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私はこの身体で『女優』を演じるの ~悪役にされたって、私は私を演じたい~  作者: 寿明結未(ことぶき・あゆみ)


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第2話 お父様への交渉と、自分の店を持つ為の交渉と

「ロザリー……もう身体はいいのかい?」

「ええ、この通り万事良好ですわ。一部記憶がないのを除けばですけれど」

「そうか……。我が家にはお前しかいないのに自殺未遂なんて……」


 お父様は私の自殺未遂をとても悔やんでいた。

 それもそうでしょうね。

 婚約破棄された翌日には自殺未遂をしたのだから。


「お前の元婚約者、ロバートの家にはかなり融資をしていた。それを全額返してもらう事と、婚約破棄が原因で自殺未遂に至った慰謝料は払ってもらう」

「ええ、ロバートの家は我が家から貰う者だけ貰ってわたくしを捨てたんですもの。許すことはないにせよ、やるべきことはしっかりやるべきですわ」


 甘い考えで許しはしない。

 ロバートの家のことだから『お優しいロザリーが止めてくれる』なんて思っているかもしれない。

 そうだとしたらお門違いよ。

 最早ロザリーはいないの。

 居るのは女優になった私……。

 徹底的に絞り上げる方向でお父様には動いてもらうわ……。


「それよりお父様。私、ドレスを作りたいの。今までの地味なものよりも、もっと華やかな物を。また、そのドレスを作るにあたり、デザイン料を頂きたいので、わたくしに商売をさせて頂けませんか?」

「商売? ロザリーがドレス案なんて……」


 ええ、普通なら渋るわよね?

 でも、その考えは一人娘に弱いお父様だからこそ、やりやすいのよ。


「あら、わたくしが折角やる気になっているというのに……自殺未遂から一転し、生きるために何か手につけようと思っておりますのに、それを拒否なさるの?」

「ううむ……。あまりお金をかけずにやるんだよ?」

「ええ、取るのはデザイン料金ですわ。そのお話をお父様から是非ともしてくださいませ。ではいつものマダム・ファリンを呼んでくださる? ああ、既存の服で構わないから華やかなドレスを持ってきてくれるようにともね」


 扇をパンッと勢いよく閉じて告げると、お父様は慌てふためいて私のドレスを作っていたマダム・ファリンを呼ぶことになった。


 ――私は悪評を口にした人をそのままにはしない。

 トドメは笑顔で刺していくわ。無論諭す人もいるだろうけど。

 そう思いつつ自分の紅茶を飲みつつ待つこと一時間――。


「マダム・ファリン様がお越しになりました」

「……意外と早かったのね」


 いつもなら多少時間が掛かって来るはずなのに、暇だったのかしら。

 そんな事を思いつつマダム・ファリンの待つ場所へと向かうと、現れた私を見てメガネがずり落ちるほど驚いているわ。


「一部記憶がなくてごめんなさいね? お久しぶりね、マダム」

「あ、お、お久しぶりです……。随分と……イメージが変わりました……ね」

「ええ、これでも頭がと――ってもスッキリしているの。それで、お父様からわたくしの商売の話も聞いたかしら?」

「え、ええ……。ですがロザリーお嬢様はデザインなど作れるのでしょうか?」

「そうね、まずは一週間。一週間待ってもらいたいわ。それで、わたくしのサイズに合う、華やかなドレスは持ってきてくださったかしら?」

「以前お勧めして嫌だと言われたものばかりですが……」

「構わないわ。見せてちょうだい」


 椅子に腰掛け、太い足を組んで様子を見ると、どれもこれもとても華やかなドレスばかり!!

 なに、ロザリーってこんな華やかな衣装を嫌がっていたの!?

 信じられないわ!!


