第25話 神話の証明
翌週、王立魔法アカデミーは営業妨害に出てきた。
「エル工房の魔導具には、未知の悪質術式が組み込まれている危険性がある」
主導で発表した。
工房へ通じる主要な道路に、安全点検と称する検問所を設置して、一般客の足止めを図ってきた。
さらに、アカデミーの誇る老教授陣が情報誌にこぞって寄稿した。
「エルの作品は構造的欠陥を抱えた歪な魔導具である」
叩き始める。
「見苦しい悪あがきだな。アーサーが、騎士団の権限で不当な通行妨害として撤去に動いている。だが、言論工作は世間の評判を落とそうとする厄介だぞ」
レオンハルトが眉をひそめる。
私は冷ややかな笑みを浮かべながら、作業台の上で新しい魔導具の仕上げ作業を続けながた。
「いいわ。アカデミーの誇る権威を根底から打ち砕いてあげる」
レオンハルトとアーサー、シオンにひとつの指示を出した。
「王立アカデミーの公開討論会に乗り込むわ。正しい魔法理論の場で、直接手打ちにさせてあげる」
数日後。
王立アカデミーの大講堂には、副学長をはじめとする教授陣、報道陣や多くの貴族が集まっていた。
アカデミー側が、エル工房の危険性を弾劾するための独壇場となるはずだった。
その場に、私がアーサーを従えて足を踏み入れ壇上に上がる。
「なぜここに、エル工房の技師がいる」
私はフードの奥から副学長と教授陣に向かい、通る声で言い放った。
「教授方に質問です。私の魔導具をどこに欠陥的構造ありますか。あなた方が提示している安全基準の魔力伝導式の3行目計算に致命的な不整合があります。だから魔導具はエネルギー効率が40%も低下しているのです」
「戯言を言うな」
教授陣が怒号を上げる中、私は黒板の前に立ち、最新の魔力展開理論を流れるような手つきで数式として書き連ねていく。
黒板いっぱいに、美しく、完璧で、次元の違う高度な魔導理論。
教授陣の顔から、血の気が引いていった。
「これは、不整合どころか魔法の次元そのものが違う」
「我々が100年かけて解き明かせなかった魔力収束の難問が、たった数行で答えになっている」
論破どころではない。
全員が、7歳の少女の知識の前では子どもの落書きに等しいことを理解させられた。
静まりかえった講堂の中、私は、副学長に対し最後の選択肢を突きつけた。
「エル工房公認の次世代教科書として、この理論をアカデミーに寄贈してあげてもいいわ。ただし、条件があります」
「条件とは」
「ひとつ、エル工房への妨害行為を永久に停止し、公式に謝罪すること。ふたつ、アカデミーは、エル工房を、国家最高位の特例研究所として認め介入権限を放棄すること。もし、受け入れないのならこの理論を他国の研究機関にすべて提供します」
他国にこの技術が渡れば、アカデミーどころかこの国の魔法権威は失墜する。
「認めよう、全面承認する。だから我がアカデミーにその理論を提供してほしい」
副学長はその場に両膝をつき、必死の形相で手打ちの条件を丸呑みした。
講堂を出た後、王都の青空の下でアーサーが私に歩み寄り、愛おしそうに目を細めて屈み込んだ。
「エル、見事だったよ。アカデミーの権威を手玉に取ってしまうとはね」
「挑む相手を間違えたのよ。これで邪魔者は完全になくなったわ」
アーサーは優しく私の手を包み込むと、手の甲に愛おしさを込めたキスを落とした。
「ああ。君の圧倒的な才能と自由を一番近くで守り続けさせてほしい」
「ええ、私の騎士様」
自らの威光を高めるかてとして、アカデミーの反撃も手打ちにより完全なる特権と自由を手に入れた。
エル工房の名はいまや、王宮もアカデミーも手を出せない聖域として、世界中にその響きをとどろかせた。




