終章:安息
賑やかな屋上。一人の少年と三人の少女が笑い合いながら楽しそうに一つのチョコレートを食べ合っている。空は晴れ渡り澄んでいる。それは彼ら自身の心の表れのようにも見えた。賑やかだなあ、もうあいつらにはかつてのような険悪で気まずい様子もない。本当の幸せの形を見つけられたんだ。そう思って屋上の出入り口のドアの窓越しにそっとその様子を眺めている一つの影・・・・・源の姿があった。
「義人、由香、俵、佐和山さん、良かったな。大変なことはあったけど、ようやく丸く収まったようだ。これも俺があいつの背中を一押ししたからかもしれない」
本当であれば親友の恋が成就し、月下氷人になった自分も喜ぶべきところではあった。確かに今の彼は親友が大切にしようとしている女の子に囲まれて幸せになっているところを見て、自分もまた幸せを言葉にしている。
だがどうだろうか、それとは別に何かを感じる。いつもの源であればテンションが上がって跳び上がりたくなる気分になるはずなのに、なぜか今そうなる気配がないのだ。胸から込み上げる強い喜びの感情はなく、静かで、慎ましやかなものしか出てこないのだ。体を動かそうとすれば思うように動かない。体の筋肉には痛みがないのに動きが鈍いのだ。まるで頭でそうしたいと思っているのに心がそうはさせまいと邪魔してきているような状態だ。
ふと源は思い返す。義人と由香とは中学の頃からのよしみだった。そしてあいつらと一緒に同じ高校に入学した。あいつらといて楽しかったから。受験勉強は大変だったけど、あいつが手助けしてくれたし、何よりあいつらと友達としてずっといたかった。そんな思いをして俺たちはこの蓮堀に進学したんだ。
俺はかつて女たらしで、だれかれ構わず女の子をナンパしていた。由香もその一人だ。でも今ではそんな軽い気持ちで見ているわけじゃない。今ではあいつは俺の大切な仲間なんだ。一年間同じクラスだったし、義人のことについても色々話したなあ。由香もまた俺を頼りにしてくれていた。
けどどうだろう。今は二人は入学してから知り合った女の子二人と楽しそうにしている。あの子たち三人で義人たちの世話に付きっ切りになって俺の相手どころではなくなったことは分かっている。だけれどもこのまま二人がどんどん自分から離れていくものだとしたら?俺はどうやって二人を繋ぎ留めればいいんだ。あの輪の中に今更割り込むことも出来ない。けど置いてけぼりにされたくない。一体どうしたら・・・・・。
「いや待て待て。俺何を考えているんだよ。これでよかったじゃないか。義人は頑張ったんだ、俺とは大違いで。あいつがその思いと努力に報われたのならこれはいい結果じゃないか。俺はただそれを見守るだけ。そう、見守るだけ・・・・・」
源はそう自分自身に言い聞かせるように呟く。そして静かにその場から去っていく。トットットッと階段を下りていくその足音もまた、どことなく寂しく静かに響いていたのである。




