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第五.五話 魔界の審判

「《炎舞(えんぶ)》!!」

「打つ側の腕に意識行き過ぎだ! 軸ブレてんぞ!!」


 スカーが指南役(?)となってから早半年のこと。

 相変わらず慎吾たちは過酷な鍛錬を強いられているが、スカーの指導の甲斐あって慎吾と蓮は着実に力をつけている。

 美久と苳也も武力面ではやや心配が残るが、魔力の操作という点では二人よりも勝るまでに成長していた。

 そして、


「クソッ、《神速(しんそく)》!!」

「テメェの技は悪くねぇ。 が、魔力が着いてきてねぇぞ!」


 今は久しぶりの合同組手、慎吾たち四人vsスカーの実戦鍛錬中だ。


「今だ! 《極大・火———」

「違うよ、慎吾君だ!!」

「遅ぇ!!」

「美久! 俺に回復を!!」

「《女神の慈愛(ゴッド・ヒーリング)》!」


 まあ大体は一時間程度でボコられて終わる。

 今日も同じく一瞬の連携のブレを的確に突かれて潰された。


「今日はこんなもんか。 ま、多少は耐えれるようになってきたな。 俺様相手なら上々だ」


 スカーはそう言ってその場に腰を下ろす。

 対する慎吾と蓮は倒れて目を回しており、美久は彼らに治癒魔法をかけながらスカーのことを見つめていた。


「…本当にお強いですね。 ほとんど魔法も使っていないのに慎吾さんたちが一方的にやられるなんて」

「当たり前だろ。 炎のガキは力はあっても使い方がなっちゃいねぇ。 そっちのガキだってアイデアだけで技量も追いつけねぇんじゃ話んなんねぇよ。 昔のあいつみてぇでうざいったら………」


