第22話 激震する玉座
夜空を埋め尽くした警告紋章と、王都全体を震わせた魔術の宣告。
翌朝、王宮の玉座の間は地獄絵図と化していた。
「国脈を断つだと。たかが7歳の幼女一人が、我が国に対して宣戦布告」
国王は恐怖で顔を蒼白にしながら絶叫し、膝を震わせた。
一晩明けて、魔法省があの大規模な投影魔術は、高度結界を破壊することなく、完全に迂回して発動されていた。
「陛下。エルの手腕であれば、王宮の心臓部である大魔導炉を遠隔で過負荷させ王都を一瞬で灰燼に帰すことも容易いことです」
「 即刻、全戸鑑定を中止しろ。捜索部隊を引き揚げさせよ」
国王の悲鳴のような命により、強硬な捜索はあっけなく完全停止へと追い込まれた。
密偵たちも、夜空を支配した化け物じみた魔力を目の当たりにして下手に手を出せば即座に露と消されることを悟って、相次いで撤退へと方針を転換していった。
「玉座の間の国王の慌てぶりは見ものだったぞ。国家崩壊だけは勘弁してくれと全捜索を完全撤回だ」
レオンハルトが上機嫌で情報紙をテーブルに広げた。
「我が影の軍勢も、火の粉を払う手間が省けた。密偵どもは全員尻尾を巻いて逃げ帰っているよ」
影から現れたシオンも、満足そうに口元を緩ませていた。
だが、部屋の片隅で私の淹れた紅茶を受け取ったアーサーだけは、眼差しを一層柔らかく深くさせていた。
「王宮も諸国も、二度と君の邪魔はできない。君が勝ち取った自由だ」
アーサーが静かに歩み寄り、私の目の前で腰を落として目線を合わせてくれる。
「これからは追手を気にして影に隠れる必要はない。作りたいものを自由に作り、生きたいように生きればいいんだ。私とベルシュタット公爵家が全力で君の道を照らす光となろう」
まっすぐで優しい言葉に、胸の奥が温かい光で満たされていく。
私はフードをそっと後ろへと払い、幼く気品に満ちた素顔を、アーサーに晒した。
「ありがとう、アーサー、レオン、シオン。これからはエル工房として、店を構えるわ」
私の素顔を目にしたアーサーは、息を呑み、愛おしそうに目を細めて手元にそっと唇を寄せた。
「ああ、君が描く未来を一番近くで見守らせてほしい」
7歳の天才少女。
最強の仲間たちと、私を心から愛し守り抜いてくれる騎士を隣に携え、幕を開けた。




