第18話 筆頭公爵家の嫡子
王宮による全戸強制捜索が空振りを続けた。
不穏な熱気に包まれる中、エルのブランド価値は天井知らずで跳ね上がった。
偽装具をはじめとする私の作品は、王宮のに不満を抱く貴族や大商人たちの間で争奪戦となり、レオンハルトを通じて莫大な資産が私の隠れ家へと流れ込んでいた。
ある夜、レオンハルトがいつもとは違う、緊張を帯びた面持ちで工房を訪れた。
「エル、王都で最も厄介で、最も力を持つ顧客から直接の面会依頼だ」
テーブルに置かれたのは、群青色の蝋で封かんされた最高級の羊皮紙。
王家に次ぐ筆頭公爵家ベルシュタット公爵家の家紋だった。
「レオン、貴方と同姓ね」
「まあな。俺の血筋でもある。今回、あんたに接触を求めてきているのは、腹違いの弟であり、次期公爵家当主アーサー・フォン・ベルシュタットだ」
アーサー・フォン・ベルシュタット。
若干15歳にして王立騎士団の最若手隊長。
容姿端麗かつ圧倒的な剣術と魔力の才能を持つと名高い。
その血筋と才能ゆえに無数の貴族令嬢から言い寄られながらも、浮いた話がなく、婚約者すら存在しない。
「アーサーは強引な捜索や魔法省の無能さに呆れ返っている。そして何より、エルの作った魔導具の熱狂的な信奉者だ。背景にある技術に深い敬意を払っているんだ。一人の個人として会いたがっている」
「面白いわね。筆頭公爵家の嫡子でありながら、王宮とは一線を画す男」
私はフードを深くかぶり、声を少年のように変え、夜の隠れ家の応接室で彼と対面した。
月明かりが差し込む部屋に現れたアーサーは、噂通りの隙のない佇まいと、澄んだ氷藍色の瞳を持っていた。
彼の手には、疲労軽減の指輪が嵌められている。
「はじめまして、天才魔導技師エル殿」
アーサーは、相手が小柄な存在であっても一切見下すことなく、完璧な騎士の礼を執った。
「私がここに来たのは、この指輪に込められた圧倒的で美しい術式に感動し、それを生成した貴殿という存在に敬意を評したかったからだ。そして貴殿を守る手助けがしたい」
「筆頭公爵家の嫡子が、王宮の意向に背くというのですか」
私が偽声で尋ねると、アーサーは薄く笑みを浮かべた。
瞳には、意志の強さが宿っていた。
「王宮は兵器として探しているが、私は革新だと思う。無能な伯爵家を潰し、魔法省を自爆させ、王宮の捜索網をあざ笑う貴殿の知恵と力、貴殿の作る未来に投資したい」
アーサーは胸に手を当てまっすぐに私を見つめた。
「公爵家の力と私の剣、地位のすべてをかけて、エルの自由を保護することを誓おう。婚約者もいない私には、純粋に貴殿の同盟者として隣に立ちたいのだ」
レオンハルトが影から守り、アーサーが表の公爵家の権力と武力で守る。
王宮が血眼になって探す少女は、筆頭公爵家の嫡子すらも魅力と圧倒的な才能で魅了し、王都の光と影の双方を完全に手中に収めた。




