのか手をポンと叩く。そうして操作し終わったものを由香に返す。
「出来ました」
「うわホントだ!検索もサクサクになった!」
自分のスマートフォンが生まれ変わったようになってキャッキャとはしゃぐ由香。
「次はあなたですね」
そう言って今度は千恵のノートパソコンを見てみる。ネットワークには繋がっているのですぐに操作できた。
「あー、アカウント連携のパーミッションがバグってます。APIの仕様変更に対応してない古いクライアントアプリを使っているのが原因です。ブラウザ版のマイページから一度連携を解除して、ここをこうすれば・・・・・はい、直りました」
そうして弄って貰った自らのパソコンを確認する千恵。
「凄いです!本当に直ってますよ」
あまりの変貌ぶりに目を丸くする。
「それからあなたのアカウント、確認しますね」
そうして最後は真美のブログのアカウントを見てみる。
「SSL化はされてますけど、パスワードが単純すぎます。総当たり攻撃をされた場合は三秒で破られますよ! すぐに二要素認証を設定してください。あと、このプラグインは脆弱性が報告されてるので今すぐ無効化を・・・・・はい、これで大丈夫ですよ」
セキュリティはガチガチに固められ、尚且つ真美にも分かりやすくすることが出来たのだろうか。操作を終えてスマートフォンを手渡す。
「ありがとう。これで安心だね」
真美はホッとしたように溜息をつく。
義人も他の三人もこの様子をしかと見守っていたので当然ではあるが、彼女の手際の良さと自分たちでも知らなかったことを淡々と述べる姿には只々驚き、感動するばかりである。義人は静かに手を叩き出して言い出す。
「いやいや素晴らしいな。そんなことなら普通は分からない人ばかりだよ。それをこうもつらつらと口にしながらこいつらの問題を次々に解決していくんだから」
義人に言われて彼女はハッとする。
「あ!ご、ごめんなさい。私ったらつい偉そうに。やっぱりあんなこと言われてもあなたたちには理解し兼ねますよね・・・・・」
またしても顔を赤くして項垂れる。けれどもそんな彼女に義人は優しく肩に手を置く。
「偉そう?まさかそんな。むしろ自分のそういうところがあるって、もっと胸を張ってもいいんだぞ。君が今まで勉強して身に着けたことは充分役に立っている。現にこいつらの悩みをその知識で解決してくれているんだから。だろ?」
義人はそう三人に問いかける。
「そうね。これならこういうこと知らないあたしたちみたいな人だって助けてあげられるもん」
「そうですよ。あなたみたいな人はこの世に無くてはならない存在であることは間違いありません」
「助けてくれてありがとう。可愛いうえに優しくていい子だね」
口々に言われ、彼女自身もまた喜びの微笑みを浮かべる。自分が学んできたことは決して無駄ではなく、今この場にいる人たちを助ける力になっている。この人たちが自分を頼りにしてくれた。その事実が彼女にとってこの上ない幸せになっているのだ。
「そうですか。それなら何よりです、先輩」
まだ赤くなりながらも俯いたままそう言い返す。
「義人だ。豊田義人、それが俺の名前」
「え?」
突然名乗られたことでふと義人の顔に目を向ける。
「あたしは三木野由香」
「俵千恵です」
「佐和山真美だよ」
そうして他の三人も口々に名乗っていく。これは自分のことをある種の友達として認めていることだろうか、彼女はそう考えだした瞬間だった。
「君の名は?」
義人に聞かれ、彼女も自らの名を口にする。
「・・・・・矢橋、・・・・・陽鞠です」
陽鞠は今の状況が今でも信じられない。学校の、それも上級生の先輩からお誘いを受けたのである。この学校に入ってから同級生からさえ声を掛けられたことも無かったのに、今こうしてちやほやされて一緒にいるのだ。更には自分が夢中になっていることに関して褒めて尊敬までしている。そのことを心底望んでいたのだ。そしてそれが今正に叶った。彼女はそんな喜びで一杯だった。
そんな気分に浸りながら陽鞠は四人と行動を共にしている。今一行は外の広場に向かっていた。
「本読んでいるのもいいけど、お日様に照らされて心地いい風に吹かれたりもしないと」
「そうですね。陽鞠さんのことに関して色々聞きたいことがありますし、少し雰囲気の良い場所の方がいいでしょう」
「飲み物いるかな?あそこの自販機で買いましょ」
「大丈夫だ、何かあっても俺たちがいるから」
「ありがとうございます・・・・・」
