33話 ワイルドシップ家
「それではこれよりギフト披露試験を開始します。呼ばれた方は演習場へ移動をお願いいたします」
ケータリングを食べたりバナナをカチコチにしたりしつつ待機していると、運営スタッフの人がやってきて試験の開始を告げていく。
「多分ボクたち招待組は応募組の後だろうから、もう少しのんびりできるな」
「そういう感じなんですのね」
オレを含め、一緒にいるヨルとユンちゃんも王妃候補選抜会には招待を受ける形で参加している。
実際、最初に呼ばれた子は唯一この会場にいた庶民っぽい女の子で、その後もあまり有名ではなさそうな伯爵令嬢から順に声がかかっているようだ。
ちなみにこの世界の爵位は『公爵』と『伯爵』しかなくて間の侯爵や男爵は存在しない為、お偉いさん度で言うと王族、公爵、伯爵、庶民という風になっている。
庶民の中でも王都の住民は地方の領民より上……みたいなのもあるらしいが、その辺りの細かい肌感は貴族令嬢のオレには分からない。
「ご覧になりましたかノーラ様。庶民の娘がいましたわよ」
「ええ……そうですわね」
「庶民がバシム王子の王妃になろうなどと、厚かましいにもほどがありますわね」
「まあ……行動する勇気は認めてあげましょう」
「さすがノーラ様! ご慈悲が深いですわ」
うわあ。なんか典型的なのがいるな。
態度キツイ令嬢とその取り巻きみたいな……やっぱこういう所って1組はああいうのがいるんだ。
「ヨル、あの方たちは……」
「ん? って、うげ……」
取り巻きに『ノーラ様』と呼ばれている黒髪の令嬢を見たヨルが心底嫌な顔をする。
っていうかお嬢様がうげとか言うなって。
「あのお方はワイルドシップ伯爵家のノーラさんでございますね」
「ワイルドシップ伯爵家……」
「ユンの家のお隣さんでございます」
そういえば前にどこかで聞いたと思ったらアレか、ヨルのメイドをやってるズィオ族のビッツさんが子供の頃、賊に襲われたっていう領地の……
「ワイルシップ伯爵は、ネピュア領の東にある領地を治める元五大公爵家だ」
「元、五大公爵家ですの?」
「昔々、ボクたちが生まれるずっと前……ネピュア領とワイルドシップ領の間にあるズィオ族自治区がクレイン王国に併合される前に『ズィオ族長国』を名乗っていた時期があったらしくてな。まあその結果隣国のチェスナード王国に侵略されて奴隷地区になりかけて、そこをクレイン王国が助けて今の自治区になってるわけだが……」
「急に何か語り始めましたわね」
「いいから黙って聞いとけ」
ヨルの話によると、ズィオ族自治区が『ズィオ族長国』としてイキっていた短い時代、クレイン王国としてはズィオ族長国を国として認めず、クレイン王国の一部とならない限りは貿易などもしない方向性で動いていたのだが、隣接するワイルドシップ公爵領のみズィオ族長国を国として認め、貿易や援助を行なっていたらしい。
しかし、ズィオ族長国はチェスナード王国に侵略されて占領されかけ、クレイン王国はそれなりの犠牲を払ってズィオ族たちの自由な生活をチェスナード王国から守り、自治区とした。
この時にワイルドシップ公爵家は国から『お前らが貿易の利益に目がくらんでヨイショしたせいでズィオ族たちが調子乗ってウチの国共々痛い目見たんだぞ』というお叱りを受け、公爵から伯爵に格下げになり、五大公爵家からも抜けることに。
「で、代わりに五大公爵家の椅子に座ることになったのがボクの家……つまりギストレンジ公爵ってわけ」
「それはなんといいますか……」
「一方的に恨みを買っていそうでございますね」
そんなことを話していると、こちらをじーっと見つめるお嬢様方の熱い視線が……
「あら……ヨルクライム公爵令嬢様ではありませんか」
「うげっ」
もはや本人を前にしてうげっって言っちゃってんじゃん。
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