69話 消えた第四王子
「タオ王子が、消えた……!?」
「はい……」
王宮騎士の話によれば、普段であれば母親であるサライト第二王妃が暮らす離宮で一緒に過ごしているタオ王子が、離宮内に造られた花鳥園で遊んでいたところ、唐突に姿を消したという。
「花鳥園の警備にあたっていた騎士に聞いても、分からないと繰り返すばかりで……何かあったら彼の責任になるでしょうから、頭が真っ白になってしまっているのだと思います。自分もこうやって、部外者のシィナさんを巻き込んでしまいました……」
「いえ、大丈夫です。一緒に探しましょう」
「でも、本日は王妃候補選抜会の最終試験の予定では……?」
「そんなのはどうだってよいのです!」
「いやどうだっていいことはないのでは……?」
王子の一人が攫われたのだ、試験など中止して全警備をタオ王子の捜索にあたらせるべきだろう。
「わたくしは王宮と離宮の外回りを探します!」
「あっちょっとシィナさん……!?」
きっと、この時のオレもパニックで頭の中が真っ白になっていたのだろう。
最終試験をすっぽかして、タオ王子を探す事だけを考えていたのだから。
「タオ王子……美柑……っ!」
タオ王子の中に義妹の美柑の意識があるかもしれない。
そう思ってここまで必死になっているが、もしそうじゃ無かったらオレはタオ王子を探していただろうか?
まあ、今はそんな事を考えている場合では無いのだけれど。
「はあ、はあ……あらっ?」
「あっ……」
王宮の外に出て怪しい奴がいないか周囲を走り回っていたところ、ここにいないはずのお嬢様を発見した。
「カーヴィンさん……」
「シィナ・ゼテール……」
「お腹の調子は大丈夫なんですの?」
「な、なんの話ですか……っ」
今日の最終試験を休んでいたのでてっきり腹でも壊したのかと思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。
それにしても、いつものカーヴィンならもっと威勢よくオレに噛みついてくるところなのだが、今日はやけに大人しいというか、元気がないというか。
試験を休んだノーラ・ワイルドシップとその取り巻き、いなくなったタオ王子、挙動不審のカーヴィン……
「あなたもしかして、タオ王子がいなくなった事、何か知ってますわね?」
「うう……わ、わたくしは……うわあああああんっ!」
「カーヴィンさんっ!?」
……。
…………。
「それじゃあ、タオ王子は極東解放軍の手の者に誘拐されたということですの?」
「ええ、そうですわ……極東解放軍の活動を援助している、チェスナード王国の指示ですの」
いきなり泣き出してしまったカーヴィンを宥めつつ、彼女から事情を聞き出す。
どうやらタオ王子は、クレイン王国内の反抗戦力である極東解放軍によって誘拐されたらしい。
そして、王宮内に極東解放軍の関係者を手引きした人物の一人は、ノーラ・ワイルドシップだった。
「わ、わたくし、ノーラ様がそんなことをしていたとは知らなくて……ノーラ様を慕う令嬢のご友人たちが、ノーラ様とタオ王子の誘拐計画の話をしているのを偶然聞いてしまい、それが見つかって、一緒に協力させられそうになって……」
「それで、途中まで協力した後に逃げて来たと」
「こ、こんなこと、絶対にやってはいけない事ですの……!」
なるほど、ノーラの取り巻きの一人ではあるが、貴族令嬢としての正義感は持ち合わせていたカーヴィンには秘密にしていたってわけか。
こうなってくると、試験を妨害したのもあいつらの仕業っぽいな……
「それで、タオ王子は今どこに? 大丈夫、わたくしはカーヴィンの事を誰にも話しませんの」
「シィナ、さん……」
カーヴィンは、口は悪い……まあ、性格もそれなりに悪いが、一線を越えるようなことはしない筋の通った令嬢だ。
オレはこういう子が意外と嫌いではなかった。
「タオ王子は、ギストレンジ公爵の別邸にある離れに幽閉されていますの……」
「えっ!? ヨルの家の別邸!?」
それってめちゃめちゃオレが滞在してる場所じゃん。
え、なんでギストレンジ公爵の別邸? っていうか離れなんてあったか?
「降爵になる前は、あそこはワイルドシップ家が管理していた別邸だったのです。それで、ギストレンジ公爵も知らない地下の離れがありまして……」
オレはカーヴィンから、タオ王子が囚われている別邸の地下室への行き方を教えてもらう。
ここまで協力してもらったら、彼女も裏切者扱いで危険かもしれないな……
「カーヴィン、事が落ち着くまでマルチホールにいなさいな。そこにヨルがいるから、わたくしの事も含め、事情を全て話して保護してもらいなさい」
「シィナさんは……」
「わたくしは、ちょっくら王子様を助け出してきますわ」
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