第21話 宣戦布告
大陸中の強国が送り込んできた密偵や刺客たちが、闇の中でひそかに動きを活発化させていた。
だが、彼らが行動を起こす前に、シオンの率いる忍の一族が影から容赦なく処理し、レオンハルトの黒猫の目が各国の動向を筒抜けにしていた。
表舞台では、アーサーが率いる王立騎士団の精鋭部隊が外国勢力の取り締まりを名目に王都の要所を完全制圧。
王宮の強行策も、聖騎士団の侵入も、圧倒的な威圧感と権力によって一歩も踏み込ませない包囲網を敷いた。
夜、静まり返った工房の応接室。
レオンハルトとシオンが作戦準備のために席を外したとき、私はアーサーと二人きりになった。
窓から差し込む月明かりが、整った横顔と澄んだ氷藍色の瞳を静かに照らし出している。
「疲れていないかい、エル」
静かな声で問いかけながら、そっと距離を縮めてきた。
隙のない騎士団長としての冷徹さを漂わせている彼が、私と二人きりときにだけ見せる、柔らかく包み込むような眼差し。
温かさに触れるたび、私の胸の奥が熱を帯びて跳ねる。
「いいえ。愚か者が右往左往しているのを見るのは、むしろいい勉強になるわ」
強がってみせる私に、優しく微笑むと静かに片膝をついた。
「君がどれほど強大で、世界を相手取れるほどの知恵を持っているかは分かっている。だがね、私にとって君は、守るべき大切な存在なんだ。どれほどの魔力を持っていようと、君の自由と笑顔はこの命に変えても守り抜く」
彼の手が、私の手にそっと重なる。
手袋越しに伝わってくるまっすぐな熱と、迷いがない真摯な誓い。
過酷な伯爵家での日々が、彼の温もりに溶かされていくようだった。
フードの影で頬が熱くなるのを隠しながら、私は手をギュッと握り返した。
「勝手なことを言わないで。貴方が側にいてくれるなら悪くはないわ」
私の返答に、アーサーの瞳が大きく見開かれ、愛おしそうに目を細めた。
「ああ。君の盾となり剣となることを誓おう」
二人だけの甘く静かな時間が流れる中、最新の魔導通信機に手をかざした。
「アーサー、王宮と諸国に回答を叩きつけましょう」
王都全域、そして王宮の最深部にまで届く広域投影魔術を起動させた。
王都の夜空、そして王宮の玉座の間に、エメラルドグリーンの光で紡がれエルの紋章と、美しい文字が浮かび上がった。
「我が名はエル。自由を侵さんとするすべての愚者へ告ぐ。これ以上の捜索と介入を続けるならば、技術と魔力のすべてをもって、国脈を断つ』
圧倒的な魔力の波動と王都全体を包み込んだ宣戦布告に、王宮は恐怖で震え上がり、他国の密偵たちは一斉に息を呑む。
世界を敵に回そうとも、私には私を守り抜くと誓ってくれたアーサーがいる。
頼もしい相棒たちと、真の支配者としての第一歩を踏み出した。