陽鞠は少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに返事をする。先輩四人がこうも自分のために世話を焼いているのが喜ばしい。どうしてこの人たちはこんなにも優しいのだろう。きっと誰だろうと放っておけないのかな?そんな思惑が彼女の中で交錯する。
そうして五人は広場まで来る。義人はコーヒー、由香はオレンジジュース、千恵は緑茶、真美は紅茶、陽鞠はココアのボトルを持っている。広場のベンチに全員が腰掛け、一息ついてボトルを空けて一口。
「ふう、とりあえず一息ついたか?」
「はい、こういう休憩も悪くないですね」
「ふふ、陽鞠ちゃん身も心もスッキリできたかな」
「そのようね。陽鞠もあんまり人と接する機会がないみたいだったから大丈夫かと思ったけど、何ともないみたい」
「ええ。少しずつですが、私たちの空気に馴染んできているみたいですね」
義人たちも安心した様子を見せる。それまで自分たちを前に緊張していたようだが、こうした自分たちのアプローチの甲斐あって徐々に落ち着いてきているのだ。
「ありがとうございます皆さん。私、こういうことされるのは初めてで、ましてや先輩にあたる人たちにこんなにも親切にされるなんて、願ってもいませんでした。正直に言いますと、私いつも寂しかったんです。自分がああしたものを熱心に読んでいる姿を見ている人はあまり気に留めるようなことは一切してこなかったんです。そうして知識を得るのと引き換えに人と仲良く出来なくなっている自分の状況を諦めかけていたところだったんです。皆他人事でしかないって思っている。そう割り切って専念していたんです。寂しさを紛らわせるためにも」
陽鞠が静かに淡々と話す。義人たちはそれを聞いて返していく。
「そうだったんだな。とはいえ陽鞠だって何か理由があってああいう本を読んでいるわけだよな?」
「そうね。じゃなきゃあそこまで真剣に打ち込むことなんか無いんだもん」
「やっぱりその知識で誰かの役に立ちたいということだったんでしょうか」
「そう聞くと何だかかっこいいね。こんなに小さくて可愛くて、そんなあなたにそういう志があるって思うと応援したくなっちゃうもん」
口々に言われて陽鞠はまた頬を染めて俯く。けれどもそれは恥ずかしさによるものではなく純粋な喜びによるものだったのだ。こうも自分のことを褒める人がいるだけで幸せを噛み締める。胸の奥から弾むような何かが込み上げてくる。そしてそれは一種の静かな興奮のようなものになって血流が活発になっていく。そんな感覚を覚えていたのだ。
「そうですね。実は私がITの世界に興味を持ったのは、ある出来事があって、それで大切な人が大変な目にあったことに端を発しているんです」
そう言い出し陽鞠は過去の出来事を語りだす。
それは今から十年前。陽鞠の父の英二は自身の母の富からのとある一本の電話を受けた。その連絡を受けて英二は血の気が引いたのだ。陽鞠もまた悪い予感を覚え、一緒に富の家に向かうことになったのである。そうして富の家まで辿り着いた二人。英二は慌てたように玄関のインターホンを鳴らす。程なくして富が出てきた。その姿は青菜に塩を掛けたようで、目には涙を浮かべていた。
「英二・・・・・ヒマちゃん・・・・・」
「お祖母ちゃん」
「母さん、一体どうしたんだ?電話で聞いたんだけど、お金を騙し取られたんだって?」
その言葉を受け、富はその場で崩れるように座り込み、ボロボロと涙を零し出したのだ。
「うう。ごめんなさい・・・・・あなたたちのために貯めていた五百万円、どうやら口座から盗られちゃったみたいなの」
「!?」
陽鞠はそれを聞いて大きく目を見開いたのだ。英二も正気ではいられなかった。
「口座から!?一体どうしたらそんなことをされるわけだ」
「それが、警察の人にも事情を話したんだけど・・・・・」
そう言い出して富はいきさつを説明した。彼女はここ最近になってインターネットを利用するようになった。そんな中でネットで買い物をすればわざわざ出かけずとも物が買え、家まで届けてくれて便利ということでいつも利用していたのである。そして料金は口座の情報さえ入力し認証されれば、銀行の口座から直接引き落とされるようになっている。そんなある日、富は一通のメールを受け取った。それはいつも利用している通販サイトが登録している口座が規制されたのでウェブサイトで自身で解除を行ってほしいという旨が書かれ、URLを添付して送ったものである。富は利用出来なくなったら大変とでも反射的に考えたりしたのだろう、何の疑いも無しにURLを開き、その先のサイトで口座番号や暗証番号を入力して手続きをしてしまったのである。彼女はその数日後に口座からお金が減っている事実を知り、警察にこのことを話したことで始めて自分がフィッシング詐欺にあってお金を盗られた事実を知ることになったのである。その後警察に手を打って貰おうとしたものの、海外のサーバーを経由しているものだったために結局お金を取り戻すことが出来なかったのである。今回盗み出されてしまったお金は、富が英二や陽鞠の家族のために貯めていたものだっただけに、富は悲しみと罪悪感で一杯だったのだ。
