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『スキル【空間魔法】で転移ライフを謳歌する』  作者: 愛月量


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第75話 衝突②

 影の世界。

 どこまでも黒く、果てのない空間。地面と空の境界すら曖昧で、ただ“影”だけがそこに存在している。


 その中心で、俺とカムイは向かい合っていた。

 互いに息は乱れている。だが、まだ終わっていない。いや、終われない。

 カムイはゆっくりと顔を上げ、俺の放った《黒闇》を見つめながら口を開いた。


「それと......《黒闇(これ)》。僕に対して無闇に使わない方がいいよ」


「......は?」


「僕は闇と光以外なら全て使える。けど、それ以上に──僕には【同化(シンクロ)】がある」


 その瞬間だった。

 カムイの身体が、ドロリと変質した。

 まるで空間そのものが黒へと塗り潰されていくように、カムイの肉体は《黒闇》と同質の存在へ変貌していく。


「全てを吸い込んで無に帰す。師匠。闇の世界に僕が案内するよ」


 ニタリ、と。

 口元だけが異様に歪む。

 そしてカムイは掌を地面へ叩きつけようとした。


「──っ!」


 ヤバい。

 本能が叫んだ。

 あれを通したら終わる。

 世界ごと呑まれる。

 そう確信した瞬間。

 カムイの身体が、ピタリと止まった。


「......なっ」


 数秒。本当に一瞬。

 だが、確かに動きが止まった。

 カムイ自身も驚愕している。


「効いたか......」


 俺は小さく息を吐く。

 まさか、本当に通るとは思わなかった。

 俺が使ったのは【掌握(オーラ)】。


 【威圧(オーラ)】の最終進化系。

 使い手の練度によるが、相手の意識を乗っ取ることが可能。

 この一瞬、俺の【掌握】が刺さるだけでいい。

 ほんの刹那。それだけで十分だった。


「俺の新技は止まらねぇ」


 俺は右手を前にかざす。

 空間が軋む。

 黒い線が世界を切り裂き、直方体のような“箱”が形成されていく。


「悪く思うな──《黒箱(ブラック・ボックス)》」


「なっ......!」


 ガコン。

 音を立てて空間が閉じた。

 閉じ込めた。

 完全に。


 《黒箱》

 壁と認識された空間を“折り畳む”スキル。

 内部と外部を完全に遮断し、存在そのものを閉鎖する。 一度完成すれば脱出は極めて困難。


 そして、その空間を消失させれば──中にいた存在ごと世界から消える。

 記憶すら残らない。

 存在証明そのものが消滅する。


 何より、“後戻り”が出来ない。

 例え相手を殺す気でいたとしても存在を消してしまえば〈調停者〉の真似事を行える悠真でも取り返しが付かないことは理解している。


 黒く折り畳まれた空間を前に、俺は静かに息を吐いた。


「......終わり、か。……なあカムイ」


 返事は無い。

 だが、聞こえているはずだ。


「もうそろそろ終わりにしようぜ?お前の言う通り、俺たちじゃ勝負がつかない」


 沈黙。数秒後《黒箱》の内側から声が響いた。


「......ぃなんだ」


「なんて?」


「師匠のそうやって勝負を有耶無耶にするのが嫌いなんだ」


「......」


「自分自身に誓った癖に、最終的には五分五分で終わらせたがる。その精神が」


 ズキリ、と胸が痛んだ。

 図星だった。

 カムイは続ける。


「この戦いだってそうだ。師匠は僕とほぼ同等。それは本当」


 黒い箱が僅かに揺れる。


「けど、一点だけは確実に師匠の方が上だ」


「......」


「僕は実質的に不死身になった。けど、それを砕く方法が存在してる」


 俺は目を細める。

 知っている。分かっている。

 だからこそ、使わなかった。


「なのに師匠は使わない」


 カムイの声は静かだった。

 怒っている訳じゃない。

 呆れている訳でもない。

 ただ、真っ直ぐだった。


「こうやってスキルで時間を稼いで、遠回りに勝敗を突きつける」


「......」


「なんでかって、師匠が僕に“スキル以外”で勝てないと思ってるから」


 言葉が出なかった。

 心臓が嫌にうるさい。

 俺は、黙った。

 完全に図星だったからだ。

 カムイは、それを全部見抜いていた。


「師匠には甘さが残ってる」


 《黒箱》の向こうから声が響く。


「いずれその甘さが己を蝕むことを、肝に銘じた方がいいよ」


 ......はは。マジで。

 誰に似たんだよコイツ。

 俺は頭を掻きながら、小さく笑った。


「......すまない」


「なにが」


 俺は《黒箱》へ手を伸ばす。

 空間が解ける。

 折り畳まれていた黒い箱が、ゆっくりと元の世界へ戻っていく。

 その中心に、カムイは立っていた。


 服はボロボロ。

 身体の至る所が崩れている。

 なのに、笑っていた。


「この勝負、確かに俺の八つ当たりが入ってた」


 俺は視線を逸らしながら言う。


「自身で決めたスタンスでありながら、負けず嫌いを出して。素直に何も出来なかったところで、お前に全部ぶつけた」


 情けねぇ。本当に。

 師匠面しておいてこれだ。


「これは俺の落ち度だ」


 カムイは少しだけ目を丸くしたあと、ふっと笑った。


「仕方ないよ」


「......」


「でも今日以降、師匠はずっと本気出して戦ってね」


「どうして?」


「本気出してる時の方が、いきいきしてるから」


「......っ」


 なんだそれ。

 恥ずかしすぎるだろ。

 俺は顔を逸らす。


「......お前さぁ」


「はい?」


「そういうとこ、アリスに似てきたよな」


「あ、それは嬉しいです」


「嬉しいんかい」


 思わずツッコむ。

 カムイはケラケラ笑っていた。


 ......はぁ。

 なんか、毒気抜かれたな。

 結局、最初から最後までカムイの掌の上だったって訳だ。


 けど、不思議と嫌な気分じゃなかった。

 むしろ、久しぶりにちゃんと“本音”でぶつかれた気がする。

 俺は肩を回しながら背を向ける。


「じゃ、俺もう戻るわ」


「はい。ゆっくり休んでください」


 あー......。てか、身体不死身ってなんだよ......。それ、ロマンの塊すぎるだろ。

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