第17話 王族の焦燥
伯爵家の完全な破滅と魔法省の機能不全。
大混乱の渦中で、王宮の最深部円卓の間では、国家の頂点に立つ者たちが極限の焦燥に包まれていた。
「見つからんとはどういうことだ。 王都全域を捜査させておいて、髪の毛一筋の手がかりもないだと」
第一王子が怒声を響かせる。
傍らでは、王立騎士団長と影の諜報部隊長が不敬を承知のまま平伏していた。
王族たちがこれほどまでに血眼になっている理由は、夜会の水晶の残骸から弾き出された計測不能な魔力量と、魔法省の最上部を一瞬で減退・発狂へと追い込んだ理論構造。
一国を一夜にして焦土に変えることも、世界の魔法技術を数百年先へ推し進めることもできる神話級の抑止力そのものだった。
「公爵家や他国の間諜に察知される前に、何としてでも王家に囲い込め。鑑査の全戸強制立ち入り許可を出す。女児は一人残らず鑑定せよ」
国王の勅令が下り、王都には国境封鎖並みの厳戒態勢が敷かれた。
王宮騎士団と影の捜索部隊が街を練り歩き、もれなく隅々まで捜索が開始された。
「外は随分と騒がしいわね。王族の方々も大変ね」
「必死どころの騒ぎじゃないさ。王宮騎士団が全戸鑑定に踏み切ったせいで、市民からは大ブーイングだ」
工房のソファに深々と腰掛けたレオンハルトは、不敵に口元を歪めた。
「俺たちの認識阻害結界の前に、そんな力技が通じると思うか」
工房の周囲には、私が前世の知識を組み合わせて作った複合結界が常時展開されている。
騎士団の目には誰も住んでいない古びた資材置き場としか認識できない。
彼らが踏み込んできたとしても、商業ギルドの不逮捕特権が立ち塞がる。
王族の威光すら届かない完全なる聖域が、完成していた。
「せっかくだからこの状況を商機に変えましょう」
私が差し出したのは、遮蔽の指輪と偽装のチャームだ。
「自身の魔力反応や気配を完全に偽装、隠蔽する魔導具か」
「王宮の強引な全戸鑑査に不満を抱く大貴族や、富豪たちに身を守る最高級のお守りで売り出すの。需要は溢れているはずよ」
「王宮の焦りをそのまま金に変える悪魔的な手腕だな」
レオンハルトは立ち上がり、裏の流通網へと指示を出しに走った。
数日後。
王宮がどれだけ捜索網を広げようとも影すら掴めない一方で、市場ではエルが手掛けた偽装具が競売で城が一軒建つほどの破格で取引されていた。




