第23話 新時代の開幕
宣戦布告から数週間。
王宮は、エルへの接触を完全に諦めた。
諸国の密偵たちも息を潜めたことで、王都には穏やかな平穏が戻っていた。
今日職人街の通り沿いに、ひとつの看板が掲げられた。
澄んだエメラルドグリーンのガラスに刻まれたのは、一羽の羽ペンと『エル工房』。
「完璧ね」
私は真新しいエプロンを締め満足そうに頷く。
地下や隠れ家でひっそりと作業をしていたけれど、今日からは正々堂々とエルとして、魔導具を世界へと届ける拠点が完成したのだ。
開店前だというのに、店の前には長蛇の列ができていた。
レオンハルトの黒猫の目が調整してくれた完全予約制にもかかわらず、王都の大貴族や豪商たちが、扉が開くのを待ちわびている。
「初日から大盛況だな。警備の配置は完璧だぞ、店主様」
カウンターの奥から現れたレオンハルトが、帳簿を整えながら笑う。
彼が裏の流通と会計を完璧に仕切ってくれるおかげで、私は制作に没頭できる。
「我が影も、周辺の路地裏に十二名を配置した。不審な動きを見せる者がいれば店に入る前に処断する」
影からすっと現れたシオンが、東洋の意匠が凝らされた魔導鈴を私に手渡してくれた。
「二人ともありがとう。でも、一番頑丈な護衛ならあそこにいるわ」
私が視線を向けた先、店の入り口には、圧倒的な存在感を放つ青年が立っていた。
筆頭公爵家の嫡子、アーサー・フォン・ベルシュタット。
彼は非番の日に、エル工房の専属護衛兼店員として手伝いに来てくれていた。
「いらっしゃいませ。店内へは順番にご案内いたします」
凛とした声で客を誘導するアーサーの姿に、並んでいた貴族令嬢たちが。
「ベルシュタット卿がなぜこんなところにいるの」
パニックを起こしかけている。
アーサーの冷徹な眼差しは、私と目が合った瞬間だけ甘く温かなものへ一変した。
「エル、準備はいいかい」
アーサーが歩み寄り、私の小さな頭を優しく撫でる。
手の温もりに心がじんわりと満たされていくのを感じた。
「ええ。エル工房、本日開店です」
扉が開かれ、光が店内を満たしていく。
虐げられていた過去を塗りつぶし、世界を震撼させた7歳の天才少女。
最強の仲間たちと、大切な人を隣に携えて私の自由で誇り高き新時代がここから始まる。




