21話 こだわりの馬車
「見てくださいシィナお嬢様、随分と景色が変わりましたよ」
「ゼテール領を抜けてギストレンジ領に入ったのですわ」
屋敷を出て馬車で街道をしばらく走っていくと、のんびりとした農村の風景から一転、煙がモクモクと上がる職人小屋が立ち並ぶ街並みへと景色が変わってゆく。
オレたちが暮らすゼテール領のお隣、ギストレンジ領に入ったのだ。
「モニータさん、もしかしてこのままヨルのお屋敷に寄っていくんですの?」
「いえ、招待組の令嬢方には王家継承管理室からそれぞれ馬車が出ていますので、相乗りではありません。もっとも、ヨルクライム様は自前の馬車で行くということで私どもからの馬車の迎えは断っておりますが」
「そういえばギストレンジ公爵家の馬車は色々とこだわった自慢の馬車ですものね」
鉱山地帯と職人街を有するギストレンジ領は、隣国との戦で使用する武器や防具の製造以外にも、日常生活で使用される器具や商人用の馬車なども作っている。
ギストレンジ公爵は領内で働く職人を大切にしており、技術の向上や新たな職人の教育にしっかりと投資をしている。
自分たちで使用する馬車に関してもこだわっていて、ギストレンジ領の職人たちに依頼してオーダーメイドで作ったデザイン良し、耐久性良しの自慢の馬車を持っている。
「ギストレンジ製の馬車は王都でも人気が高く、わざわざ買い付けに来る貴族もいるそうですね」
「まあ、その内の何割かはヨル目当てだと聞いたことがありますが」
「ヨルお嬢様目当て、ですか?」
「意外と殿方から人気があるのですよ、あの子は」
ヨル自身は自分の事を貧相な身体で異性から見向きもされないと考えているようだが、ああいう子が好きな男というのはそれなりにいるわけで。
そういったことに加え、五大公爵家のギストレンジ家の娘ともなればお近づきなりたい貴族のご令息というのは多いのだろう。
「ギストレンジ製の馬車や武器を大量に購入する代わりに、うちの息子とヨルの婚約を……みたいな貴族もいると、前にお母様から聞きましたの」
「とはいえ、今回のバシム第一王子の婚約者候補選抜会にヨルクライム様が参加なされたということは、そのような婚約の打診はお断りしているということでしょう」
「お断りしているというか……ギストレンジ公爵もわたくしのお父様と一緒で『娘は渡さん!』タイプですので」
なんならヨルの父親はルトヴァン父さんよりも血気盛んなので、こっそりヨルに手出しなんかしたらギストレンジ領の筋肉ムキムキな職人たちを引き連れて相手の屋敷に殴り込みをかけるかもれない。
「さ、さすがヨルクライムお嬢様……しかし、シィナお嬢様も負けていませんよ。これからどんどん巻き返していきますもの」
「どういうことですの、アイラ?」
「バナナですよお嬢様! これからの時代、バナナが大人気になってゼテール領まで買い付けに来ること間違いなし! そこでシィナお嬢様を見た貴族のご令息様はナイスバディなお嬢様にホの字でございます!」
「ホの字って……」
今どき言わんだろそんな表現。いやまあ異世界だから知らんけど。
「アイラはバナナの力を過信しすぎですわね」
「そんなことありません! バナナは偉大です! クレイン王国の国民食にすべきです!」
「ええ……」
気付いたらウチのメイドがバナナ狂になっていたんだが。
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