第四章:声をかけた人
登場人物
•片山 蓮:13歳、中学2年生。
•藤原 千歳:70代前半の女性。島の数少ない定住者。元・大島小学校の教員。
⸻
【シーン1】朝の光と足音
描写
翌朝。鳥の声と波音に包まれて、蓮が目を覚ます。冷えた体を丸めながら、ゆっくりと起き上がると――近くの落ち葉を踏む足音に気づく。
蓮(はっとして身構える)
(草の間から現れたのは、背の曲がった白髪の女性・藤原千歳。手には竹で編んだ買い物かご)
⸻
【シーン2】千歳との出会い
千歳:「……あんた、ここで寝とったんかいね?」
蓮(しばらく黙ってから):「……はい。」
千歳(眉をひそめ、少しだけ怒ったような声):「島の子じゃなかろ? どこの子?」
蓮:「……新居浜です。」
(千歳、しばらく黙って蓮を見つめる)
千歳(少し柔らかく):「朝ごはん、食べとらんじゃろ。うちに来て食べてき。」
蓮(驚いて):「え……でも……」
千歳:「断るなら警察に言うだけよ。ここはな、勝手に寝泊まりしていい場所じゃないけん。」
(蓮、ゆっくりと立ち上がり、うなずく)
⸻
【シーン3】千歳の家
描写
千歳の家は平屋の古民家。畳の部屋にちゃぶ台があり、味噌汁と漬物、炊き立てのごはんが用意されている。温かい湯気が部屋を満たす。
千歳(ご飯をよそいながら):「なにも言わんでもええ。食べなされ。」
蓮(しばらく見つめてから、小さく):「……いただきます。」
(無言で食べる蓮。ご飯が喉を通ると、自然と涙がこぼれそうになる)
千歳:「家、出たんじゃろ?」
蓮(驚いて顔を上げる):「……どうして……」
千歳(少し微笑みながら):「そういう顔を、教室で何百回も見てきたけんね。」
⸻
蓮
「なにも訊かず、怒らず、ただ『食べなさい』と言ってくれた。その一言が、ぼくを少しだけ、生きてていいと思わせてくれた。」