 ふと、スカーは言葉を止める。

 数秒何かを考えるような素振りを見せ、ゆっくりと慎吾の方へ視線を向けた。


「おいガ…慎吾。 テメェ、なんでもう炎が使える?」


 その声は僅かに震えていた。

 恐怖ではない。

 どちらかというと怒りとか、そういった感情から生まれるものだった気がした。


「え? ああ、王宮にあったシアンさんの記録を見つけたんですよ」

「王宮の記録? 自力で見つけやがったのか?」

「あれを見つけたって言っていいのかは分かりませんけど…」


 萎縮する慎吾。

 ボコられた直後ということもあるが、やはりスカーの威圧感は相当なものだ。


 召喚から約七ヶ月。

 一ヶ月ごとに定期制のステータス鑑定により、慎吾たちは自分たちの成長を数字で確認することができる。


 現在の実戦値は慎吾が5000、蓮が4300。

 美久と苳也は魔法の特性上それぞれ魔力値と知能値に偏ってはいるが、約2000という上達っぷりだ。


「ああそうかい。 じゃ、今日んところは帰っていいぜー。 それと、しばらく俺様は暇をもらう」


 スカーは毎回そうだ。

 鍛錬が終わるとしばらくその場に止まり、慎吾たちだけ先に帰す。

 そして翌日の鍛錬まで王宮のどこからもその姿を消す。

 が、彼が休みをもらうというのは、ここ半年間で初めてのことだった。


「じゃあ、その間の鍛錬は誰が?」

「しばらくは自主練でもしとけ。 テメェら、魔力操作も身体能力もお粗末すぎるんだよ。 俺様が帰ってくるまでに少しはマシにしとけ」




ーーー ーーー ーーー




 ———同日、魔王城にて。


「魔王様、魔王様にお取り継ぎを!!」

「現在魔王レオン様は“原色”の皆様と会議中です」

「一大事だ、召喚勇者どもが………!」


 一人の上位魔族が慌ただしくも最上級魔族の会合に乱入した。


 長机に腰掛ける四人の魔族。

 その誰もがドス黒い闇をまとい、同じ種族であるその魔族ですら恐怖を隠しきれなかった。


「今がどれだけ重要な時間か分かってのことでしょうね?」


 長身でスリムな体型の女性。

 長い黒髪は背中から腰までを覆い切り、玉座の片隅には大きな鎌がかけられている。


「ただでさえ会議なんて面倒なんだ。 それよりつまらねー用事ならあたいがぶっ殺すぞ」


 露出の多い服を身にまとう女性。

 八重歯が特徴的で、他よりも野生のような荒々しいオーラを放っていた。


「………」


 さらにその横、一枚の布で全身を覆う小柄な少女は、無言で魔族を睨みつけている。

 そして、


「要件はなんだ? 先んじての申告では召喚勇者関連と聞いているが」


 もう一人、黒いコートに身を包む少年。

 手にある紙束に目を通しながらその魔族に問う。

 その姿は妙に落ち着いているようだった。


「さ、先程、下界にて活動中の部下から報告が上がりました。 ソリエットにて異常な魔力変動が起き、異世界召喚が行われた可能性がある、と…」

「あぁ? その程度の報告のためにあたいらの会合止めたってのか?」

「召喚されて間もないなら、私たちが出るまでもない。 貴方方の判断で対処できるはずですよ」

「いえ! それと…もう一つあるのですが………」


 最上位魔族の威圧からか。

 報告に上がった魔族は沈黙を置き、僅かに震えていた。


「……“スカー”と思われる魔力が、ソリエットにて頻繁に確認されているらしいのです」

「ッ!!」


 瞬間、

 先ほどまで静かだった少年が魔族の胸ぐらに掴みかかる。


「貴様、それは確証あっての報告だろうな」

「も、もちろんです! 二、三度姿も確認されましたし、こちらの資料にも………」


 差し出された書類を強引に奪う少年。

 その中には様々なソリエット王国に関する情報が記されていた。

 貿易、人の出入り、そして日毎の魔力検出記録。


 その内の魔力検出記録には確かにあった。

 ある日から突如として増加した検出量、さらにその一月後に現れたスカーと思われる膨大な魔力データが。


「なぜ幾度もソリエットへ…。 まさか稽古でもつけているのか? だとしたら………」


 資料を眺め呟く少年。

 いつの間にかその手には力がこもり、紙の端にシワを作っていた。


「“白夜”、“極夜”。 出るぞ」

「はぁ!?」


 それだけ言い放ち、少年は扉の方へと足を進める。

 が、


「待て! なんであたいらが行くんだよ!」

「脅威になり得る以上、確実に潰さねばならん」

「…魔界……無防備………」


 残る二人はあまり乗り気ではないらしかった。

 しかし、少年はそんな彼女らを睨みつける。

 その視線はまるで肌を貫くかのように鋭利なものだった。


「天使に負けるわけにはいかん。 ならばその可能性を上げる要因は徹底して摘むべきだ。 例えどんなに小さいつぼみであろうとな。 実際お前達は一度、痛い目を見ているだろ」


 召喚勇者。

 実際に現れた数百年前当初、魔族達はその存在を軽く見ていた。

 所詮は人間、自分たちに届くことはない下等種族だと。

 しかし、それがシアンとスカーという異例が育つ猶予を与えてしまったのだ。


「さっさと来い。 本格介入が始まる前に潰すぞ」


 立ち去る少年。

 “白夜”,“極夜”と呼ばれた二人も、渋々その跡を追う。

<魔法紹介>

 名称:《神速(しんそく)


 体内に雷を流すことで初動の瞬発力と超高速の動きを可能とする。 さらには風系統魔法で体外を覆うことで摩擦を極限まで削り、着地などの衝撃も緩和できる。


 ただし苳也と違って同じ場所へ同時展開はできないため、体の内と外での併用しかできない。 術式として保存することもできない。 あくまでも二系統の併用にすぎず技量も集中力も必要なため、長時間の発動は現実的ではないだろう。

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