第61話 動向②
玉座の間は、静寂に満ちていた。
豪奢な装飾、重厚な空気。
だがそこに漂うのは、威厳というよりも──不穏。
「お前たち、彼らに1位にはいい事があると言ったのか」
低く、重い声が響く。
その声音には、わずかな呆れが混じっていた。
「イイコトなんぞ、初めから存在しないのだがな...」
玉座の傍らに控える男が、一歩前に出る。
プラント。
「...陛下。嘘も方便にございます...」
その声は穏やかだが、芯がある。
「この選択は必要なことです」
王様は目を細める。
しばしの沈黙。
やがて、小さく息を吐いた。
「まぁよい」
「時が来れば、私から彼らに話そう」
その“時”が何を意味するのか。
それを知る者は、この場にはいない。
──いや。
1人を除いては。
── ── ── ── ──
「......グーラ」
呼ばれた名に、空気がわずかに揺れる。
「左様ですね、陛下」
どこからともなく現れる気配。
それは姿を持ちながらも、確かに“異質”だった。
「......『桜華』、『鴉』」
王の声が冷える。
「何やら私たちを探っている愚か者がいる」
次の瞬間。
影が2つ、膝をついた。
「「はっ!」」
「見つけ次第、私の元に差し出せ」
短い命令。
だが、その裏にあるのは──容赦なき処断。
影は一瞬で消えた。
再び静寂が戻る。
王様は深く息を吐いた。
その溜息に含まれるのは、侵入者への憐れみではない。 むしろ──
「ここから、忙しくなる」
静かに呟く。
「そうだろう...?」
その視線は、虚空へ。
「『ナンバーズ』」
── ── ── ── ──
場面は変わる。
暗く、湿った空気。
どこか地下のような場所。
「ヒ、ヒヒヒヒ」
歪な笑い声が響く。
「我らの計画はニンゲンには気付かれていない」
その声は狂気に満ちていた。
「今!今!今こそ!広げる時ぞ!」
「いやはや」
別の声が重なる。
落ち着いた口調。
「落ち着いてくれないか?」
「貴様の汚い笑い声で計画がバレたらどうしてくれる?」
「ヒヒヒヒ!」
狂気が返す。
「その時は、魔王様に誓って、死!死!死ぬ!」
「......はぁ」
「アム、イフ。黙ってくれたまえ」
その声は、明らかにこの場の中心。
「私たちはまだお披露目をする前なんだ」
「少しでもリスクは減らしてくれよ?」
「ウト、調子はどうだ?」
その名を呼ばれた者──この場の中心者がゆっくりと顔を上げた。
ウト。
その瞳は、どこか人間離れしている。
「ミライを前借りしたんだ」
静かな声。
だが、確信に満ちている。
「私たちの計画は上手くいく」
「ニンゲンだって、大量に流れ込む」
その口元が歪む。
「私たちの計画。いや、組織は進化する」
一歩、前へ。
「私の【血造模倣】によってね」
その能力の意味を理解している者はいない。
だが──
“危険”だということだけは、誰もが理解していた。
「アム」
呼ばれた者がびくりと震える。
「君が最初の実験台だよ」
「ヒ......?」
「中身が変わるわけじゃない」
ゆっくりと近づく。
「カタチを変えるんだ」
手を伸ばす。
「汚い声を出すなよ」
その指先が、アムの顔に触れる。
「痛みも我慢しろ」
ウトは微笑む。
「私たちは──ニンゲンになる」
絶叫が、闇に飲み込まれた。
── ── ── ── ──
どうしてこうなった?
俺──水谷悠真は、目の前の光景を見ながらそう思った。
学園の外の街。
賑やかな通り。
そして──
女子。
(......いや、なんでだよ)
心の中でツッコミを入れる。
今、俺は同じクラスの女子たちと買い物をしている。
これがハーレムってやつか!
と胸が高まる気持ちと──
もしかして〆られるのでは!?
という恐怖が、せめぎ合っている。
特に後者。
(アリスとかいうのが......いやいやいや)
考えるのはやめた。
怖い。
(まぁ、ハーレムって言っても2、3人だけどな)
現実はそんなもんだ。
それでも、非日常には変わりない。
(しかし本当に不思議だな)
転移前に仲良くしていた面子が多い。
だからか、距離感が近い。
(ま、深く考えるのはやめだ)
今は、この時間を楽しもう。
そう思った、その時だった。
人だかり。
通りの一角に、人が集まっている。
「あっ、あの......」
控えめな声。
振り向くと、女子のうちの1人、咲夜 時雨が小さく指をさしていた。
「あそこのお店に販売してる、ちーずの入ったホットドッグ?みたいなの、美味しそう......」
「......確かに」
ホットドッグは美味い。
チーズも美味い。
だが、それを合わせる発想は──
(先進的すぎるな)
転移前でも見たことがない。
俺たちは店へ向かった。
そして購入。
一口。
「......美味い!!」
思わず声が出た。
「俺あんまり買い食いとかしたことないけど、これは美味い!!」
止まらない。
2個、3個と手が伸びる。
だが──
気づけば、他の女子は別の店へ。
興味を失ったらしい。
「......マジかよ」
俺の隣には、咲夜だけが残っていた。
そして──
咲夜も、食べていた。
めちゃくちゃ食べていた。
(どこに入ってんだ......)
小柄な体。
だが、その食欲は異常。
「......うまいな」
「......うん」
短い会話。
だが、悪くない。
(そういえば、あんまり話してなかったな)
いい機会かもしれない。
そう思い、話しかけようとした時だった。
「ヒっヒ、お、お二人はとてもいい客でございますね...ヒヒ」
「ん?」
振り向く。
店のスタッフらしき男。
だが──
どこかおかしい。
「あ、あぁどうも......?」
反応に困る。
すると、もう1人が口を挟んだ。
「きさ...お客様の食いっぷりが嬉しいってことだよ」
「......あ、そういうことか」
今、きさまって言いかけたよな?
「いや本当に、美味しいよ」
「中も覗いてみるか?」
ニヤリと笑う。
「きさ、ま達には見せられる」
(今完全に言ったな!?)
だが──
少し気になる。
「じ、じゃあお言葉に甘えて」
隣を見る。
「咲夜はどうする?」
「わたしも、行く」
即答だった。
こうして、俺と咲夜は怪しい店の奥へと足を踏み入れることになった。
その選択が。
どんな意味を持つのかも知らずに。
── ── ── ── ──
桜華:国家直属の騎士団
鴉:国家直属の魔法師団




