第29話 王都大聖堂の鐘永遠の誓い
ベルシュタット公爵夫人からの正式な承認を経て、王宮もアカデミーも、そして諸外国も一目置く絶対聖域となったエル工房。
それから月日は流れ、王都の青空に、これまでで最も高く、清らかな祝砲の鐘の音が鳴り響いた。
今日、王都大聖堂で行われるのは、筆頭公爵家の嫡子アーサー・フォン・ベルシュタットと、世界を統べる神話級魔導技師リゼット・フォン・アルスターの結婚式である。
大聖堂の周囲は、歴史上類を見ないほどの熱気に包まれていた。
かつてリゼットを追い詰めた王宮や王立アカデミーの幹部たちは、一番後ろの席で恐縮しながら参列し、最前列には商業ギルドを統括するレオンさん、東の皇国から直々に祝賀に訪れたシオン率いる影忍の一族、さらには諸国の王族や大使たちがズラリと顔を揃えている。
「やれやれ、世界中の要人が勢揃いだな。うちの商業ギルド総出で警備と仕切りをやっているが、歴史に残る大宴会になりそうだぞ」
上質な正装に身を包んだレオンさんが、呆れつつも感無量といった様子で笑う。
「我が影忍の精鋭も全方位に配置した。だが、今日の主役を害そうとする愚者など、この世界にはもう存在せぬよ」
漆黒の祝服を纏ったシオンも、満足げに目を細めて礼を捧げた。
そして、大聖堂の重厚な扉が静かに開く。
純白のステンドグラスの光が差し込むバージンロードの先。そこに立っていたリゼットは、最高級の純白のドレスに身を包み、可憐さと圧倒的な気品を漂わせていた。
胸元には前世の知識と神話級の魔力を注ぎ込んで作った、エメラルドグリーンに輝く永遠の祝福の魔導結晶が光っている。
バージンロードの先で待っていたアーサーは、息を呑み、氷藍色の瞳を大きく揺らした。
非番の騎士服ではなく、公爵家の次期当主としての最も格式高い白銀の礼装を纏った彼は、吸い込まれるほどに美しく、そして頼もしい。
リゼットが静かにアーサーの元へと歩み寄ると、彼はそっと震える手で彼女の小さな手を取り、愛おしさに満ちた瞳で見つめ返した。
「とても綺麗だ、エル。君をこうして私の妻として迎えられる日が来ることが、夢のようだよ」
「夢じゃないわ、アーサー。私が貴方の隣に立つことを選んだの」
大司教の祝詞が響き渡り、二人は神前、そして集まった世界中の参列者たちの前で、永遠の愛と忠誠を誓い合った。
「健やかなるときも、苦しめられるときも、私の一生をかけて彼女の自由と笑顔を守り抜くことを誓います」
アーサーの低く真摯な声が、大聖堂の天井へと美しく響き渡る。
かつて冷たく暗い屋根裏部屋で凍え、無魔力のゴミと蔑まれていた小さな少女。
伯爵家の呪縛を自らの手で打ち砕き、世界を手玉に取り、いまや世界で最も愛され、尊ばれる存在となった。
誓いのキスをという大司教の言葉とともに、アーサーが静かにベールを上げ、リゼットの頬を優しく包み込んだ。
「生涯、君だけを愛している、私の愛しいエル」
「ええ、私もよ、私の愛しい騎士様」
ふたつの唇がそっと重ね合わされた瞬間、リゼットの指先からエメラルドグリーンの光の粒子が溢れ出し、大聖堂全体を暖かな祝福の光で満たした。
一斉に鳴り響く歓声と万雷の拍手。
過去の傷も、過酷な運命も、すべてはこの最高の瞬間のためにあった。
最強の仲間たちに祝福され、そして世界で一番愛する夫となったアーサーの手を強く握りしめて、リゼットは、永遠の幸福と輝かしい未来に向かっていくのだった。




