19話 出立
「それではお父様、お母様。行ってまいります」
「参るくらいなら行くのを止めなさいシィナ」
「降参って意味ではないですわお父様」
王妃候補選抜会の招待状が届き、招待を受けてしばらく経った頃。
ゼテール家にライトニングペガサスのマークが入った王政管理局の馬車がやってきた。
遂に本日、王妃候補選抜会に参加するためゼテール領を出て王都へと向かう時がやってきたのだ。
「それにしても立派な馬車ねえ。ウチのとは大違い」
「そ、そんなことはないぞシャロウよ。確かに少しガタがきている部分もあるが、ゼテール家の馬車は領地で生育した高品質の木材を使い、領地で育った剛健な馬に引かせている素晴らしい……」
「お父様、クレイン王国公式の馬車に張り合わないでくださいですの」
まあ、ルトヴァン父さんの気持ちもわかる。
よくも大事な娘を王妃候補選抜会なんぞに招待してくれおって……とか考えているに違いない。
ちなみにヨルの家も一人娘を溺愛する馬鹿親父なので、王妃候補選抜会に参加すると言ったときに我が家と同じようなひと悶着があったらしい。
「こんな辺境の領地まで馬車を出してくれるなんて、さすがの王政管理局ね」
「ふふん。わたくしも一応、招待組ですもの」
「あらシィナったら、まだ始まってもないのに調子に乗っちゃって」
今回のバシム第一王子の王妃候補選抜会に参加する方法は2つ。
ひとつはオレやヨルのように招待を受けて参加する、いわゆる『招待組』で、もうひとつは自ら応募して王家継承管理室の審査を通過した『応募組』の参加者。
そして招待組の参加者には王政管理局が馬車を出して王都まで連れて行ってくれるというサービス付きというわけなのだ。
「シィナ・ゼテール様。お出迎えに上がりました、王政管理局・王家継承管理室のモニータと申します。この度はバシム様の王妃候補選抜会にご参加いただきありがとうございます」
「こ、こちらこそご招待いただき光栄ですわ。本日からよろしくお願いいたします」
シンプルだが気品の感じる馬車の中からモニータという名前の女性が現れる。
彼女はオレに招待状を出した王家継承管理室の室員らしく、今日から色々とサポートをしてくれるらしい。
「ところでシィナ様。何故ルトヴァン伯爵は家の前に塩を撒いておられるのですか?」
「アレは気にしないでください」
多分除草とかしてるんじゃないすかね。知らんけど。
「うう、ドキドキします……」
「わたくしより緊張しているではありませんか、アイラ」
今回、身の回りのお世話役としてゼテール家のお屋敷で働くメイドのアイラも同行してくれることになった。
男のままなら前世の経験も踏まえて自分の面倒は自分で見れると思うのだが、なにせ今のオレは女子……ちょっとした支度にも手間がかかって面倒なことが多いのだ。
それに、王妃候補選抜会に参加している間は常に身だしなみを整えておかなければならないから、アイラが一緒に付いてきてくれるのはとてもありがたい。
「アイラ、頼んだぞ……シィナに変な虫が付かぬように警戒し、いざという時は排除するのだぞ」
「ご当主様……分かりました! 不肖このアイラ、ゼテール家に使えるメイドとして全力でシィナ様をお守りいたします!」
「アイラはわたくしのボディーガードではありませんのよ」
こうしてオレは、屋敷の前に塩を撒く父親とボディーガードになろうとするメイドに呆れながら王都へ向かって出発した。
ちなみにシャロウ母さんは別れ際に『王都の美味しいお土産待ってるわね~』とか言ってた。
気楽だなオイ。
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