「素晴らしいドレスじゃないの!」

「お、お褒めにあずかり……光栄です。ですが、本当に良かったのですか? 以前はとても嫌がられていたドレスばかりですが」

「構わないわ。全て頂くわ」

「あ、ありがとうございます!」

「それと、デザイン画を書くノートとかはあるかしら?」

「は、はい」


 そこに、私が前世で得た知識……〝三つの体型〟というのを書いた。

 マダムは不思議そうにしていたけれど――。


「上半身が大きい、太ましいタイプを〝Vタイプ〟としましょう。そして下に行くにつれて大きい、つまりお腹から下が大きい人を〝Aタイプ〟ね。わたくしのように全身が大きい人は〝Oタイプ〟として、ドレスアップを考えているのだけれど」

「VタイプとAタイプとOタイプ……どれもご令嬢が悩む体型ですね……。その三つの体型の話は確かに面白いですわ」

「ここから先は、わたくしの脳内にしかない情報。それを貴方と共に商売にしていきたいの。お話はお父様からの連絡で聞いているでしょう?」

「か、簡単には……」


 そう答えるマダムに、私は扇を広げてくすりと笑う。

 マダムの店が傾いていることをロザリーの知識で知っているからだ。


「もしや……お、お嬢様が我がドレス店を……お買い上げになるということですか?」

「まぁ、話が早い。それならとっても、とっても手っ取り早いわ」

「ですがそれでは店の名前が消えてしまいます!」

「名前は残して差し上げるわ。けれど、やり方は変える。ただそれだけよ」


 確かに必死に店を立ち上げてきた彼女が否定するのもわかる。

 けれど、最早経営状態があまり良くないのも知っているのよ。

 このまま埋もれさせるには、とても惜しい。


「無論、貴方は店の主戦力、無論働いている方もそのままで結構よ。神殿契約はしてもらいますけどね? 他所に知識が流れたら大変だもの」

「わ、わかりました」

「ふふ、わたくしの先程の三つの体型の分け方で、どんなドレスを作るか……楽しみじゃなくって?」


 ドレスを作っているのですもの。

 知りたくてウズウズするわよね?

 マダムは目を輝かせ――。

「そういうことでしたら……とても気になります!」と口にした。


「今までのドレスでは拾えなかった体型のための、新しいドレスよ。挑む価値はあると思わない?」

「新しいドレス……ですか」

「そう、ドレスの最先端を行けると思うわ」

「もし本当にそれが叶うなら……」

「わたくしの予想ではね。さぁ! コルセットで体を締め付けるのは終わり。これからはもっと女性の体に優しい、それこそ、太ましいわたくしのような女性のためのドレスが必要になるわ。そのための宣伝塔にだってなってあげる。この体も何もかもが武器よ。わたくしは社交界に復帰する」

「お嬢様がそこまで……おっしゃるのでしたら……わたくしも覚悟を決めますっ!」


 今まで社交界を避けて通ってきたロザリーがそう宣言すると、マダムは強く目を閉じてから、はっきりと覚悟を決めると言ったわ。


「これからは商売と言う名の戦争と、この体はそのための宣伝塔よ。出し惜しみはしないわ」

「ロザリー……お嬢様」

「誹謗中傷が、新たな羨望になるのを、心待ちにしていなさい」

「は、はい!」


 舞台は整った。

 デザイン用のノートも数冊受け取り、マダムのドレスを全て購入して一旦お帰り願ったわ。

 お父様にはマダム・ファリンの店を購入すると言ったら驚かれたけれど。


「お前が好きにやりたいと言うのなら……好きにしなさい。だが社交界に復帰する必要まであるのか?」

「ええ、きっと最初は誹謗中傷の嵐でしょうけど……それを羨望の眼差しに変えてみせますわ。その為にも、お父様のお力が必要ですわ」

「お前がまた傷つくのが怖い」

「お父様、わたくし、もう泣き寝入りは嫌ですの。わたくしを馬鹿にしてきた人間全員。見返してやらねば気がすみませんわ」


 そう強く、目を細めて扇で口元を隠し告げると、お父様は驚いた様子だったけれど――。


「そこまで言うのなら……私に出来ることは何でもしよう。我が家の姫のためだ」

「ありがとうございますわ」


 ――こうして、私は頭にあるVタイプとAタイプとOタイプのドレス案を描いていく。

 無論使うのは体を締め付けるものではなく、最近巷に出始めた『洋服用のゴム』を使用したもの。

 画期的なものなのに、今なお締め付けると言う悪の根源が根付いていて『洋服用ゴム』が日の目を見ていないのも気になっていた。


 ――苦しいのよ。隠して、締め付けて、息を潜めて生きるのは。


「それらも纏めて、わたくしが表舞台に引っ張り出すわ……」


 太ましいからと体を隠す必要なんて無いわ。

 見せるの。いいえ、魅せるの。

 さぁ、これらが戦いになるわ――。

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