それから数日間、富はずっと塞ぎ込んだままだった。英二たちが時折電話を掛けるなり挨拶しに行くなりして元気づけ続けたという。
「・・・・・そんなことがあったんだな」
自分の事の如く強く唇を噛み締めて聞いていた義人たちからは込み上げてくるものがあった。
「お祖母さん可哀想。折角陽鞠ちゃんの家族のために貯めたお金が盗られちゃうなんて」
「一体どこの誰がそんなひどいことしたっていうわけ!?何も知らないことをいいことにいたいけなお年寄りを騙すなんて!」
「全くです。恐らく相手がそういうことに疎い人間だと分かっていたからこそそういう手口が使えたんでしょうね」
義人たちもその事実を陽鞠から聞いて憤慨する。彼らとしても弱い立場の人間に対してそうした弄ぶような真似をする輩が許せなかったのだ。陽鞠も思い返す度に考える。もしあの時自分がそういうことを良く知っており、事前に悲劇を回避させていれば。陽鞠は拳をぎゅっと握りしめ、前髪の隙間から、今までにない強い光を宿した瞳を覗かせた。
「世の中、ネットが普及して便利になった反面、その仕組みが分からないせいで泣き寝入りしている人がたくさんいます。だから・・・・・私はITの仕組みを全部知りたいんです。悪意ある脅威から、お祖母ちゃんみたいな困っている人たちを、私の技術で守れるようになりたくて、今までああいうことをしてノウハウを自分のものにしてきたんです」
義人たちは只々聞き入っていた。自分とその身内の身に起こった、卑劣でどす黒い謀略によって引き起こされた悲劇、陽鞠はそうした経験を経て志したのである。自分がこうした悲劇が誰にも起こらないようにしたいと。あわよくば自分自身がそうしたものの仕組みを知りに知り尽くして問題解決の糸口を掴めるようになりたいと。その思いは義人たちにも良く伝わっていた。それは並大抵の覚悟でない限りは抱くことはないだろう。由香のようなタイプであればまず秒で投げ出してしまう。それを陽鞠は凄まじい集中力と理解力であの本を読み、知識を我がものにしているのだ。それは彼女自身の素質によるものだろうかはたまた人一倍の努力によるものだろうか、はっきり言えることは彼女がれっきとしたIT のプロフェッショナルになるべく着々と知識を身に着けて言っているということ。そしてその根幹にあるのが自分のためでなく人のために働きたいという高尚な志があるということ。一見すると陰キャと呼ばれてもおかしくない、地味で人付き合いの苦手そうな彼女であるが、その心の奥底は今正に激しく燃えているのだ。
「な・・・・・何なのこの子、すっごくいい子じゃん!」
「本当ですね。やはり人は知ることを欲すると言いますが、ここまで何かのために意欲的になるのはそうそうないと思いますよ」
「うふふ。陽鞠ちゃん、きっと将来は大物になると思うよ。そうして人を助けていくならそういうことは皆この子に任せられるって位に頼もしいね」
「み、皆さん近いです・・・・・」
あまりの熱意に由香、千恵、真美は陽鞠に顔面を突き付ける勢いで近寄ってくる。陽鞠はまた頬を赤らめる。けれどもやはりその気持ちは嬉しいの一言に尽きるものであることには変わりはない。そうして全てを纏めるように義人が語り掛ける。
「陽鞠、君のその情熱は本物だ。俺たちは信じている。陽鞠なら必ず立派なITの技術者になって、誰もが安全で快適なネットを利用できる世の中を作れるって」
「義人先輩・・・・・」
言い聞かせて着る義人の顔は馬鹿にするでも冷ややかでもない、温かく且つ真剣な眼差しで陽鞠の方を眺めている表情だった。
