第80話 俺という名の全て
雲ひとつない青空だった。
そんな晴天の下で行われる授業は、皮肉にも「魔法演習」だった。
今回のテーマは属性相性。
火は草に強い。水は火に強い。土は水を受け止める。風は火を煽る。そういった基礎を実践形式で確認していく授業らしい。
しかも今回は合同授業。
1-B、1-D、1-Fの三クラスが同じ演習場に集められていた。
俺は嫌な予感を振り払うように空を見上げる。
よし。何も起きない。
俺の見通しでは平和だ。
今日は平和。
絶対平和。
たぶん。
──
演習は2人1組、もしくは4人1組で行われる。
俺は特に親しい友達が多いわけでもないので、やる気のなさそうな三人を適当に集めて四人組を組んだ。
これには理由がある。
事前にプラントから言われていたのだ。
「今回の演習では五大属性を使ってもらう」
......無理である。
俺、五大属性使えないんだが?
さらに追い打ちをかけたのが1-Bの担任、スコール先生だった。
「五大属性を使えない人なんて、いませんよねえ?」
ここにいますよー!!
全力で手を挙げたい。
ただスコールの言っていること自体は間違っていない。
この世界では、基本的に誰もが【無属性】と五大属性のうちのどれかは使える。
俺みたいな例外が珍しいだけだ。
そして五大属性から派生した属性も存在する。
例えば以前本で読んだものだと、
火から光。
水から氷。
土から草。
そんな感じだ。
もちろん本に載っていない派生もある。
俺の【影属性】もその一つだ。
下南の【聖属性】なんて、聖属性の最上位にあたる神聖さの塊さえ感じ取ることができた。
しな。
俺が次に見てみたいのは「派生の派生」だ。
影からさらに別の属性が生まれるとか、絶対ロマンあるだろ。
──
演習は淡々と進んでいた。
俺たち4人組も、適当に言われたことをこなしている。
やる気ゼロ。
周りに「ちゃんとやってます」感だけ出している集団である。
平和だ。
実に平和。
だが、その平和は突然終わった。
「次は......水谷!」
プラントの声。
俺は間抜けな声を出した。
「え」
「何とぼけた返事してんだ。話聞いてなかったのか?」
「え」
「テストだよテスト。この授業のテスト。担当はスコールだ」
「え」
終わった。
完全に終わった。
スコール先生がにこやかに説明する。
「では水谷さん。五十メートル先の的が見えますね?」
「あい」
「中心に木の棒があります」
「あい」
「その棒に火を付けてください。ただし的は燃やさないこと。簡単ですね?」
どういうことだぁ.......?
俺の顔を見てスコールが補足する。
「的はプラントの【草属性】によって作られています。火を強くてればすぐ燃えます。つまり、精密な制御が必要ということです」
「......あい」
「では始めてください」
やばい。
俺には火が出せない。
いや、出せなくはない。
方法はある。
俺は目を閉じた。
意識を集中する。
影の向こうにいる存在へ。
小さな火球をイメージする。
熱を感じる。
......来た。
俺は目を開き、指先から火球を放った。
小さな火球は一直線に飛び、的を燃やさず中心の棒だけを焼いた。
「お見事ですね」
「ただ少し空間に歪みが見えましたが......まぁ及第点としましょう」
見えてるのかよ。
俺がやったことは3つ。
① カムイに影越しで火を出してもらう。
②【闇属性】で火球の勢いを制限。
③【聖属性】で闇を打ち消す。
①に関して。これは当たり前にこの方法しかない。
次②。俺が出した火球じゃないから制御できない。的そのものに被害が出るのを防ぐための闇。
次③。闇は基本的に全て吸い込む性質を持ってる。【闇属性】と【聖属性】は真逆の性質の為、お互いの力を打ち消すことができる。
「まぁ朝飯前かな」
俺はイキった顔で元のグループへ戻ろうとした。
その瞬間だった。
ブゥン
背後で物凄い音がした。背筋がピンと張る。
俺は恐る恐る振り返ると、そこには大剣が刺さっていた。
「う、うお」
思ったより真後ろだったため、ビビりすぎて冷笑しかできない。
だ、だだだだ誰かがおお俺のことここ殺しに来たのか!?!?!?やややややってやるぞ!!!
俺は大剣の方に向かって試しに歩いてみた。
すると、また空の上から大剣が降ってきた。──今だっ!
俺は《変曲》を使い、その場に留まった。
ブゥン
大剣は俺の目の前に降ってきた。
当たり、だな。
大剣は俺を殺す気などない。寧ろ、俺を守る意思さえある。
じゃあこの大剣の持ち主は誰かっていう話だ。
「──おいおい。流石に不意打ちは無しだろ?林田」
「林田?休みじゃないのか?」
「ま、水谷に復讐したいって感じの油断の取り方かな。だろ?林田」
「うぅ......!!」
林田は我を失ったようにこちらに迫ってくる。
「やるのか?林田。お前は友人ではあるが水谷はそれ以前にクラスメイトであり友人だ。俺らの守るべき対象でもある」
「うるせぇ!!伊達、お前ごとイッテやる──【灼月】!!!」
林田のスキルは輝かしい橙色の太陽は消え失せ、闇に呑まれていた。
例えるならそう──日食。
「あぁ。過剰なストレスによる精神汚染か」
「けど、林田。お前が俺に勝つことは出来ないよ。俺に剣がある限り」
「いや、どうかな?」
「は?......っ!!下がれ!水谷!」
「え」
林田の妙な確信。
それは事前に言ったデカいブラフ。
まとめて攻撃すると言っていたが、それは嘘だ。
実際には大きなエネルギーでまとめて行くと見せかけて、本来の目的は水谷への最小であり最大の攻撃を仕掛けることだったのだ。
「いや、俺には《変曲》が......って、え......?」
林田の攻撃は俺の《変曲》を無視して、俺の体に接触した。
接触したが、その瞬間俺の影から人物が飛び出した。
ドオオオオオン
「......!?!?アリス!!」
俺はアリスに駆け寄った。
「な、な、何してるの!!ど、どうしたらいいんだ、、、。ひ、ヒールは?ちょっと待ってろアリス──【回復】。どうだ?アリス。大丈夫か?」
「あぁ?何だよ水谷。体に淫魔でも飼ってんのかよ。死ね」
「......っ!」
林田が攻撃を繰り返す瞬間、俺はその″域″に達した。
おそらく、アリスを傷付けられた反動だろう。
俺はキレている。
あぁそうだ。キレているんだ。
だが恐ろしく俺は冷静だ。
大切な人を傷つけられているのにも関わらず。
この冷静さが俺を俺たらしめている。
さぁ、やっと掴んだこの感覚。無駄には出来ない。
アリス、俺はお前を守るよ。
そうだな、俺はこの技を知らない。
いや、知っていてこれまで目を逸らしていたのかもしれない。
俺はこの技のやり方を知らない。
ただ、今この瞬間にのみ存在するのかもしれない。
それでもいい。
たった今この瞬間、この世界は俺の物になるのだから。
「──掴め《水悠世界》」




