第6話 豊穣の女神と真実の愛
これにて完結です。
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王室主催の隣国の第三王子を招いたパーティが始まった。
色めき立つ独身女性など気にもせず、私はいつも通り過ごしていた。
とは言え、奥様方は口々に私にこんなことを言ってくる。
「隣国の王子はロザリー様を見初めるかもしれませんわよ?」
「まぁ……。そんなことってあり得るのかしら……わたくしには分かりませんわ」
「うふふ、だって隣国と言えば……ねぇ?」
隣国の風習等を調べる暇がなかった私だけど、彼女たちの言葉には何か含みがある。
まぁ、確かに第三王子でも、ふくよかな身体を了承してくれるのなら、ある程度の金額は稼いでいるのだし多少の我儘は聞けるかな?
ダンスパーティも始まり、私はダンスは苦手なので飲み物を飲みつつ過ごしていると、「レディ?」と声をかけられた。
振り向くと、褐色の肌に黒髪、エメラルドの瞳の美しい隣国の第三王子が立っていて――。
「ああ……そのふくよかな身体。正に〝豊穣の女神!〟」
「え、あ、はぁ……」
「我が国でそれは、何よりの誉れ。どうか私と婚姻を!」
「え、えええ!?」
「豊穣の女神との婚姻は我が国では止められない〝真実の愛〟とされています。どうか、私と結婚をぜひ!」
その言葉に驚き一瞬声を失った。
何より、太ましい身体が隣国では〝豊穣の女神〟とされていることも、〝真実の愛〟とされていることも知らなかった。
そこで合点がいく。
この前の……小さなパーティで公爵夫人が言っていた言葉……。
『来月開催される王室主催のパーティには来られて?』
『そう……もしかしたら、貴女はその時〝女神〟になるかもしれなくてよ?』
『ええ、今は内緒。……そう呼びたくなる者が現れても不思議ではなくてよ』
公爵夫人は知っていたんだわ。
隣国について調べるのを怠った私のミスだけれど、でも……相手は第三王子よ!?
周囲の女性が悲鳴を上げる中、こんな場所で求婚されてはどうしようもなく。
陛下がお越しになり――。
「ぜひ、ロザリー・カタリシアとの婚姻を進めたいのだが」
「我が娘と……第三王子様とのですか!?」
「ご安心ください。私は第三王子……婿養子に来ても問題はありません。いいえ、婿に行ってでも、豊穣の女神との婚姻をしたいのです!」
余程、豊穣の女神との結婚がしたいのね。
でも、その声にあったのは、私を値踏みする軽さではなかった。
ただ、奇跡を前にしたような真っ直ぐな熱だけ。
それならば……お父様に話していた通り、ふくよかな私を愛してくれると言うのなら――。
「謹んで……お受けいたします」
この声なら、信じてみたい。
こうして、私は隣国の第三王子との結婚が決まり、パーティは大歓声と悲鳴が木霊することになった。
結婚式は急ぎの三か月後。
その間に〝ファッション・ロザリー〟は全ての注文をストップして、私のウエディングドレスを作る作業に掛かったわ。
第三王子――ダルシムの服は、故郷である隣国の民族衣装だと聞いていたので問題はない。
「ついに、ロザリーも結婚相手が……。いや、その相手がまさか第三王子とは思わなかったが……」
「あら、わたくしだってそうなるとは思わなかったわ。でも、ダルシムは本当の、本気の愛を見せてくれる……。そう信じているわ」
「ああ、ダルシム様なら、ロザリーを大事にしてくれる。そう信じているよ」
お父様は少し涙目で、それでも嬉しそうに微笑んでいた。
それから我が国にダルシムが入り、我が家にて過ごすようになると、ダルシムは惜しみない愛情を注いでくれるようになった。
彼は私のドレス案に目を通しては、楽しそうに感想をくれた。
「君が大切にしてきたものなら、私も大切にしたい」
そう笑うその顔に、私は少しだけ言葉を失った。
けれど、その声音が、少しだけくすぐったかった。
――そして、運命に導かれるように私たちは結婚した。
それからの日々?
それはね――?
「ああ、我が豊穣の女神よ……。君はなんて美しいんだ……」
毎日愛を囁かれて、最初はくすぐったいだけだった。
けれど、彼の声には嘘も打算もなかった。
気づけば私は、その前でだけは肩の力を抜いて笑えるようになっていて。
この人の前では、演じなくてもいいのかもしれない。
最初は戸惑いだったはずなのに、いつの間にかその真っ直ぐさが心地よくなっていた。
「可愛い人。あまり褒め称えていると、天に戻ってしまうかもしれないわ?」
「ああ、それだけは許しておくれ。君がどうすればこの地上に残れるか考えるから」
「ふふふ」
こんな可愛い夫を持てたのは、ある意味――幸せかもね。
ロザリー? あなた、きっと人生で今、最も輝いてるわ。
だって――あなたの悩んだこの身体が、あなたを幸せにしたんですもの。
――完――
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