第1話 太ましい体? いいえ、これは〝武器〟よ
短編だったものを少し長くしたものです。
6話完結です。
楽しんで頂けたら幸いですm(_ _)m
「私はロザリー、この体で『女優を』演じるの」
悪役らしい化粧をし、鏡に向かってにやりと微笑む……。
この体は醜いと笑われ、蔑まれ、誰にも選ばれなかった“ロザリー”のもの。
――けれど、今は違う。
同じく太ましい体で生きて、そして死んだ“私”がいる。
だから、決めた。
可哀想な役は、もう終わり。
これからは――悪役として、この世界の舞台に立つ。
まずは、この国の〝美しさの基準〟から壊してあげる。
演じるのではない。
演じきるのだ。
誰よりも美しく、誰よりも醜く。
――この世界を、演じてみせる。
そんな私の物語だ――。
■■■■
私がこのロザリーの体に入った理由は定かではないわ。
ただ、この体の持ち主、ロザリー・カタリシアは、自分の見た目を苦に自殺未遂をした。
不幸中の幸いか否か。
前の人生で死亡した私がこの体に入り込んでしまった。
理由はわからない。
西洋文明なんて私の知識には殆どないし、記憶喪失として片付けられた。
お父様はお母様の忘れ形見である私をとても大事にしてくれていたわ。
けれど、婚約者は違った。
いいえ、この場合、元婚約者ね。
家の財産はたっぷりある。
問題は私だけだったの。
彼は痩せた女性が好きだった。
ゆえにロザリーに何度も「痩せろ」と言っていたわ。
さらに言えば、それを悪く言う者たちが絶えずいたのだ。
幼い頃から好きで太っていたわけではないロザリーは、散々痩せるための努力をしたわ。
――けれど、痩せられなかった。
どれだけ運動しようと、どれだけ食事制限をしようと、痩せることはなかった。
彼女の記憶を見る限り、どれも栄養士の元で行ったもので、おかしなことはなかった。
甘いものを食べ散らかすわけでもなく、好きなデザートだって一ヶ月に一度、小さなケーキを食べるだけ。
そんな涙ぐましい努力をしても、誹謗中傷は止まらなかった。
痩せないことで、親の決めた婚約者は婚約破棄してきた。
それがトドメだったのだ。
(全てが嫌になっての自殺未遂……そりゃそうもなるわね)
姿鏡に映る自分の太ましい体。
でも、〝たかがそれがどうしたの〟という考えのほうが私は強い。
この体……使えるわ。
前世の私も、太ましい体をしていた。
そのことを悔やんだことも、苦しんだこともあった。
けれど、そんなもの、化粧と衣装。
そして心に『女優』を飼うことでなんとでもなった。
――本来の私を愛して欲しい?
そんな、あまっちょろい感覚で生きていけるほど、この体は甘くないのよ。
「テリーザ」
「はい、お嬢様」
「ドレスを見たいわ。見せてくれる?」
「は、はい」
そう言って連れて行かれたドレスルームには、地味な服だらけ。
こんなのどこかに寄付してしまえばいい。
「新しいドレスを作るわ」
「あ、新しいドレス……ですか?」
「ええ、デザインも何もかも自分でね」
私はあらゆる〝太ましい〟女性の雑誌を買って吸収していた。
それらをまとめれば、なんとかなりそうな気がする。
とはいっても、太ましい女性の服装なんて、デザインが多いわけではないけど。
でも、妊娠中や、産後体が戻らない女性、老いて体がふくよかになった女性に向けたファッションの最先端は行けるはずよ。
ふくよかだから。
太ましいから。
そんな理由で恋愛や結婚を断る男なんて、こっちからノーサンキュー。
このボディとこの顔があれば、ドレスと化粧一つで、そこらの令嬢なんてただの石ころ。
――私は輝く宝石よ。
さぁ、心に『思い描く女優』を作るの。
そして、私はその女優を演じるのよ。
演じる女性は、よくあるヒロインのようなか弱い女性は似合わない。
強烈な……悪役でなければ。
でも、悪役だけではいずれ終わりが来る。
悪役でありながら、助言をする……大物女優がいいわね。
そう、貫禄のある女優になるの。
人を睨むだけで場を黙らせる女優。
笑顔のまま毒を刺せる大物とかね。
スゥ……と目を開けてスイッチを入れる。
女優スイッチが入った途端、私は顎をほんの少しだけ上げた。
相手を見下すのではない。
〝相手のいる場所そのものを支配する〟目だ。
唇の端だけをゆるく持ち上げ、歯は見せずに笑う。
それだけで、鏡の中の女はもう別人のように微笑んでいた。
そこに、最早気弱だったロザリーの姿はなかった――。
その間に少しでも綺麗で華やかな衣装を探したけれど、中でも辛うじてマトモな色合いのドレスに身を包み、化粧は自分でやった。
化粧道具は前世とあまり変わりがなくてよかったわ。
頬を削るような化粧はしない。
隠すのではなく、輪郭を堂々と見せる。
目元は跳ね上げる。
優しげに見せるためではない。
「舐めれば怪我をする」と先に知らせるためよ。
唇はふっくらとした形を活かし、赤を置く。
可愛らしさではなく、毒のある華やかさを選ぶ。
そう、私は守ってもらう女ではなく、舞台の中央から人を黙らせる女になるのだから。
「お嬢様……まるで別人のようで……お綺麗です」
テリーザの戸惑いに、私はすぐには答えなかった。
まず鏡越しに彼女を見る。
それから一拍置いて、ゆっくりと振り返る。
ドレスの裾が遅れて揺れるのを確かめてから、唇だけで笑った。
「違う? ええ、違うでしょうね」
声は低すぎず、高すぎず。
甘さは残して、けれど逆らわせない響きで。
「でも、今後のわたくしの顔はこれが標準装備よ」
ぱっと華やぐ武器となる化粧。
前世で憧れた、ふくよか女性筆頭の彼女の化粧を真似して、ツリ目に気の強い瞳と、ふっくらとした赤い唇を作る。
妖艶かつ、悪役っぽさがあり、尚且つ悪評を笑い飛ばして睨みを利かせることも可能になるわ。
それに――私は悪評を口にした人をそのままにはしない。
トドメは笑顔で刺していくわ。無論諭す人もいるだろうけど。
そう思いつつ前世の私を模した化粧に満足。
心のなかには『大物女優』……最早私は崩れはしない。
妖艶に微笑み、私はスッと立ち上がると、ドレスの案件を語る為に父の書斎へと向かう。
華やかなドレスの裾を踏まないように歩くのではない。
裾が自然に遅れてついてくる速度で歩くのだ。
一歩目は裾を従わせるため。
二歩目で空気にこちらを見せる。
三歩目で、屋敷の廊下そのものを舞台へ変える。
行き交うメイドたちは呆然とし、掃除道具を落とすものもいた。
それでも背筋は伸ばす。
けれど胸を張りすぎてはいけない。
貫禄と威圧は似ているようで違うもの。
私が欲しいのは、今は前者だけだ。
お父様の書斎に到着すると、私は一度だけ声を整えた。
落ち着いていて、よく通る声。
そういう女は、太っていようと痩せていようと、軽んじられない。
……ここから先は、女優として動く私だけ。
さぁ、〝太ましい〟が負の意味だなんて概念――ぶち壊すわよ。
私はお父様の書斎をノックする。
中から返事があったところで――。
「お父様、少し宜しいかしら? 大事な話がございますの」
さぁ、交渉と行きましょうか。




