第76話 争いの予感
俺はカムイとの戦闘を終えたあと、影の世界から地上へ戻った。
自分で作っといてなんだが、相変わらず頭がおかしくなりそうな場所だったな。なんだよ“身体を魔力と同化させた”って。理論だけ聞いたら完全に人外じゃねぇか。いやまぁ、実際人外なんだろうけど。
そんなことを考えながら俺は学園の敷地を歩いていた。
当然ながら、まだ学園全体は騒がしい。
“黒煙襲来”。
そのインパクトは絶大だった。
ランキング戦に乱入した謎の組織の頭領。しかも〈調停者〉ですら完全には対処できなかった。
そりゃ話題にもなる。
「いやマジでヤバかったらしいぜ」
「黒煙って本当に実在したんだな」
「つーか誰が侵入許したんだよ」
そこら中でそんな会話が聞こえてくる。
ま、俺からしたら“本人知ってます”とは言えないんですけどね。ガハハ。
......いや笑えねぇな。
ともかくだ。
今回のランキング戦、俺たちDクラスの結果は決して良いものではなかった。
クラスポイントとして与えられたのは10pt。
そしてDクラスには以前からの負債が存在する。
個人と折半したマイナス50pt。
つまり総合的に見れば大赤字だ。
クラス順位も多分下がる。
まあ、当然と言えば当然か。
だが、個人で見れば話は別だ。
決勝近くまで生き残れた人や他にも何人かは個人ptをしっかり獲得している。
勿論俺もその一人。
八百長みたいな形で上がらされたとはいえ、結果だけ見れば得しかしてない。
なんならクラスメイトにも褒められた。
「水谷って意外とやるじゃん!」
「決勝まで行くとかすごくない?」
......ふっ。当然だろう。
本来の俺ならもっとやれる。
今回は“本気じゃなかった”だけだ。
いやほんとに。
ただまあ。良い事ばかりでもない。
むしろ今、学園では別の意味で騒ぎになっていた。
原因は──Hブロック。
もっと言えば。
林田と粟降による“対水谷悠真八百長作戦”。
それが大問題になっていた。
なんでこんなのが表に知れているかって?誰かが告げ口したんだろうな。
そりゃそうだ。
林田の圧力で対戦相手が棄権。
結果、俺だけが不戦勝で上がっていく。
普通に考えて印象が最悪である。
俺は被害者側なんだけどなぁ......。
だが世の中そんな単純じゃない。
頭が良くて尚且つ性格が悪いやつに絡みたくない人間なんて大勢いるからな。
もし俺が脅される立場でも逃げてたね。
だから林田に脅された連中も多かったらしい。
結果、現在進行形で大揉めしている訳だ。
「はいはい。すみませんでした。これで満足?」
食堂の方から聞こえてくる、聞き覚えのあるダルそうな声。
俺は思わず顔をしかめた。
「はー?お前さ、20人とかに迷惑かけてる自覚ないの?」
「明らかに水谷のこと集中狙いしすぎ」
「てかなに?あんたが圧力かけても意味無いって」
うわぁ。
めちゃくちゃ詰められてる。
というか林田、完全に囲まれてるじゃねぇか。
俺が食堂へ近付くにつれ、その声はどんどん鮮明になる。
「意味の有無はもう明白だろ」
林田が面倒臭そうに肩をすくめる。
「現時点、揺すったら逃げたヤツが数十人いただけ。つか、なんで俺ばっか責められなきゃいけないんだよ」
そして。
林田は隣に座る粟降へ顔を向けた。
「おい、粟降。何か言えって」
粟降は少し俯きながら口を開く。
「いや、俺は......」
「え?なに?聞こえない」
圧が強ぇ。
いや怖。
「......俺も、林田に脅されて......」
「は?」
林田の目が笑っていなかった。
「いやいやいやwそれは違うだろw」
「お前もノリノリだったじゃんw」
うわぁ。空気最悪。
というか粟降、今ので完全にヘイト回避しようとしたな?
いやまあ実際林田が悪いんだけど。
「まぁまぁ林田くん」
そこへ小松さんが割って入る。
「一度しっかり皆に謝って?」
「いや、さっき謝ったじゃんw」
「誠意の籠った謝罪が大切なんだよ?」
ニコニコしてるのに圧がある。
怖い。
「ま、林田も國夜に条件付けるほどお熱──」
「あああああああああ!!!」
小山さんの言葉を、林田の絶叫がかき消した。
食堂中に響く大声。
うるっせぇ......。
どうやら地雷だったらしい。
そんな感じで。
食堂では現在、“反省会”なるものが行われていた。
......まあ、全然反省会になってないけど。
俺はそれを横目に、こっそり食堂へ入る。
目的はいつも通り。
定食だ。
今日は焼き魚定食だった。
うめぇんだよなぁこれ。
俺は出来るだけ中央から離れた席へ腰掛け、静かに食べ始める。
うん。平和が一番。
俺はモブ。影の薄い男。
こういう騒ぎには関わらず、ひっそり飯を食うのが正解なんですわ。
そう思っていた。
本当に。
「あれ〜?水谷じゃん!」
......終わった。
俺はゆっくり顔を上げる。
そこにはニヤニヤ顔の中村。
性悪女である。
「水谷はさ、あの会議参加しなくていいの?」
デケェ声で言うな。
「ほら、加害者じゃなくても被害者としては8割水谷でしょ?」
おい。
おい待て。
その言い方だと俺が中心人物みたいになるだろ。
案の定。
食堂の視線が一斉に俺へ向いた。
やめろ。
見るな。
俺は静かに生きたいんだ。
「あ、水谷くんだ」
「ほんとだ」
「てか被害者本人じゃん」
最悪だ。
完全に巻き込まれた。
中村の野郎、絶対分かっててやったな?
そうして数分後、俺は何故か会議へ強制参加させられていた。
なんでだよ。
俺悪くなくね?
「水谷はさ、林田の計画とかなにも知らないよね?」
甘井さんが真面目な顔で聞いてくる。
「うん。知らないよ、本当に」
俺は素直に答える。
「途中からおかしいとは思ってたけど、まさか林田の計画とはね」
これは本音だ。
俺も途中から“あれ?”とは思っていた。
けど、まさかここまで大事になるとは思わなかった。
ただ。
俺がそう言っても。
数人はまだ訝しげな目を向けてくる。
当然か。
周りを下げて自分を上げる。
被害者の立場とはいえ、疑われても仕方がない。
だがその空気をぶち壊したのは、やはり林田だった。
「あ、てかもう一人いるの忘れてたわw」
そう言って立ち上がる。
「え、林田くんどこ行くの?」
「外には出ねぇよ」
林田はニヤリと笑った。
そして。
食堂の隅へ視線を向ける。
「──おい。中川。こっちこい」
その名前が出た瞬間。
食堂の空気が変わった。
「......え?」
「中川って......」
「まさか」
当然だ。
何故ならその名前は、めちゃくちゃ悪く言えば“失敗”を意味するから。
皆が驚く中、食堂の奥の席から、一人の男がゆっくり立ち上がった。
フードを深く被り。
俯いたまま。
そして、その口元は歪んでいるように見えた。
小説は進むのに卒論は進まない( ꒪⌓꒪)




