第73話 正体
黒煙が消え去った後。
その場には、妙な静けさだけが残っていた。
誰も口を開かない。
否、開けなかった。
目の前で起きたことがあまりにも現実離れしていたからだ。
突然現れた侵入者。
学園最上位層を相手取ってなお圧倒的な実力。
そして、何人もの脱落者。
観客席を埋め尽くしていた熱狂は完全に冷え切り、代わりに得体の知れない不安が広がっていた。
「......ッチ」
塙が舌打ちする。
「何がなんだってんだ」
剣を肩に担ぎながら、空になったフィールドを睨む。
「展開が急すぎるだろ」
当然だ。
ほんの数十分前まで、ここはランキング戦の会場だった。
生徒達が競い合い、実力を示し合うだけの場所。
それが今では、まるで戦場の跡地だった。
血の臭いこそ残っていない。
仮想空間だからだ。
だが、人の感情までは消えない。
恐怖。焦燥。困惑。
その全てが、重く空間に沈殿していた。
ただ──
今回の件で、一つだけ確実に分かったことがある。
“黒煙”という存在。
それほどの人物が、この王立魔法学園へ侵入した。
しかも、堂々と。
それはつまり、この学園ですら、絶対ではないという証明だった。
── ── ── ── ──
「あ、消えた」
小松がぽつりと呟く。
その横では泡渕が腕を組み、難しい顔をしていた。
「......んー。なんとも言えない」
「泡渕くん?」
「本当に急な展開だった」
彼は視線をフィールドへ向けたまま続ける。
「でも確かに彼は“陽動”と言った」
「うん」
「つまり目的は他にあった......?」
泡渕は考え込む。
「いや、だとしても分からない。僕たちを狙う必要があったのか?騒ぎを起こしたかった、とか?」
「ここを狙えば、嫌でも国全体に話が広がる。王立魔法学園の警備を突破したとなれば尚更だ」
「じゃあそれが目的?」
「......いや」
彼は首を振る。
「違和感がある」
「違和感?」
「彼ほどの存在が、あんな目立つ真似をする必要があるのかって話さ」
泡渕の瞳が細まる。
「もっと別の目的があって、そのついでに騒ぎを起こした。僕にはそう見えた」
「ふ~ん」
小松は適当に返事をする。
「まーでも」
「こんな騒ぎになったならランキング戦は中止かな〜」
「まぁ、それはそうだろうね」
「じゃ、次楽しめたらいっか!」
「君、本当にマイペースだね......」
── ── ── ── ──
予想外のアクシデント。
それにより、第1回ランキング戦は中止となった。
とはいえ。
各ブロックの優勝者までは決定している。
そのため、途中までの成績を元にpt配布は行われるらしい。
今回最もptを稼いだのはAクラス。
やはり地力が違う。
団体戦よりも個人性能で押し切った印象が強かった。
そして。
BクラスとFクラス。
他クラスも想定以上に善戦していた。
少なくとも、クラス間の差が絶対的ではないことは証明されたと言える。
......まぁ。
それ以上に“侵入者”のインパクトが強すぎたわけだが。 なんやかんや。
本当に色々あった。
波乱万丈ってやつ。
その言葉が最も似合う第1回ランキング戦は、こうして幕を閉じた。
── ── ── ── ──
〜謁見の間〜
「なんということだ!」
王の怒声が響き渡る。
「侵入者を取り逃したのか!?」
広大な謁見の間。
その中央で、桜華と鴉それぞれの団長が片膝をついていた。
「はっ。申し訳ございません」
桜華が頭を下げる。
「拷問の最中に学園で“黒煙”と名乗る者が現れたため、その対応に追われていたところを......」
鴉が続ける。
「何と?」
王の目が細まった。
「今、黒煙と言ったか」
「?はっ。職員への事情聴取でも、確かにその名を」
一瞬の静寂。
そして。
「ハッハッハッハ!!」
王が突然笑い始めた。
「そうかそうか!」
玉座を叩きながら、愉快そうに笑う。
「ヤツらが動き出したか!」
桜華と鴉は困惑した。
だが、口を挟める雰囲気ではない。
王は笑みを浮かべたまま言う。
「桜華、鴉」
「「はっ」」
「学園にいたその黒煙とやらは“偽物”だ」
「......!」
二人の目が見開かれる。
「本物は」
王の目が妖しく光った。
「この学園の中に既におる」
「......っ」
「どんな手を使っても良い」
重い声。
「私の元に連れてこい」
「「はっ!!」」
二人は即座に頭を下げた。
── ── ── ── ──
〜影の世界〜
「作戦が上手くいったようで何よりです」
黒煙が静かに言う。
そこは、影で構築された空間。
黒い床に黒い壁。
だが不思議と閉塞感はない。
「団長のおかげっす!」
「中々に厳しいセキュリティだった......」
「やっぱやるならド派手に!ですよね!」
団員達が盛り上がる。
笑い声。歓声。
今回の作戦は成功だった。
少なくとも、彼らにとっては。
「おい」
その一言で。
空気が変わった。
ビクリ。
団員全員の背筋が伸びる。
さっきまで騒いでいた者達が、一瞬で静まり返った。
まるで本能が危険を察知したかのように。
「......」
そこに立っていたのは、一人の男。
黒い外套に鋭い目。
圧倒的な存在感を放っている。
新人団員が小声で呟く。
「この人だれー?」
「あ?」
男が視線を向ける。
それだけで空気が凍った。
男はゆっくり手をかざす。
そして。
拳を握ろうとした、その瞬間。
「お待ちを」
黒煙が前へ出た。
「その子はまだ新人です。貴方を知らないのも無理はない」
「......」
「そして、貴方はいつからそのような残虐性をお持ちになって?──師匠」
男が鼻で笑った。
「いつからも何も」
その瞳が鋭く細まる。
「俺は最初からこれだよ──カムイ」
── ── ── ── ──
個人戦
1位:──
2位:──
3位:──
4位:──
5位:──
6位:──
7位:──
8位:──
9位:──
10位:──
団体戦
1位:Aクラス 23人 獲得pt.60
2位:Bクラス 19人 獲得pt.40
3位:Fクラス 18人 獲得pt.25
4位:Eクラス 16人 獲得pt.15
5位:Dクラス 13人 獲得pt.10
6位:Cクラス 11人 獲得pt.5