「この世には価値のない人間なんて存在しないんだ。誰であろうと何か意味があって役に立つものを持っている。君だって同じだ。今まで積み重ねてきた知識は膨大で緻密なもの、それを得るのは常人では決してできないものさ。決して価値のないものではない。陽鞠、俺は・・・・・俺たちはそんな陽鞠のことを尊い存在だと思っている。そんな君がもし一人でいて、ずっと寂しい思いをしているというのなら、俺たちがその心の拠り所になろう。誰かにこのことを馬鹿にするような奴がいても大丈夫。俺たちがいるから、陽鞠のその高尚な志を笑うなって怒ってやるから。だからこれからも安心してそういうことを学んでいてもいいんだぞ」
言い終わって手を差し伸べる義人。そうして優しく問い掛ける。
「俺たちと仲良くなってくれないか?」
それは自分たちと友達になってくれないかというような誘いだった。陽鞠はこの学校に来てから一度も、同じクラスの生徒からさえそういうお誘いを受けたことが無いのだ。陽鞠は戸惑いつつも言い返す。
「本当にいいのですか?こんな私が皆さんのお役に立てる何かがあるのですか?」
「勿論だ。ここにいる三人だってそうだから。俺のことが大好き、だからこそ俺のことを全力で助けようとしてくれた。その時にこいつらはそれぞれの得意なことを駆使して力を合わせて俺を支えるって誓い合った、そういう仲なんだよ」
義人は由香たち三人の方に目を向ける。三人は少し照れ臭そうに答える。
「実はそうなの。あたしたちは一度、お互いの気持ちをぶつけ合ってバラバラになりかけたことがあって、そのせいで義人を追いつめちゃったの。でもそんな義人を助けようと協力し合って皆で支え合うことで、こんなに温かい居場所を作ることができたの。今度は、アンタもその輪に入らない?」
「さっきもそうでしたけど、陽鞠さんのような高度な知識を持った人がいれば日常の生活で大いに活躍してくれるはずです。ネットワークを駆使すれば皆でやる楽しいことも大切なことも全部守っていくことが出来ます。あなたの活躍の場はいくらでもあることでしょう」
「陽鞠ちゃん。今度そんな頑張り屋さんの陽鞠ちゃんのために、私がお昼ご飯でも作って持ってきてあげるよ。陽鞠ちゃんはどんな食べ物が好きなのかな?そこも含めて私たちもっと陽鞠ちゃんのこと知りたいな」
先輩四人の言葉に、陽鞠の目からは一筋の涙が流れる。四人の温かさ、特に義人の尊い存在を放っておけない強い思いやりの心に彼女は心打たれたのである。ここまで自分のことを思う人たちは今までにいただろうか。そんな喜びの気持ちで胸が一杯になったのだ。
「私なんかが・・・・」
そうして涙を流しながら次第に口角が上がり、頬に紅が差し込んだ顔で答えた。
「・・・・・はい。私のような者で良ければ・・・・喜んで!」
その返事を受けた四人は互いに顔を合わせ合った。由香に至っては義人と顔を合わせながら握り拳を立てて小さく振り下ろして見せ合った。
「やったね義人。陽鞠、これでようやく心を開いてくれたよ」
「そうだな。俺はまた一人女の子を幸せにすることが出来たよ。自分でもこれ程嬉しいことは無いな」
「それでこそ誰にでも優しいヒーローです。それに私たちも約束したのですもの、あなたを支えていくって。義人君が喜ぶことであれば、私たちもいくらでも力になりましょう」
「良かったね義人君。これで彼女がまた増えたよ。この子とは一体どんな日常を過ごしていくのか楽しみ」
『彼女』、その言葉を聞いて陽鞠は照れ臭そうにする。
「彼女、ですか?ふえ・・・・・そんなこと言われるとやっぱり恥ずかしいです。とはいえもし義人先輩の彼女にふさわしい女になれるというのであれば、私、努力します。なので皆さん、どうかよろしくお願いします!」
こうして義人たちが結成したハーレムに新たに陽鞠が加入することとなった。それはナンパのようなものではなく、人を助けたいという真剣な思いから来る行動故の結果である。このハーレムでいらない存在なんて無い。皆が皆それぞれ得意分野があり、それらを生かし合ってこの集団が成り立っているのだ。かつて一人の男が三人の女の子の全ての気持ちに応えようとしてその集団を作るよう提案した。それは一度拒絶されてしまったが、提案した本人が自責して自壊しそうになったことを機に、彼を取り合って険悪になっていた三人が一致団結、その中で互いの好きな人に対する気持ちに共感し合ういい機会となり、今の関係に至ったのである。そしてその集団が図らずもまた新たに人を助け、仲間にさえするものに昇華されたのだ。これは最早奇跡に奇跡が積み重なった結果としか言いようが無いだろう。陽鞠はもう既にそうした仲間に巡り合う運命にあったのだ。そうして陽鞠は義人の差し伸べた手をゆっくり、そしてしっかりと取ったのである。




