57話 不穏な気配
クレイン王国・王都某所――
「くそっ! あれだけの事故が起きたにも関わらず、令嬢たちには傷ひとつ残せなかっただと……?」
「どうやら、参加者の中に治癒のギフトを使える者がいたようです。貴族令嬢ではなく、庶民ということで情報が入ってきておりませんでした」
「庶民風情が、我々の邪魔をしおってからに……!」
「お父様……次の試験はどう動きます?」
「ジャベリックダーツ……あの根暗王子が得意な下品でくだらん遊びか」
「今回はギフトの使用が許可されておりません。メロコ・ギレッドのフレイムも使われないでしょう」
「……じゃが、ダーツ用の矢に毒を塗るくらいは出来るのではないか? 間違って人に当たってしまうこともあるじゃろう」
「それは、しかし……」
「次こそヤツらにひと泡吹かせてやろうぞ……それこそが我らの野望の礎となるのだ」
―― ――
「うーん、今日もいい天気ですわ!」
「絶好のバナナ日和ですねシィナお嬢様!」
「そんな日和はありませんの」
明後日に行われるジャベリックダーツ試験の説明を聞きながら朝食を食べ終えたオレは、メイドのアイラを同行させて軽く王都散策をすることにした。
ヨルはまだ完全にギフト疲労が回復していないようで、今日1日は別邸でゆっくりするらしい。
「きっと明日になったらヨルも元気いっぱいでしょうから、そしたら一緒に遊びましょう」
「シィナお嬢様、明日は試験前日ですよ。それこそお屋敷でくつろがれた方が良いのでは?」
「試験といっても、ダーツ投げで遊ぶだけですの。そんなに疲れませんわ」
「ジャベリックダーツ試験を遊びと解釈しておられるのですね……」
そんな感じで王都の街中を歩いていると、翼の生えた馬に跨った女性のエンブレムが埋め込まれている大きな建物が現れる。
女神スールスを信仰するスールス教の教会だ。
「やはり、王都の教会は大きいですわね……」
「スールス教の総本山でございますから。もしかしたら中にクレーネ様がいらっしゃるかもしれませんよ」
「そうですわね。ちょっと寄ってみましょう」
サドンデスマッチ試験でチームを組んだクレーネは、今回の王妃候補選抜会に参加している唯一の庶民だ。
普段は王都の教会でシスターをしていると話していたので、中にいるかもしれない。
「大将~やってますの~?」
「なんで酒場のノリなのですかお嬢様」
アイラに渾身のネタを突っ込まれつつ教会の中に入ると、天井に飾られたステンドグラスから色とりどりの光が差し込んできて、それだけで神聖な雰囲気を感じてしまう。
奥には入り口のエンブレムに埋め込まれていた翼の生えた馬……ライトニングペガサスに跨った女神スールスの石像が鎮座していて、教会内に設置された長椅子に座った数名の信者が祈りを捧げている。
「クレーネは……いませんわね」
「もしかしたら懺悔を聞いているのかもしれませんね」
アイラが視線を向けた先に『告解部屋』と書かれたプレートが下げてある小部屋を発見する。
いわゆる懺悔室というやつだろうか。
「あそこにいるのであれば会いに行くのはお邪魔になってしまいますわね」
さすがに懺悔室に入って『そちらにいるのはクレーネですか?』とか言うわけにもいかないので、少しだけお祈りして帰ろうかと思っていたところ、ちょうどその告解部屋の扉が開いて一人の女性が中から現われる。
「あら、あなたは……シィナさん」
「メロコ様ですの?」
告解部屋から出てきたのは、五大公爵家のギレッド家令嬢、メロコ・ギレッドだった。
なんか、タイミング悪いところで会っちゃった気がするな。
「メロコ様、その……隣にクレーネいませんでした?」
「何を聞いているんですかお嬢様」
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